道頼、嫉妬する
●道頼、嫉妬する
女房の少納言が去ったあと、道頼は几帳の帷子を押しひらいて出てきます。
「しゃべりの面白い人だな、器量よしだな、と少納言に最初は高い点をつけたんだどね、交野の少将、じゃなかった、弁の少将をあんなに持ち上げるなんて。オーランド・ブルームの三割増しとか、少納言はもう老眼なのかいな。うんにゃ、こっちが老眼になって、もう少納言の顔も見たくない」
「…………」
「あなたは几帳のほうをチラ見しながら居心地悪そうにしてたけど、下手なことは口にしなかったね。でも、もし、私がここにいなかったら、反応が違ってたんじゃないのかな? 少納言にゴーサインを出したかも。弁の少将から文を言付かってきてもよくってよ、とか」
道頼、切れてます。
「弁の少将が文を寄越したりしたら、私たちの仲はそこで終わり、だからね。あの男は、色恋にかけては不思議な能力の持ち主なんだ。たった一行、女性に文を贈っただけで、ロックオン完了。人妻だろうが帝のお妃だろうがモノにしてしまう。そういう成功に溺れて、出世のほうは、もうドン詰まりって感じだけど。――とにかく、あの男には何人もの女性がいる。それでもさらに、あなたを大切なお方として迎えたいなんぞと宣うとは、あなたへのご執心は並大抵じゃない、ということになるね」
道頼にとって落窪の姫君は、自分だけが知る「この世に隠されていた宝石」でした。
ところが、よりによって、悪魔的な色男が横合いから登場したのです。
ひょっとして姫君がそいつになびいちゃう、なんてこと、あり? 無いさ! いや、あるかも……。なんたって、弁の少将は色恋の達人なのだ。
くそ! 何だよ、この番狂わせは?
むしょうに腹が立ってきて、つい、姫君にぷんすかぽんすか当たってしまいます。
道頼、自分では気づいていないけれど、姫君にもうメロメロになっているわけです。
姫君は、なぜこんなふうにおっしゃるのだろうと、ただただ困惑するばかりで、何も言えずにいます。
「どうして何も言ってくれないの? あなたが密かに憧れていたことを、私がクソミソに否定してみせたから? この京の都では、女性は誰もかれも、あの交野の少将もどきの弁の少将に夢中になるんだ。はは、羨ましいなぁ」
ようやく姫君は、小さな声で、ぽつりと言います。
「私は……都の女性の数には入りません」
「あなたが数に入らないなんて、謙遜するにも程がある。高貴な血筋の姫君だもの、中宮(=皇后)になるのも夢じゃない。うん。本気でそう言うんだけどね」
道頼のブチ切れモード、あっさりとオフになります。




