表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
35/105

パッキャマラド、パッキャマラド♪

●女房の少納言、姫君の不運を知る


 女房の少納言が、あのレディキラー弁の少将の文を言付かって、あこぎの部屋を訪ねてきます。

 少納言が姫君の縫い物を手伝った夜から、まだ丸二日は経っていません。弁の少将は、やはり落窪の姫君にご執心のようです。少納言をせっついたのでしょう。


「あこぎさん、姫君はどちらにいらっしゃいますの?」

「実は……」

 あこぎは涙ぐみながら、これこれと説明します。

「まあ! 姫君はどんなお気持ちでおいでなのでしょう。なぜ、こんな目にお遭いなさるのでしょう」

 少納言は驚き、あこぎともども、嘆き悲しみます。地獄耳の北の方に聞かれないように、忍び泣きです。


 この少納言は、後に、あこぎとともに姫君親衛隊の一人となって、中納言邸には、おさらばしていきます。勝ち組に加わるのです。



●笛の袋


 日が暮れるにつれて、あこぎはやきもきします。

 右近少将の君(道頼)のお文を、なんとかして姫君に手渡さなくては。


 そのころ。

 継母は、閉じ込めている姫君に、笛の袋を縫えと命じます。

 蔵人の少将の笛を入れる袋です。

 大きすぎず小さすぎず、きっちりきれいに縫って、房付きの括り紐も縫い付けなくてはなりません。体操着入れとか給食袋とかをこしらえるより、どう考えても手間がかかりそうです。


 例によって、継母は急がせます。

「さっさと仕上げるんだよ。今すぐ必要なんだから」

 なら、そのへんのホムセで買ってくれば?と言い返してやればよさそうなものですが、そういう態度は姫君はとりません。

 ただ、体の具合が限界に来ているのでした。起きあがることもできません。

「気分が……とても……悪いものですから……」


「何か言ったかえ? これを縫わないなら、下部屋しもべやへ押しこんでやろうかねぇ。こういう仕事を頼むために、おまえをここに置いてやっているんだよ」

 姫君は、スタンガンを押しあてられたかのように、びくっ、とします。


 下部屋は、下級の奉公人が寝起きする場所で、寝殿造りの敷地内では、本棟とは離れた場所、主に北側の庭の隅っこあたりに建てられることが多いようです。粗末な家屋です。


 下部屋には床板なんて無くて、地面の上に筵が敷いてあるだけなんじゃないかしら?

 そんな所へ私を押しこめる――北の方さまなら、なさるだろう。

 姫君は、苦しみながらも起き上がり、笛の袋を縫うのでした。

 鬼ババ継母は、横にじっと張りついて、監視します。ふーん……笛の袋ってのは、こういうふうにこしらえるのか、なんて感心しているのです。手先の不器用な鬼ババ。



●パッキャマラド♪


 小部屋のそばまでこっそりやってきたあこぎは、あっ、と小さく声をもらします。

 入口の戸が、わずかに開いているのです。

 今がチャンスと見たあこぎは、急いで、三郎君を呼んできます。

「このあいだは、お頼み申したことを引き受けていただいて、嬉しゅうございました。また、お願いしてもよろしいですか?」

「いいよ」

「このお文を、北の方さまがご覧になっていらっしゃらない隙に、姫君にお渡しください。決して、決して、北の方さまに気づかれないように、なさってくださいませ」

「わかった。まかせておいて」


 三郎君は、小部屋のなかへ入っていき、姫君の隣にちょこんと座ります。

 笛を手に取って眺めたり、くるくる回したり、遊んでいるふりをしていましたが――隙を見て、姫君の衣のなかへ文をすっと入れてしまいます。

 

「おまえ、何をしているんだね? 蔵人の少将殿の笛をおもちゃにしては、なりませんよ。こっちへ、およこし」

 母親=北の方が三郎君を睨みつけます。

 三郎君は笛を母の手に押しつけ、スキップしながら、小部屋を出ていきます。

 オ、パッキャマラド、パッキャマラド、パオパオパンパンパン♪


 やがて、縫い上がった袋を手に、北の方も姫君のそばを離れます。

「蔵人の少将殿! 蔵人の少将殿! 袋が縫い上がりました。お笛の袋が――」

 ドラ声を放ちつつ、母屋のほうへ行ってしまいます。


 姫君はようやく少将道頼からの文を読むことができます。

 けれど、返事をしたためようにも、筆も硯もありません。

 あるのは縫い針だけ。

 受け取った文の余白に、針で文字を刻みます。※


『人知れずお慕いしているこの胸のうちの思いも告げないまま、はかなく消える露のように、私は死ぬほかない運命なのですね』


※針で指先を刺して血で書いた、というような記述はありません。針で和紙を引っ掻いて書いた、と理解すべきところのようです。


 そこへまた継母が、ドラ声を張りあげながら戻ってきます。

「笛の袋は上出来だったこと。――おっと、遣戸やりど※を開けっ放しにしているとおっしゃって、殿(中納言)がお怒りだわ」

 継母が遣戸に鎖をさして行ってしまおうとするので、姫君は咄嗟に言います。

「あこぎに、櫛箱を持ってくるように、お伝え願えますか」


 うっせーわ!とは、このときの継母は言いませんでした。笛の袋が上出来だったので、機嫌がよかったのでしょう。奥へ向かって、ドラ声でがなります。

「あこぎぃ! 落窪の櫛箱を持っておいで!」


 あこぎが櫛箱を持って走ってきます(落窪の間は、継母が封鎖したはずですが、櫛箱を取りにいけたようです)。

 櫛箱があこぎの手から姫君へと渡るあいだに、姫君の返事(返歌)が書かれた文が、あこぎの手に渡ります。あこぎは文をすぐに懐にしまいます。 

 そして、それは道頼の手元へ届けられるのでした。


※遣戸――枢戸くるるどがいつのまにか遣戸になっていますが、遣戸も枢戸も並んで付いていたのでしょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ