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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻一
30/105

姫君、臭い部屋に閉じ込められる

 ●あこぎ、解雇を言い渡される


 継母が姫君の腕を引っ張って、落窪の間から出ようとしたまさにそのとき、あこぎが自室から飛び出してきます。継母が姫君に投げつけた難くせを、すでに耳にしたようです。

「大殿さま(中納言)は、いったい、どんな噂をお耳になさったのですか。姫君はなんの過ちも犯しておいでにはなりませんのに」

「あこぎ! よけいな差し出口をたたくんじゃないよ! ――落窪は、いったいどういう了見で不始末をしでかしたのやら。中納言殿は、私には隠しておいでだったのだけどね、外でお聞きになって、おっしゃるのだよ。――あこぎ、おまえは、善悪もわきまえない主人をありがたがって、私の大事な大事な三の君より幸せにしよう、はるかにまさって幸せにしようと、思い上がったね」


「思い上がってなど――」

「思い上がったであろう! わかっておるわ。あこぎ、さっさと出ておゆき。この屋敷から出ておゆき!」

「北の方さま――!」

 何かとんでもない事が起きようとしている。あこぎはそう察知して、恐怖のあまり、凍ったように動けません。


「さあ、落窪、来るんだよ。父上からおまえにお話がある」

 継母は姫君の衣の肩先を引っ張ります。

 凍りかけていたあこぎは、ぶるぶる震えています。大泣きに泣いています。

 姫君は生気もなく、茫然となっています。


 継母は、姫君の脇息きょうそくやら裁縫箱やら、あたりのものを蹴散らしながら、罪人を捕縛した検非違使けびいし(警察)の役人さながら、情け容赦もなく姫君を引っ張っていってしまいます。


 北の方は姫君をどうなさるおつもりなのか?

 あこぎは、目の前が真っ暗になり、とめどなく涙があふれてくるのですが、なんとか気を静めて、継母が蹴散らしていった物を片づけるのでした。



●姫君、臭い部屋に閉じ込められる


 中納言の部屋です。

 茫然とした姫君を、継母は床に投げつけるように座らせます。

 バンッ!

「やっとのことで連れてきましたわ。手こずらされましてよ」

 鬼畜と化した中納言は、娘のほうを見ようともしません。『アホでもわかる株式投資』とかいうソフトカバーの頁を繰っています。

「早くどこかへ閉じ込めてしまえ。顔も見とうないわ」


 姫君は、またも継母に引っ張られたり小突かれたりして、北側の小部屋※へ連れていかれるのでした。

 くるる戸※の付いたその部屋には、酢や酒や魚などがごたごた置かれています。

 塩漬けの魚の発酵臭でしょうか、強烈な臭気が鼻を突きます。


 継母は、戸口を入ってすぐのところに、薄縁うすべり(畳カーペット)を一枚敷くと、姫君に言い放ちます。

「自分勝手なことをした罰だよ」

「お母さま、お願いです――」

 継母は、泣いて縋りつこうとする姫君を荒々しく押し返します。枢戸をさっと閉じて鍵をかけ、行ってしまいます。


※北側の小部屋――寝殿(寝殿造りの中央の棟)の北側にある孫廂(まごびさし)に仮設された食料貯蔵室と思われます。孫廂は廂のさらに外側に設ける廂です。

 中納言邸はごく平均的な寝殿造りらしく、寝殿のほかには東西の対の屋(既婚の長女と次女が使っている)があるだけのようです。

 本文からは、北の対がある、とは読み取れません。

 継母が姫君を監視するためにも、姫君を閉じ込める場所は寝殿内部にある必要があるでしょう。


枢戸(くるるど)――押し開き式の扉。蝶番を使わない。扉の回転軸となる長辺の上下に突起(枢)を設け、長押なげしと敷居に窪みを穿ち、その窪みに突起を嵌めこんで扉が回転するようにしたもの。

 構造的には、寝殿の母屋に取りつける妻戸と同じもののようです。同一のものを、取りつける場所によって、枢戸とも妻戸とも呼んだ、という説もあります。


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