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幼馴染が悪役令嬢の為に王太子殿下になってくれました  作者: みずきあきら


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第68話 アル、憂う(アル視点)

「一杯付き合わないか?」


 ルドルフォがワインのボトルを片手にニコリと笑った。


 仕事も一区切りつき、ん〜と伸びをしていたところに、タイミングよく執務室に入ってきたルドルフォは、いそいそとテーブルにワイングラスを並べ、メイドにツマミの用意を指示していた。


「どうせこの後、寂しいひとり寝に戻るだけなんだろ」


 明日から全国各地で開催される豊穣祭。その前夜祭として、ヴィアンカはパステルダール侯爵に伴われて領地入りしてしまった。

 よし、それならば、自分も一緒にお供いたしましょうと申し出てみたのだが、侯爵にやんわりとお断りされた。「お忙しい王太子殿下にわざわざご足労いただくわけには参りません」などと(のたま)っていたが、要は親子水入らずの邪魔をするなとのことだ。解せぬ。


「次期侯爵殿は参加しなくていいのかよ」

「いーの、いーの。親父もまだまだ現役だし、俺の出る幕もないだろって。それに、今はお前についててやりたいの」

「は?」

「お前、自分で気がついてるのか? 今日一日中ぼんやりしてしょぼくれて、そんな意気消沈したお前なんて見てられないよ」


 そうだったか?

 アルベルトは頬をポリポリと指で掻いた。


「ほら、飲もう飲もう」


 ワイングラスをカチンと合わせ、口に含む。コクのある心地よい喉越しに舌鼓を打つ。


「侯爵の厳選するワインは美味くてついつい飲み過ぎてしまうんだよな」

「酔い潰れたら、また叩き起こしてやるって」

「あのな。先に言っておくが、髪を引っ張るのだけは絶対止めろよ。今度あんな外道な真似したら晒し首にしてやるからな」


 ルドルフォは「怖い怖い」と言ってケラケラと笑った。


 気の置けぬ友との晩酌は非常に心地よく、アルベルトはゆったりとした気分で寛いでいた。ヴィアンカがいない寂しさも少し和らいだ。


 ルドルフォはこうやって心の隙間に入り込むのが上手い。常にそばに寄り添い、気を配り慮ってくれる。自分が孤独にならないで済むのは、ヴィアンカと同じくらいこいつの存在も大きいだろう。

 自分に対する不躾で遠慮のない態度も、実は気に入っている。悪いことは悪いと是々非々な態度で、忌憚なく指摘してくれるおかげでアルベルトは裸の王様にならないでいられるのだ。

 第二王子の時もそうだったが、王太子になってからは特に、周囲の者は自分に(へりくだ)ってばかりいる。だから苦言を呈してくれる人間は本当に有り難く、信頼できる。


「お前はいい奴だな」

「は? いきなり何? もう酔った?」

「酔ってはいないが……俺はお前に会えてよかったと思ってるよ」

「はあ〜? 俺を口説いてどーすんだよ。やっぱりお前、酔ってるよ」

「酔ってないって」


 アルベルトはワインを飲み干し、グラスを差し出した。ルドルフォは眉を顰めながら、ワインを注いだ。


「俺は今でもたまに考える。ジークフリートは何故あそこまで俺を嫌っていたんだろう。俺が何かしてしまったのかってな」

「……まあ、な」

「たとえジークが俺を毛嫌いしていたとしても、それでもほんの少しでも情を見せてくれるような奴だったら、俺はパステルのおじさんにどんなに懇願されようが、ジークを蹴落とそうだなんてしなかったと思う。その時はヴィアンカを攫って逃げてたよ」


 アルベルトはグイッとワインを煽った。


「今思えば、ジークの周りには碌な人間がいなかった。一緒に悩み、教示してくれる者がいなかった。非を諫め、咎めてくれる友がいなかった。お前みたいな」

「アルベルト……」

「俺は、お前に感謝してるんだよ、本当に」

「……なんか、素直なお前がすごく不気味なんだけど」

「ハッ、安心しろ。もう二度と言ってやらないから」


 アルベルトは短く笑った。


「ジークは孤独だったんだろうな。俺は今の地位に就いて、あいつの気持ちが少しだけわかるようになったよ。王太子の座は想像以上に孤独だ。だから惚れた女の言いなりになってしまうのも仕方ないのかなってさ。そう思うと、ジークに憐憫の情を禁じ得ない」

「お前……後悔してるのか?」

「後悔はしていない。これは最善の手だった。断言する。あいつはやりすぎた。そこに同情の余地はない。だがな、もう少しやりようがあったとも思っている。追い詰めすぎたんじゃないかってな」


 アルベルトは頭を抱えて低い声を出した。


「俺は怖いんだ。全てを失ったあいつが何かやらかさないとも限らない。手負いの獣ほど恐ろしいものなはい。あいつがヴィアンカに何かしてきたら、俺は正気じゃいられない」

「だからってお前、ヴィアンカにあんなに監視付けて、尋常じゃないよ」

「監視じゃない。護衛だ」

「同じだよ」


 ルドルフォは溜息を吐いた。


「お前の心配もわからんでもないが……」

 ルドルフォは言った。


「大丈夫だよ。お前は人に頼ることを知っている人間だ。ひとりで抱え込んで全て自分でやろうとするほど愚かなことはない。人はそんなに万能じゃない。でもお前はちゃんとそれがわかってる。その上で周囲の状況を的確に把握してるだろ。もっと自分を信じろ」


 ルドルフォはアルベルトの肩に腕を回した。


「ヴィアンカだってそうさ。あいつは普段能天気でぽやぽやして見えるが、いざとなったら強いぜ。そんなに心配するな」




 しばらくして、ルドルフォは徐ろに立ち上がって言った。


「おっし! 気分直しに二次会行くぞ。俺の行きつけの店、案内してやる。いつかお前も連れてってやりたいと思ってたんだよ」

「お前の行きつけ? 嫌な予感しかしないんだが……」

「おう。馴染みの娼館。いい子が揃ってるぜ〜。イッヒッヒッ」

「娼館か……」

「ヴィアンカの居ない時くらいハメ外せって。たまには(おとこ)、見せろ」

「たまにはって何だよ…………そうだな。行くか」

「おっ! そう来なくっちゃ」


 斯くして、男ふたりは夜の街に繰り出すのだった。



※ 次回、ヴィアンカ大激怒。

お楽しみに。


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