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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻一
22/105

継母、裁縫テロを仕掛ける

●少将道頼、姫君を連れ出す決心をする


 六日目の晩、再び、少将道頼は姫君のもとへ通います。

「私の文にどうして返事をくれなかったの?」

「それは……あの……北の方さまがおいでになられたのです。時間がございませんでした」

 苦しい嘘でごまかす姫君でした。


 さて、翌朝――。

 道頼、またも帰りそびれてしまうのでした。

 姫君とのお別れのいちゃいちゃが長引いたのです(おそらく)。

 奉公人たちが起きだして、仕事を始めています。これでは、中納言邸から忍び出ようにも出られません。人目についてしまいます(そうなるのはわかりきってたでしょ、というツッコミは抑えてくださいませ)。


 落窪の間で、道頼はごろんと横になって、姫君にあれこれ話しかけます。

「四の君というのは、おいくつぐらいなの?」

「十三、四歳ぐらいです。おかわいらしい姫君です」

「じゃあ、あの話は本当なんだ」

「あの話?」

「実はね、こちらの中納言殿が、四の君と私との縁談に乗り気だとか」

「…………」


「四の君の乳母が、私の父の侍女の一人と懇意でいるらしくてね。父の侍女に手紙をよこしたらしい。その手紙によると、こちらの北の方も大乗り気だそうな。で、父の侍女が私の乳母に、こうこうと説明したらしい。乳母というのは世話焼きだからね。私に、いかがなさいます、いかがなさいますと、このごろうるさくてね」

「そうなのですか……」


「私はあなたと結婚したことを正式にマスコミ発表したいんだけど、そうしてもいいよね?」


 姫君は困惑します。

 中納言ばかりでなく、北の方=継母が、四の君と少将道頼との縁談を進めようと考えているならば、継子である自分の出番はない。自分がすでに少将道頼の妻だと知れたら、私はバズーカ砲で吹き飛ばされ、それでもおさまらず、そこらじゅうにミサイルが着弾してしまう。――姫君はそのように思い悩みます。

「それは……困ります」


 どこかまだ幼さの残る目もとに涙が浮かんでいます。道頼はいとおしく思います。

「あなたが困るなんて、私が辛い。こんなふうに人目をはばかって通ってくるのも、もうバカらしい。ちゃんとした邸を用意する。あなたはそこへ引っ越すんだ。いいね?」

 姫君はこっくりと頷きます。

「少将の君さまのお心に従います」

「じゃあ、決まり」

 ハグ&キス。

 二人はまた、ラブラブモードに入ります。



●継母、裁縫テロを仕掛ける


 道頼が落窪の間でごろんちゃらんしていると、継母が、裁断済みの袴の生地を使いの者に持たせてよこします。

「蔵人の少将の君さまのお袴です。蔵人の少将の君さまは、賀茂の祭りの舞人をおおせつかったそうです。北の方さまは、たいそうパニクっておいでです。この袴、すぐにお仕立てください。裁縫のお仕事は、ほかにも山のようにあるそうです」

 

 賀茂の臨時の祭り(毎年恒例でも臨時の祭りと呼びます)の舞人に選ばれるのは、大変な名誉です。

 蔵人の少将を婿取っている中納言家は、真新しい装束一揃いを用意しなければなりません。


「承りました。すぐにとりかかります」

 姫君はそう返事をしましたが、道頼は不服そうです。

「ノンノンノン。あなたが縫い物にしゃかりきになったら、私一人、ここでのんびりするのも気がひける。そんなの、うっちゃっておけばいい」

「そういうわけには……」


 そうこうするうちに、今度は継母本人が、裁断済みの下襲したがさねの生地を持って、落窪の間に乗り込んできます。

 もちろん道頼は、一瞬早く、例によって几帳の陰に隠れたのです。継母はドスドス足音をたててやってくるので、事前に察知できたのですね(おそらく)。


 下襲は、上着に長い長い裾が付いたような衣で、いわゆる衣冠束帯姿の一部を構成するものです。ものすごく仰々しい装束で、これを手縫いするのは、どれほどの重労働だったことでしょう。


 継母は、袴の縫製が手つかずになっているのを見て、ギョロリと目を剥きます。

「袴はとっくに縫い上がっていると思ったのに! 私を舐めてるのかえ?」

「申し訳ございません。気分がすぐれなかったものですから、ちょっとぐずぐずしてしまいました。お袴は、今すぐ、お仕立てもうしあげます」


「今すぐ? 寝ぼけ半分にいきなり立ち上がろうとする馬みたいに、慌てふためいているそのザマは何だい? 猫の手も借りたいほどに忙しいから、おまえにも裁縫仕事を頼んでいるのだよ。この下襲も仕上げられないようなら、もうこの邸にはおいておけないね。とっとと出ておゆき!」

 継母は、下襲の生地を姫君に投げつけ、部屋を出ていこうとしますが、そのとき――

「おや? そこの直衣は誰のものかえ?」

 ドキッ! 

 そばに控えていたあこぎの心臓が跳ね返ります。


 道頼が脱いでそのままになっていた直衣のうしが、几帳の端からのぞいていたのです。

 咄嗟に、あこぎは言いつくろいます。

「姫君が、ある人から仕立てを頼まれたものです」


「ふん! よそからの頼まれものを先に縫って、私が頼んだものは後回しにするのかえ? よくこの邸で寝起きできるものだね。どういう神経をしているんだろう、まったく!」

 ドスドスドス。

 鬼ババ継母は部屋を出ていきます。


 この展開を、道頼は几帳の陰で見ていました。

 部屋を出ていく継母の後ろ姿は、先日とは印象がずいぶん違います。

 

 継母は、七人も子供を産んだからでしょうか、髪が薄くなっています。その髪も長さは腰のあたりまでしかありません。

 ありゃりゃ。

 髪がはげちょろだ。それにぶくぶく太ってるじゃないか。このあいだは口もとの色っぽさにばかり目が行って、気づかなかったけど。

 女の年齢ってのは、後ろ姿でわかってしまうものなんだな。

 ――どんなときも、女性観察を怠らない道頼ではあります。


 継母がいなくなったあと、道頼は几帳の陰から出てきて、姫君に話しかけます。

「縫い物なんて放っておけばいい。北の方を激おこにしてやったら、おもしろいよ。北の方は姫君をずっとあんなふうに扱ってきたの? 許しがたいね、まったく」


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