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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻一
31/105

あこぎ、三の君に救いを求める

●あこぎ、三の君に救いを求める


 落窪の持ち物で、まだ目ぼしいものがあったんじゃないかしら、そうそう、あの櫛の箱……と、継母は落窪の間をあさりに来ますが、あこぎと鉢合わせしてしまいます。

「何かお捜しでございましょうか?」

 あこぎは、すまし顔で櫛の箱を磨き、厨子棚にしまいます。

 むむむ……。

 それをよこせと言うタイミングを外され、癪に障った継母は言い放ちます。

「ここはあたし以外は出入り禁止。今日からそうするからね」

 あこぎを外へ追いやって、落窪の間の出入り口のすべてにじょうをさしてしまいます。


 これで、よし。

 さあて、そろそろ典薬助てんやくのすけに話を持ち掛けるとしよう。人目につかない折を選んで、と。

 衣の裾をひるがえし、継母は行ってしまいます。――が、途中で振り返って、あこぎに怒鳴ります。

「いつ荷物をまとめて出ていくのかえ? ぐずぐずするんじゃないよ!」


 悔し涙に暮れるあこぎ。

 こんな邸、出て行ってやる!

 そんな啖呵も切るのですが、それは一瞬のこと。姫君のことが心配でならないのです。

 

 今、おすがりできるのは……?

 三の君?

 そうよ! あのお方しかいらっしゃらない。

 あこぎは三の君に宛てて文をしたためます。


『私の身に覚えのないことで北の方さまがお怒りで、解雇を申し渡されてしまいました。

 辛うございます。失業保険が下りるかどうか、そんな心配をいたしているわけではございません。

 三の君さまへのご奉公の途中で辞めてしまうことになる、それが悲しいのです。

 どうか、北の方さまにお怒りを解いていただけるよう、お取り成しくださいませ。


 私は、落窪の君には小さいころよりお仕えしてまいりましたが、ご存じのように人事異動がございました。落窪の君が最近どうなさっておいでかは、よく存じません。

 

 三の君さま。やさしく召し使ってくださり、私も真心でお仕えもうしあげてまいりました三の君さまのおそばを離れて、このお邸を出ていくのは、あんまりなバッドエンドでございます。

 ずっとずっと、三の君さまにお仕えしとうございます。――三の君さまの忠実な侍女にして、今はただ途方に暮れるばかりのあこぎより』


 三の君は、あこぎの文を額面通りに受け取り、同情します。母である北の方=鬼ババに話を持っていきます。

「あこぎまで叱ったのは、どうしてですの? いつも身近に召し使っておりますのに、あれがいなくなったら不便ですわ。解雇は取り消してやってくださいませ」


「なんとしたこと! おまえまで丸め込まれるとは。大した女童だねぇ、まったく。今度のことはね、何もかもあの女童が仕掛けたこと。落窪が自分の意思で男を通わせたんじゃない。あたしはそう睨んでいるよ。あのうすぼんやりした落窪には、まだ色気心なんかありゃしないよ」


 この時点で、三の君は、落窪姫の恋の相手は帯刀だと思いこんだままでいます。

 継母は、その相手が、三の君の婿さんである蔵人の少将が太刀打ちできないほどの美形であることを、黙っています。


「でも、お母さま……。今回だけは、やはり解雇を思いとどまってくださいましな。こんなふうに文をよこすなんて、いじらしいじゃありませんの」


「それほど言うなら、まあ、おまえの好きにするんだね。だけどね、あの女童にあまり気をゆるしては、なりませんよ」

 母・北の方は、眉間にくっきりと縦皺をよせるのでした。


 三の君はあれこれ考えます。

 う~ん……巻きこまれるのは、ちょっと面倒くさいかもね。

 というわけで、あこぎをすぐに呼び寄せるでもなく、短い文をしたためます。

『しばらく辛抱なさい。母上には、いずれ、上手にお願いしてみますから』



●あこぎの苦悩、姫君の悲痛


 あこぎは不安でたまらず、気が変になりそうなほどです。

 北の方は姫君にお食事もさしあげないだろう。

 北の方なんて呼ぶのもバカらしい。鬼ババでいいんだ、鬼ババで。

 鬼ババ、許すまじ!


 あこぎは思います。

 あの鬼ババと対等の身分になりたい。

 対等だったら、復讐してやれるもの!

 リベンジよ、リッベ~~~~ンジ!!!

 あ……なんだかドキドキしてきちゃう……。


(わが身、ただ今、人と等しくてもがな、報いせむと思ふ胸走る)


 少将の君は夜になったらおいでになるだろう。姫君にお逢いになれないとお知りになったら、どうお思いになるかしら?

 もはやお逢いになれない姫君――いやだわ、なんだか不吉だわ、まるで、まるで……姫君が亡きお方であるかのよう……。

 

 あこぎは、自分の連想に怖くなり、またも激しく泣いてしまいます。

 すると、そばにいた女童のつゆも動揺したのでしょう、

「あこぎさん、あこぎさん、泣かないで。あこぎさんが泣いたら、つゆも悲しいよぅ……」


 一方、姫君は――

 酢や酒や魚の臭いに満ちた部屋で、まんじりともせずにいます。

 もし、私が死んだら、少将の君とは、もうお話しもできなくなるのね。

 微笑みながら、布を引っ張ってくださっていた、あのお方。

 つい昨夜のことなのに、遠い遠い昔のよう……。

 

 それにしても、なぜお父さままで、このような仕打ちをなさるのかしら?

 

 精神的ショックと脱水症状とで、姫君の意識は遠のいていきます。

 低体温症状も出始めているかもしれません。十一月の末、現在の暦でいえば十二月。食料貯蔵室に火桶は無さそうですよね。

 姫君の運命や、いかに?



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