幼くも賢い三郎君
●姫君への手紙とおむすび
姫君に召し上がるものを差し入れなくては。姫君の体調も心配だわ。
あこぎはあれこれと心配して、強飯(蒸したもち米)のおむすびをこしらえます。姫君宛ての手紙も書きます。
でも、どうやって、これを差し入れたらいいの?
そのとき、庭で遊んでいる幼い三郎君が目に入ります。姫君から筝の琴を習い、姫君にもあこぎにも懐いている中納言家の末子です。
「三郎君、ちょっとこちらへ」
「なあに?」
「姫君のことです。姫君は、今、北側の小部屋に閉じ込められておいでなのです」
「えっ?」
「大殿さまと北の方さまのお怒りに触れて、お咎めをお受けなさったようです」
「どうして?」
「どうしてか、あこぎも存じません。でも、姫君が臭い小部屋に閉じ込められておいでなのを、どうお思いになりますか? お気の毒にお思いには、なりませんか?」
「なるよ! なるに決まってるじゃない」
「それなら――」
と、あこぎは幼い三郎君の耳元に、顔をぐっと寄せます。
「誰にも気づかれないように、この手紙と強飯のおむすびを姫君に差し入れてもらえますか」
「うん。いいよ」
こくんとうなずき、三郎君は、あこぎから託されたものを懐にしまいます。落とさないように、お腹のあたりを手でしっかり押さえます。
●利発な三郎君の大活躍
三郎君は姫君が閉じ込められている小部屋の前にいます。
「ここ、開けたいよぅ! ここ、開けたいんだってばぁ! どうしても開けるんだからぁ!」
北の方がすっ飛んできます。
「何、騒いでるのっ! ここを開けたい、って、どうしてなの?」
「沓が中にあるんだもん。それ、取りたいんだもん」
「おまえの沓なんか、まだ無いでしょ。二郎君が履いてたのなら、あるでしょうけど」
「それだもん。お兄ちゃまの沓、履きたいんだもん。履きたいの! 今すぐ!」
三郎君は、鎖のさしてある枢戸をばんばん叩きます。演技派です。
そこへ、中納言が顔を出します。
中納言は末っ子の三郎君をかわいがっています。いつも甘いのです。
「沓を履いて得意顔で歩き回りたいんだろう。早く開けてやれ」
北の方は、三郎君の腕を邪険に引っ張ります。
「あとで開けるから。沓を取るのも、あとになさい!」
「やだ! 今すぐでなきゃ。――いいよ。こんなちゃちい戸、僕がぶっ壊しちゃうから」
「おいおい」
と中納言が笑いながら二人の間に割って入り、枢戸にさしてあった鎖を外します。
三郎君は枢戸をさっと開けて、小部屋のなかへ入ります。
一瞬も迷わず、滑るように動いて託されたものを姫君に手渡し、小鹿のように飛び出るのでした。
「おかしいな。沓、ここには無いや」
北の方のこめかみに、またも、ブチ切れマークが刻まれます。
「何かごまかしたね。ごまかしてないなんて言わせないよ!」
「知らないも~ん」
三郎君は逃げていってしまいますが、北の方は追いかけていって、首根っこを押さえます。
「お仕置きだよっ!」
ばしっ!
ばしっ!
末子の尻を本気でしばく鬼ババです。
臭くて薄暗い小部屋に、隙間から光が射しこんでいます。
姫君は、あこぎからの文をその光にかざして読むのでした。
『姫君さま、どうかお心を強くお持ちになってくださいませ。きっときっと、お救い申しあげます』




