第66話 王太子妃としての資質
王城で暮らし始めてから、王妃様に伴って仕事を手伝うことが多くなった。こうして行動を共にしてみると、その大変さが身に染みてよくわかる。
内助の功とはよく言ったもので、王宮内に置ける様々な使用人の人事を一手に引き受け、円滑にいっているのは王妃様のお陰だ。
諸外国との外交も、王妃様の仕事だ。国外の様々な大使との話し合い、駆け引き。合間を縫って、王妃様から指導も受ける。所作や立ち居振る舞い、そして会話に於ける奥の奥、つまり腹の探り合い。いかに有利に話を持っていくかが大事だとのこと。
王妃様に連れられて、上流貴族のご夫人たちとのお茶会にも顔を出すようになった。最初は胡乱な目を向けられていたが、王妃様が私を(畏れ多くも)王太子妃として扱う様子を見て、徐々に受け入れられるようになった。
今では王妃様の名代として、ひとりで出席しても、誰も何も言わなくなった。腹の底じゃ何を考えてるかわかんないけどね。
同年代のご令嬢とのお茶会は、ドレスや装飾品などのオシャレの話だったり、恋愛の話だったりキャッキャうふふした可愛らしいものが多いが、ご夫人たちとのお茶会は、何と言っていいか、凄くあけすけだ。美容と健康の話から始まって、黒い噂話だったり、旦那の自慢だったり愚痴だったり、性生活の話題だったり。
最初は侮られることも多かった。たった15歳の小娘が聞いて楽しい話題ではありませんよね、ご無理なさらないで、みたいな。でもね、私も別に生娘ってわけではないし、正直下ネタは嫌いじゃない。
夫を如何に飽きさせないかのテクニックの話を前屈みになって聞いていたら、クスクスと笑われた。
「ヴィアンカ様にはまだお早いですかしら」
「いえ、とても為になるお話、開眼ですわ。殿下もさぞや興味をお示しになられるかと思います。ふふ」
舐められてもいけない。そう思って答えたら、目を丸くされた。
清く正しく美しく、凛として、堂々と。品行方正、謹厳実直。笑顔を絶やさず、お淑やかで慈悲深い。愚痴は言わない。弱音を吐かない。隙を見せない。淑女の鑑、数多のご令嬢の模範、そして憧れ。
誰もが認める王太子妃として振る舞うのは、実に疲れる。
「あー! つっかれたぁー!!」
私はアルの部屋のソファにうつ伏せに倒れ込んだ。クッションに顔を埋めて足をバタバタさせる、その淑女の欠片もない姿は誰にも見せられない。
「お疲れさま」
アルが苦笑しながら、背中をマッサージしてくれる。天下の王太子様にマッサージしてもらえるなんて、世界広しといえども私くらいのものじゃないだろうか。はぁ〜キモチイイ。
「足がパンパン。頭もパンパン。紅茶の飲み過ぎでお腹もパンパンだよー。もーやだ。ゴロゴロしたい。一日中ゴロゴロしてたい」
アルが優しく頭を撫でてくれる。
「そんなに辛いなら、俺から母上にひと言言っておこうか?」
「ダメ!!」
私は弾かれるように顔を上げた。
「それはダメ。止めてお願い。私は今、試されてるのよ。王太子妃に相応しいのか、見極められてる」
「そうかな。あの人はただラクしたいだけじゃない?」
「そんなことない。王妃様は厳しいお方だもの」
「まぁ、腹黒い人だとは思うけど」
「私、頑張るからね。認めてもらえるよう頑張る。アルの隣は誰にも渡さないんだから」
「ありがとう」と頭をグリグリしてくるアル。
「あまり根を詰めすぎないようにね。何かあったらすぐ言うんだよ。俺に出来ることはある?」
「ん、大丈夫。話を聞いてくれるだけで充分だよ」
私はアルの前でだけでは、愚痴を言ったり、弱音を吐いたりしてる。約束だから。不平不満愚痴、何でもいいから、包み隠さず話すこと。
アルは私がどんなにグチグチ言っても、メソメソしても、辛抱強く話を聞いてくれて、優しく慰めてくれて、適切なアドバイスまでくれる。ねぇ、こんなに出来た恋人って他にいる?
「アルは優しいね」
「ヴィーにだけだよ」
ああ、ホントに好き。アルがそばにいてくれるから、私は頑張れる。
私はモゾモゾと起き上がって、アルの膝の上に乗った。顔を突き合わせる。アルの蒼い瞳を覗き込む。大好きな深い海。私はそのままアルの頭を抱き抱え、サラサラの綺麗な髪にゆっくりと指を通して撫でつけた。ホッと息を吐く。アルは私の癒しだ。
アルが私の胸に顔を埋めてスンスンと匂いを嗅いでいた。
「ヴィー、今日はいつもと違う匂いがするね」
「あ、わかった? 今日はアルファ伯爵夫人からいただいた石鹸使ってみたの。アルが好きそうな香りだなって」
「……うん。むしゃぶりつきたくなる」
アルの瞳が妖艶に濡れている。興奮してきた証拠だ。
「……ねぇ、殿下? ご慈悲をいただけますか?」
そう囁いて、アルの耳元にフッと息を吹きかけた。
アルはギョッとして慌てて身体を離し、私の肩を激しく揺さぶってきた。
「ヴィー!? どこでそんな言葉を覚えてきたの!? そんな手管、誰から教わってきたの!?」
「へへっ、どう? ドキドキした? ベータ侯爵夫人はこうやって旦那様を毎晩誘ってるんだって」
アルは額に手をやって呻いた。
「はぁーもう。ヴィーもペラペラ俺たちのこと喋ってるんじゃないだろうね?」
「えっ! い、い、言ってないよ。アルには噛み付く特殊性癖があって私の身体は噛み跡だらけで困ってるんだとか、アルのおへそには性感帯があってそこを攻めるとすぐヘロヘロになって可愛らしい声で啼いちゃうんだとか、言ってない言ってない」
「───!! ヴィー!? 勘弁してよホントに!」
「言ってないってば。国家機密だもんね」
「ああああ、俺の清純なヴィーになんてこと教え込んでくれるんだよ……」
「本当の清純な子なら、結婚するまでちゃんと貞操を守ってると思うけどな」
私は苦笑した。
「ようし! 今日は腕によりをかけて、ガンマ公爵夫人から教わった、旦那様を飽きさせないテクニック、実践してみちゃおうかな!」
「……俺はヴィーに飽きてないし、飽きることもないから。そんなことしなくていい」
アルが憮然とした表情をしている。
「あれれ? 拗ねちゃった? ごめんね? おへそいっぱい可愛がってあげるから、機嫌直して?」
「……うう。なんで今日はそんなにいぢわるなのさ」
アルに抱きかかえられて、寝室に連れ込まれた。
なんだかんだで私たちは今日も仲良しです。
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[短編]侯爵令嬢ミルティアは恋がしたいお年頃。
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本作とは関係ありませんが、興味のある方は是非覗いてみてください。幼馴染っていいですよね。笑




