心やさしい女房・少納言
●女房の少納言、姫君を手伝う
北の方は苛々しています。
手元にあるのは「装束縫製進行表・部外秘」です。
ポン・デ・ダブル宇治抹茶Ⓡ三個を一気食いしては、綾鷹Ⓡをボトルからがぶ飲みし、表に目をこらします。
「とにもかくにも、装束はすべて縫い上げなくちゃ。三の君の婿君、蔵人の少将殿の晴れ着なのだから。仕上げないでは、ウチの面子が丸つぶれになるじゃないの。落窪はぐずぐずしてるし、助っ人を送りこんだほうがよさそうね」
というわけで、少納言と呼ばれる女房(中納言家の侍女)が、落窪の間へやってきます。
夜です。
道頼はまだ几帳の陰に隠れています。――このあたり、時間の流れが現実ばなれしていますが、作者のご都合につきあいましょう。
少納言は、ソーイングビー・クイーンの姫君にあれこれ教わって、裁縫を始めます。
道頼は、例によって、女性観察を怠りません。
少納言か。なかなか感じがいいじゃないか。上品そうだ。この邸にこんな女房がいたのか。
姫君は、針仕事を進めながらも、ときどき涙ぐんでしまいます。いろいろショッキングなことが重なった一日でしたから。
そんな姫君のようすに、少納言は心を痛めます。
「実は……姫君のことは前々から気になっておりました。こっそりと姫君にお仕えしたいと望んでおりますが、難しいことのようです」
「そのお気持ちだけで、嬉しいわ」
「私、本当に納得がいきませんの。継母である北の方さまが姫君を邪険になさるのはしかたがないとして、ご姉妹である四人の姫君がたまで、ご自分からすすんで姫君にお声をお掛けしないなんて」
「…………」
「ところで、三の君さまに続いて、四の君さまの縁談話が持ち上がっているようですわ。北の方さまのお考えひとつで、お話が進んでいるようです」
「それはおめでたいお話ですね。どなたを婿君としてお迎えなさるのでしょう?」
「左大将殿のご子息の左近少将※だとか、うかがっております」
「…………」
※道頼は右近少将として物語に登場しました。左近少将へ昇進したと解釈することもできますが、ここまでの短い時間経過を考えると、作者の単なるミスか転写ミスと考えるほうが妥当のようです。
いずれにしても、道頼はこの後、笑っちゃうくらいのスピードで出世していくのですが。
「うんと若いころのベネディクト・カンバーバッチのさらに三割増し、ってくらいのイケメンでいらっしゃるとか。どこまでご出世なさるかわからないほど有能なお方のようですよ。帝もご信任あそばしていらっしゃるそうで。まだ、奥様と呼べるようなお方は、一人もいらっしゃらないそうです」
「…………」
「中納言殿が乗り気なのよ♪、と北の方さまがおっしゃって、とてもお急ぎになっておいでのようです。四の君さまの乳母が左大将殿のお邸にお仕えする人を知っていたので、北の方さまは、ラッキー!と大はしゃぎで、お文を何度もあちらへ送らせているようです」
姫君はどのように感じているだろう?
几帳の陰から覗いている道頼は、姫君の表情を読もうとします。
姫君は微笑んでいました。灯火の明りに照らされたその横顔は、まことに愛らしく、同時に、気高くもあるのでした。
「とても喜ばしいお話ですわね。お相手の少将の君は、どのようにおっしゃっているのでしょう?」
「私は存じませんが、『よい縁談話だ』とおっしゃったのかもしれませんね、北の方さまのごようすを拝見すると。北の方さまは、内々にお話を進めておいでです」
嘘だ、と道頼は返事をしたかったのですが、思いとどまります。
少納言のおしゃべりが続きます。
「四の君さまも婿君を迎えられたら、姫君のお針の仕事がまた増えて、さらにお辛いことになりましょう。姫君こそ、よいご縁談話がおありでしたら、ご結婚なさいませ」
「私のような見苦しい者が、結婚なんて思いもよりません」
あたし、もう結婚しちゃってるの、とドヤ顔をするわけにはいかないにしても、この場面の姫君はしらじらしいですね。少将道頼に、結婚を正式に発表したいと、告げられているというのに。ゼクシィ難民の女性読者は、大いにムカつきましょう。
「どうして、そんなふうにおっしゃるのです? こちらのお邸で大切にされていらっしゃる姫君たちのほうが、むしろ見劣り――」
おっと!
少納言は笑って言葉を濁します。




