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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻一
27/105

信じられない光景

●任しとき!


 帯刀は、大失態を悔やんで落ちこむうちに、体の変調さえきたしたようです。

 この人のそばにいてあげたいな、とあこぎは思います。

 姫君のおそばには、少納言の君がいてくれるはず。

 じゃあ、半日ほど、いいかしら?

 あこぎは帯刀と自室に籠っています。


 姫君は、押しつけられた装束の仕立てが大幅に遅れているので、焦っています。

 下襲したがさねは縫い終えましたが、うえのきぬ(衣冠束帯姿のとき、いちばん上に着る礼服)が手つかずです。折り目つけから始めなければなりません。


 裁断した布地には、先ず、縫っていく部分にあらかじめ筋をつけておく必要あります。

 二人で協力しあったほうが、速く楽に進められる作業です。一人が布をぴんと引っ張って、もう一人が、縫い代幅を取って、折り目をつけていくのです。

 今ならアイロンを使って容易にできますけれどね。


「困ったわ。あこぎを呼んでこないと。布を引っ張ってもらわないと」

 すると、道頼がぱっと顔を輝かせ、

「それ、私がやる。任しとき!」

「とんでもないことですわ。殿方にお願いするなんて、できません」

 

 道頼は、誰かにいきなり覗かれないように、几帳を襖障子の前に(あるいは遣戸の前に)据えます。ごろんちゃらんしていたのですが、ちゃんと起きて、背筋を伸ばします。

「いいから、いいから。私に任せて。何をやらせても手際がいいんだからね、私は」


 というわけで、道頼と姫君は向かい合って座り、仲良く作業を始めるのでした。

 こんなの朝飯前、ちょろいわ、と涼しい顔で手伝いはじめた道頼ですが、いつのまにか肩に力が入ります。

 こう引っ張ったらいいかな? きつく引っ張り過ぎかな? 

 布を引っ張るだけなのに、えらく気を遣っています。


 姫君は笑いながら、布に折り目をつけていきます。

「四の君とのご結婚話、本当でしたのね。四の君にお通いになるお許しを得ていたのに、素知らぬお顔をなさっておいででしたのね」

「あほくさ。弁の少将があなたを迎えとってしまうようなことが起きたら、私もあなたに遠慮せず、こちらへ婿入りするけどね」



●継母、信じられない光景を目にする


 真夜中。

 継子の監視をせずにはいられない継母が、またも、窪の間へやってきます。こういうときは、狐のように音も無く歩く継母です。

 落窪のやつ、縫い物を放って寝てるんじゃないだろうね? 

 継母は垣間見の穴※から覗きます。


※垣間見の穴は、この段で初めて出てきます。襖障子か遣戸か、どちらかに覗き穴が設けてあるようです。怖いですね~。


 おや? 少納言はどうしたんだろう? いないじゃないか。

 それにしても、この手前に据えてある几帳がじゃまだね……いまいましい。

 

 継母は監視の達人ですから、「家政婦は見た」の立ち位置にこだわらず、顔を覗き穴にぐっと寄せたりして、斜め方向からも覗きます。

 姫君がこちらに背を向けて、布地に折り目をつけているのが見えます。

 そして――


 こ、これはどういうこと!?


 姫君と向かい合って、布を引っ張っている男がいるではありませんか!

 男は、目にも鮮やかな色合いの衣を重ね着していて、一枚の衣を腰回りに巻きつけています。脱いだセーターやカーディガンなどを腰巻きスタイルにする感じでしょうか。

 道頼は、姫君と何度もいちゃいちゃするうちに、毎回きちんと着直すのも面倒になって、重ね着していた衣を何枚か脱いだままにしているのでしょう(おそらく)。


 継母は、アホみたいに口をぽかんと開けたまま、ぼーっとしてしまいます。いきなり、顔面パンチを喰らった気分です。

 灯台の明りに照らされた男の顔は、息をのむほどに、超美形なのです。

 継母は、ふと、お気に入りの婿さんである蔵人の少将の姿を思い浮かべます。

 

 蔵人の少将、負けてる……。

 鼻差、首差なんていう僅差じゃなくて、ぶっちぎりの負け。

 お気に入りが否定されてしまうと、なぜか自分が否定されたように感じ、動揺してしまう継母なのでした。



●継母、地団駄を踏む


 継母は思います。

 まあ、感づいてはいたよ。落窪のやつが男を通わせているような気配には。

 でも、相手は大した男じゃないんだろうと想像していた。

 ところが、なんとしたことだろう!

 今、落窪の間にいるのは、どう見てもただ者じゃない。

 しかも、あんなふうに落窪に寄り添って、それは女のやることと笑われるのも厭わずに、折り目つけの仕事を手伝うなんて。落窪への愛情は並みのものじゃない、ってことだ。

 

 落窪が男に愛される?


 冗談じゃない!

 あれが幸せをつかんだら、こっちの思い通りにできなくなるじゃないか!


 あれこれ考えるうちに、継母は、縫い物のことなど忘れ、忌々しさの沼へどっぷりはまりこんでしまうのでした。その場から、動けません。

 室内から二人のやりとりが聞こえてきます。

 

 道頼は姫君に話しかけます。

「慣れないことをして、さすがにちょっと疲れてきた。もうギブアップ。あなたも、縫い物はおしまいにしてやすんだほうがいい。北の方に、いつものように腹を立てさせたらいいよ」

「北の方さまがご立腹なさるのを見るのは、いやです。辛い……」

 姫君は縫い物を続けようとします。

 すると、灯火が消えてしまいます。

 道頼が扇であおいで、消してしまったのです。


「無茶をなさいますね。縫い物をちゃんと片づけてもおりませんのに」

「そんなもの、その辺に引っかけておけばいいさ」

 道頼は姫君が縫っていた袍をくるくると丸め、几帳にかけてしまいます。

「さあ、おいで――」

 やさしくささやいて姫君を抱き寄せ、ハグ&キス&ほにゃららを始める道頼なのでした。


 二人の会話を漏れ聞いてしまった継母は、忌々しさの沼の泥にまみれます。

 いつものように腹を立てさせたらいい?

 いつものように、という部分に継母はカチンときています。

 

 やたらに腹を立てるくせに、わかっているのです。腹を立てる人間は醜い、と。

 自分=醜い。

 やだわ! 受け入れられない!

 

 あの男は以前から、あたしが腹を立てると噂に聞いていたのだろうか?

 それとも、落窪があの男に話したのか?

 きっと落窪のやつだわ。そうに決まってる!

 継母のこめかみに、ブチ切れマークが刻まれます。


 

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