好色爺さん、はしゃぐ
●典薬助、あこぎに話しかける
日が暮れます。
典薬助はハイパー浮き浮き状態です。
手足が勝手にひょこひょこ動いちゃって、一人でマンボなんか踊っちゃったりしています。途中で躓いたりこけたりしますが。
「ひょひょ~っ、ウッ!」
マンボもどきを踊りながら、あこぎに話しかけます。
「あこぎ、おまえはこれから私のことを大切に思うじゃろうねぇ」
典薬助はにやにや笑って、ところどころ欠けた痩せっ歯をむきだしにしています。
きもっ!
思わず身震いしてしまうあこぎです。
「どういう意味でしょうか?」
「わしはの、落窪の君との結婚のおゆるしを賜ったのじゃよ。おまえは落窪の君に仕える童じゃろう?」
この爺さん、今、何て言った!?
あこぎは耳を疑います。
数秒後、あまりの忌まわしさに涙がじゅわっと溢れてきてしまいます――が、なんとか冷静さを保ちます。
どういうことなのか、爺さんからしっかり聞きだしておかないと。
「典薬助殿が姫君とご結婚……さようですか。婿君がおいでにならないので、私も物足りなく寂しく感じておりましたので、これはこれは心強いこと」
「じゃろう? ひょひょ♪」
「ところで、姫君とのご結婚は、大殿さま(中納言)がお許しになられたのですか、それとも、北の方さまがそうおっしゃられたのですか?」
「中納言殿は私をごひいきくださっておいでだし、身内の北の方は当然のこと。どちらもご承知のことよ」
典薬助の顔は、スタミナドリンクのせいか、はたまた、あやしげな錠剤がやたらに効いてきたのか、赤みをおびて、妙にてらてら光っているではありませんか。
ぞぞぞ。あこぎのうなじの産毛が逆立ちます。
「で……姫君とのご結婚はいつなのでございましょう?」
「今宵よ」
「今日は姫君の忌日※です。嘘じゃありません」
「ひょひょ? じゃがなぁ、姫君にはすでに通っている男がいるとか。ぼやぼやしてられんよ。早くウェディングベルたらをキンコラカ~ンと鳴らすべし、と思うんじゃよ」
今宵じゃ、今宵じゃ、と浮かれて、典薬助は行ってしまいます。
※忌日――原典は「今日は御忌日なるを」となっています。忌日には生理の意味もあるのですが、ここは、陰陽道の占いに従ってさまざまなことを慎む日(物忌み)、と解釈しておきます。
●姫君、絶望する
とんでもない一大事!
姫君にお知らせしなくちゃ。
あこぎは足音を忍ばせ、小部屋へ近づきます。
地獄耳の北の方は、中納言のディナーのお世話をしているようです。中納言は歯が悪いので、雉肉などのおかずを細かく刻んでくれ、と言うのです。北の方は、めんどくさいから全部ミキサーにかけちゃおうかしら、などと思う今日このごろです。
あこぎはそっと戸を叩きます。
「どなた?」
「あこぎです。悪いお知らせがあります。大殿さまと北の方さま……いえ、北の方さまだと思いますが、典薬助殿を姫君と結婚させようとなさっておいでです」
「典薬助殿って、あの典薬助殿!? いつだったか、四条あたりで、猥褻物陳列罪で逮捕されちゃったとかいう噂の!? 髪の毛なんてもうまばらで髷も結えない、あのご老人!?」
「噂は存じませんが、はげちょろ髪の典薬助殿です。あの爺さんがここへ来ます。お気をつけなさいませ。姫君の忌日だと言ってはおきましたが。とんでもないことになりました」
ようやくそれだけを言って、あこぎは自室へ戻ります。北の方に見つかりはしないかと、いつもひやひやしているのです。
姫君は胸部をグーパンチされたかのような衝撃を覚えます。
本当に、胸がずきんずきん痛みはじめます。
死んだほうがまし!
死んだほうがまし!
痛みのあまり、床に突っ伏してしまいます。




