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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻一
25/105

弁の少将は、ちとイタい

●少納言、弁の少将=交野(かたの)の少将のことを語る


 少納言のおしゃべりは、さらに続きます。

「ところで、弁の少将の君のご評判は、お聞き及びでいらっしゃいますよね?」

「弁の少将の君?」

「ご存じないのですか? 今、話題沸騰の美男子ですわ。私の知るかぎり、女房たちの九割の()()なんですのよ」

「きゅ、九割!」

「若いころのオーランド・ブルームのさらに三割増し、ってくらいに甘いマスクで。『交野の少将』なんてあだ名で呼ばれておいでです。ふふふ」


 弁の少将――少将がすでに二人登場しているので、まぎらわしいですが、権官(副官)なのでしょう。少将は、左右の近衛府に正官が一人ずつ(計二人)、それに権官が一人~二人で、院政期にはさらに増えていきます。弁は弁官(文官、大中小の階級がある)で、小弁と少将を兼任している人物のようです。


 交野の少将――散逸した平安ラノベ、十世紀末の大ベストセラーだったと推定されている『交野少将物語』の主人公です。キャラは大変な色好み。われらが道頼クンは、このあと、落窪姫への純愛を貫きますが、交野の少将はプレイボーイなのです。ということは、弁の少将も――?


「で、私のイトコが、弁の少将の君に女房としてお仕えしております。私がイトコの曹司に遊びにいったとき、弁の少将の君が私に話しかけてくださいまして」

「そうでしたか」

「弁の少将の君のお顔のお美しさといったら、ええそりゃもう、この世のものとは思えませんでしたわ」

 道頼は几帳の陰で、『じゃあ、あの世のもの、ってか? あいつ、美容整形に通ったって噂だぜ。少なくとも歯列矯正はしてるよな、どう見ても。あほくさ!』などと思いながら、聞いています(おそらく)。


「弁の少将の君が、『中納言邸には何人も姫君がたがおいでだそうだが、どのような姫君がたなの?』とお尋ねになりまして」

「お答えになったのですか?」

「はい。そのとき、姫君のお身の上についてもお話ししましたら、大変にご同情なさっておいででした。『私の理想の女性だ。うん、ビビビ!っときた。なんとしても、文をお贈りしたい』と、おっしゃいまして」

「まあ……」



●弁の少将の好みのタイプ


「私は、姫君は実のお母上というご後見がおありではないので、ただ心細く、今は結婚について何もお考えではいらっしゃらないようですが、と申し上げたのですが――弁の少将の君は、『まさに、そこなんだ!』とおっしゃって」

「……?」

「『実母を亡くし、継母に育てられている。お気の毒だ。そういうところに心惹かれちゃうんだな、私は』と」

「…………」


「『不幸を背負っていて翳かげりがあって、もののあわれを解している、そして顔がかわいい――そんな女性がチョモランマの頂きに住まうなら、私はそこまでも目指そうと思う』と、弁の少将の君はおっしゃって」

「ほえ……」


「『御息所(みやすどころ)であられる我が姉上は――今ちょうど、こちらでお過ごしでね――両親そろっておいでだけれど、もののあわれを解される。そして、お美しい。理想的でしょ? でも、両親そろっている娘というのは、たいがい、のほほんとしていてノーテンキなんだよねぇ。もののあわれ? 何それ、食べられるの、おいしいの?――そういうの、お呼びじゃないんだな、私は』」

「ほえ……」


 御息所――後宮に入った女性。もともとは帝・皇太子・親王のキサキを漠然と指す名称だったようですが、徐々に変化したようです。『落窪物語』が書かれた当時は、皇太子妃を指していた、と思われます。

 実姉であっても皇太子妃であるので、弁の少将は敬語を使います。

 御息所は、ちょうど今、実家(弁の少将も住んでいる)に里下がりをしている、それで話題にとりあげられた、ということなのです。


「弁の少将の君は、『中納言邸で窮屈なお暮しをなさっている姫君を、私の大切なお方として、私の邸に住まわせてさしあげたい。本気だよ』と、とても熱心にお話しなさっておいででした」

「…………」

「そのあとも『例の件はどうなった? 姫君に文をさしあげてもいいかな?』と、私にご伝言がありまして。私は、姫君にお伝えするよい機会がまだありません、いずれそのうちに、とお答えしました」

「…………」



●少納言、自室へ退()がる


 そこへ、少納言の女童がやってきます。少納言を客が訪ねてきている、曹司(少納言の私室)へ戻ってほしい、と言います。何か急いで伝えたいこともあるようです。

 少納言の恋人が曹司に忍んできたのかもしれません。

 宮廷でも貴族の邸でも、女房たちは自由恋愛を謳歌しています。


 少納言は姫君に、

「姫君のお相手を務めるつもりでおりましたが、急な用事ができてしまいました。曹司に退()がらせてください。お聞かせしていないことが、まだたくさんあるんですけれど。弁の少将の君は、ほかにもいろいろと艶っぽいお話をご披露なさったんですよ。また今度、詳しくお話しいたしますわね。――北の方さまには、私がこうして曹司に退がったとは、おっしゃらないでくださいませ。知られたら、雷が落ちます。くわばら。――用事をすませましたら、またすぐに参ります」



●以下、お暇があれば、お読みくださいませ


『交野の少将』とあだ名される弁の少将。

 女性は不幸を背負っていないと、もののあわれを解さない――だから不幸な女性が好き! ただし、かわいこちゃんに限る。

 多くの女性と遊びすぎたせいで、ごくふつうのお嬢さまでは飽き足らなくなっているようです。

 弁の少将=交野の少将は、ちとイタい奴、ですね。


『落窪物語』の作者は、当時の大ベストセラー『交野少将物語』を風刺しているわけですが、これは作者の余裕の遊び心ですね。ラノベ業界内のお遊び、でしょうか。


 当時のラノベ作家同士、こうして遊びつつ、業界を盛り上げようとしていたのかもしれません。

 どちらの物語も愛読していたと思われる清少納言と紫式部。二人も、この場面では、くすっ、と笑ったのではないでしょうか。


 まったくの想像ですが、『落窪』の作者と『交野』の作者は、業界人同士ということで、親しかったかもしれませんね。


「貴殿の『交野』、えらい人気どすな」

「おかげさまで」

「コミカライズの打診、来てはるのんとちゃいますか?」

「コミカライズは、とっくに。今、アニメ化の話が――」

「えっ! アニメ化ですか! そら、ごつい話どすなぁ。おめでとうございます」

「ありがとうございます。でも……百年、いや千年読み継がれるのんは、貴殿の『落窪』のような気がします。なんとなく、そんな気が」

「千年! ははは。笑わさんといてください」



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