第65話 三番街デート②
連れて来られた先はひと気のない公園で、そこは奇しくもアルと再会した日に話し合いをしたところだった。
ベンチに腰を掛けひと息吐くと、いつの間に購入したのか、アルが果実水の入ったカップを差し出してきた。
私はお礼を言って、果実水を飲み干した。酸味の強い、さっぱりとした喉越しで、火照った身体を潤してくれる。
「落ち着いた?」
「……うん。心配かけてごめんね」
アルが隣に座って、顔を覗き込んできた。
「さっきのガトーショコラ、やけにラム酒が利いてるなとは思ったけど、ヴィーには合わなかったみたいだね」
「ラム酒……」
そうなのか。だからあんなに身体がポカポカしたのか。なるほど。決して私がいやらしいことを考えたからではない。私は痴女ではない。全てはお酒のせいなのだ。なるほどなるほど。
「二度と人前でそんな顔しちゃダメだからな。今日は俺の前だったからよかったものの。君は無防備すぎるんだよ。ホントにもう」
「ごめん……」
「君は本当に目が離せないよな。危なっかしくていつも心配なの、わかってるのか」
「う……だからごめんって」
頬をアルの手のひらが包み込む。少しひんやりとして心地よい。うっとりと瞳を閉じると、深いキスをされて、頭が真っ白になった。
「またそんなに目をとろんとさせて……今言ったばかりなのに」
唇を離すと何故か文句を言われた。
だってこれは仕方なくない?
「ヴィーは一生俺のそばを離れちゃダメだよ。すぐそんなになっちゃうヴィーが悪いんだからね」
耳元で低く囁くアルの声が壮絶に艶っぽくて、私はゾクゾクと身体が震える。
そうして、何度も繰り返されるキス。すぐに私は限界を迎えた。
「ん……わかった、から、もうゆるして……」
アルは僅かに眉間に皺を寄せると、最後に強く吸い付くようなキスをしてきて、今度こそ私はいっぱいいっぱいでグッタリした。
公園でしばらく過ごした後、私たちは街歩きを再開した。
一軒の雑貨屋に足を踏み入れる。店内はやはり女性客ばかり。ちなみにアルはそんなところにも躊躇なく一緒に入る。女性客ばかりだろうとあまり気にしない。そこが例えばランジェリーショップだろうと、アルは全く遠慮しないだろうなと思う。羞恥心?なにそれ?な態度はさすがとしか言いようがない。
雑貨屋さんっていつ来てもワクワクするよね。可愛らしい小物は見ているだけで楽しい。
ぐるりと周りを見渡していると、とあるものが目に入った。ケモミミカチューシャだって。『好評につき再入荷』というPOPが貼られている。ネコ耳、イヌ耳、ウサ耳、クマ耳……種類がいっぱいだ。作りも結構しっかりしてて、触ると本物みたいにもふもふしてる。
私はふと悪戯心が沸いて、イヌ耳の一番大きなサイズを手に取って、アルを呼んだ。
「アル、アル。ちょっと来て」
興味なさげに棚の商品を眺めていたアルが、すぐさま近寄ってきた。
「何か欲しいのあった?」
私は無言で、そのイヌ耳をアルの頭に装着する。
……私は息を呑んだ。
アルの金色の髪と、濃い目の茶色のイヌ耳が絶妙にマッチしてて。
ぶはっ!!! なにこれ。似合いすぎる!!
「は?」と言って上目遣いになるアルの壮絶な破壊力たるや。ちょっと頭を揺らす度にイヌ耳がぴょこぴょこ動いて……
「か……かわ……かわ……」
言葉を失ってしまった。震える口元を手で覆う。ヤバい。鼻血出そう。
興奮のあまり、無意識に、私は隣にいた見ず知らずの女の人の肩を叩いていた。怪訝な表情で振り返る女性に、私はアルを指差した。大きく目を見開く女性。
「か、かわ…………」
私とその女性は手を握り合い、絶叫してしまった。
「「 可愛い〜〜〜!!! 」」
「か、可愛すぎない!?」
「可愛い可愛い」
「ヤバい」
「ヤバいヤバい」
「可愛すぎてヤバい」
「ヤバすぎ」
「可愛い」と「ヤバい」を連呼する、語彙力のなくなった私たちでありました。
呆れた顔をしながら「あのな」と言って、頭上に手を伸ばすアルを私は必死で止めた。
「あ! 待って待って! 外しちゃダメ!」
さっきからドキドキが止まらないよ!
「はわわ。ホントに似合いすぎだよ。こんな可愛いワンちゃんが私のものだなんて信じられない」
「お手」と言って手のひらを差し出すと、アルは盛大に嫌そうな表情をしながらも、手のひらを重ねてくる。ふふ、面白い。アルはなんだかんだでノリがいい。こういうところ、好き。
アルに向かって両腕を伸ばすと、僅かに屈んでくれたので、遠慮なく頭を抱きかかえ、わしゃわしゃと撫で回した。もう、なんて可愛らしいのかしら。
「この俺を犬扱いして許されるのなんて、ヴィーくらいなものだよ?」
アルがボソッと呟いて、私ははたと我に返った。
天下の王太子様を犬扱いしたなんて知れたら、処刑されちゃう。
ギクリとアルを見たら、意地悪く笑っていた。慌ててアルの頭からイヌ耳を外し、それを胸に抱えた。
「買うの?」
「買う」
二人きりの時なら、楽しんでもいいよね? 私は諦めが悪いのだ。
アルは大きく溜息を吐いて、棚からネコ耳を選び出し、「じゃあ、これも」と言って押し付けてきた。
「君は盛りのついた雌猫だからな」
はぁ〜!? だが私は文句も言えず。
それ以上にワクワクの方が勝っていた。
※ 本年はお付き合いいただきありがとうございました。
来年も引き続き、よろしくお願いします。




