第64話 三番街デート①
今日、私たちは三番街に遊びに来ている。
活気あふれる街並みの中を、手を繋いで歩いていると、ところどころで声をかけられる。
「ヴィアンカちゃん! 今日はエラい男前連れてるね!」
顔馴染みの青果店のおばさんに、弾んだ声で呼び止められた。
「えへへ。この人、私のダーリン」
「あらま、彼氏さんかい。いいねぇ」
フルーツ串を2本サービスしてくれた。カットされた旬のフルーツが串に刺してあり、食べ歩きしやすくなっている。瑞々しいフルーツはさっぱりとしてすごく美味しい。
しばらく散策してると、袖をクイクイと引かれた。
「ヴィアンカ! 久しぶり!」
ガラス細工のお店の、トール君だ。
手を繋ぐ私たちを、目を細めて見ている。
「ヘタレの兄ちゃんと仲良くやってんだ。よかったね」
「トール君、アルのこと知ってるの? て言うか、ヘタレって何?」
「それはねぇ〜…………」
くっくっくっと可笑しそうに笑うトール君を、アルが怖い顔で制する。
「おい、坊主。余計なことは言うなよ」
アルが苦々しく顔を歪めた。
私はアルとトール君を交互に眺める。
「へへっ。ちゃんと求婚されたみたいでホッとしたよ」
「えっ??」
私は首を傾げた。
「いいから、行くぞ」
アルが強引に手を引いて歩き出す。
後ろで、
「またうちの店に寄ってってねー」
と、トール君が手を振っていた。
「アルとトール君が知り合いだったなんて、意外。そっか、あの女神像、トール君のお店のだもんね」
「……まあな」
再会した日に手渡された女神像を思い返しながら言うと、アルはちょっとバツが悪そうに答えた。
何があったんだろう? 『ヘタレ』の真相は後でアルがいない時に聞くことにして、とりあえず今はアルの機嫌を直そうと、腕にしがみついて笑顔を向けた。すると途端に目尻を下げるアル。チョロい。
またブラブラと散策しながら、お店を覗いたり、催し物を見学したりして、ちょっと休憩しようかとカフェに立ち寄った。
店内には甘い香りが漂う、可愛らしい雰囲気のこぢんまりしたカフェだった。女性客が多い。ここはレイナさんが教えてくれたお店だ。一度アルと行ってみようと思っていた場所。
窓際の陽当たりの良い席に案内され、腰を落ち着けた。メニューに目を通す。わぁ! なかなか種類が豊富で迷っちゃう。
「決まった?」
「う〜ん……このチーズケーキとガトーショコラで迷ってる」
「どっちも頼めば?」
「いいの?」
「俺は何でもいいよ」
店員さんにケーキと紅茶と珈琲を注文して、待っている間、アルが右手を握ってきた。私は指を絡めながら、親指でアルの親指を押さえつけた。アルも負けじと私の親指を押さえ込む。そうやってしばらく指相撲もどきを興じていたが、逃げても逃げてもすぐに押さえ込まれて、アルの力が強くてなかなか指が抜けない。くっそー! 私は降参とばかりに手を離した。
「ズルい! アルの方が指が長いんだもん。こっちが圧倒的に不利だよ!」
「え、俺が悪いの?」
アルはキョトンと首を傾げた。
そうこうするうちに、ケーキが運ばれてきた。
目にも鮮やかで美味しそう。甘い匂いが食欲をそそる。
私はチーズケーキをひと口掬った。なめらかなコクとしっとりとした食感ですごく美味しい。頬っぺたが落ちそう!
「ん〜幸せ〜!」
アルはそんな私を優しい表情で見つめながら、ガトーショコラを味わっていた。
そうしてそれぞれ半分を食べた後、お皿を交換する。半分ずつ分け合うのが私たちのやり方だ。
ガトーショコラも、これまた美味しい。生チョコかってくらい濃厚な味わいで、洋酒が利いてて甘くとろける。もう最高だね!
ケーキを食べ終わると、珈琲を飲みながら、アルはぼんやりと窓の外を眺めていた。
先程から店内の女性客の視線をチクチク感じる。ホント素敵だもんね、この人。わかります。
陽の光がアルの金色の髪をキラキラと輝かせて、気品あるその姿はまるで一枚の絵のよう。そんな光景をうっとりと見つめる。
こうして見ると、アルって本当に綺麗な顔をしている。中性的で端正な顔立ち。なのに瞳には力があって吸い込まれそうなくらい強い。あの美しい瞳が妖艶に濡れる瞬間を私は知っている。身体付きは細っそりして見えるのに、実は服の下は程よく筋肉がつき、がっしりと逞しいのを私は知っている。
私は昨夜の営みをまざまざと思い出して、真っ赤になった。頬が燃えるように熱い。漂う色気と、甘い囁き。あの長い指で私の身体を撫で回し、あの形のいい唇が私の身体を……って、ギャー!! こんなところで、私は何を考えているんだっ! バカっバカっ!! 鎮まれ鎮まれ、煩悩!
ひとりで身悶えする私は、怪訝な表情を浮かべるアルと目が合った。
「大丈夫? 顔が真っ赤だよ……」
次の瞬間、アルは目を大きく見開き、眉を顰めた。
「出よう」
「えっ……?」
「いいから」
「え? え?」
一体なに?
有無を言わさないで手を掴まれ、引きずられるように店を後にした。
「ど、どうしたの、突然」
「どうしたの、はこっちのセリフだよ。そんなに目を潤ませて物欲しげな表情しちゃって、まるで盛りのついた雌猫みたいだよ。そんな顔、誰にも見せられないよ」
「えっ!! 嘘!?」
私は頬を押さえた。まだ熱を帯びている。
アルは私の顔を隠すように抱きしめると、そのままどこかに足早に歩き出した。
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