第63話 食堂デビュー
昼休み。
その日の食堂は異様に混んでいた。
空いている席を探して辺りを見渡していたら、「ヴィアンカさ〜ん!」と呼び止められ、ココルさんとレイナさんが手招きをしていた。
「ここ空いているよ〜」
私はありがたく、ふたりのところに足を運んだ。
「今日はすごく混んでるのね」
「そう?いつもこんな感じよ」
そうなのか。最近はずっと中庭でお弁当だったし、食堂に立ち寄っていなかったから知らなかった。
私は席に着くと、持っていたお水を煽って、フゥとひと息吐いた。
「あら、ヴィアンカさん。手ぶら?」
「うん、あそこ。まだ並んでるみたいね」
ちょうど日替わりランチを受け取っているアルの背中が見え、彼を指差した。
すると、咳き込むココルさんと、唖然とするレイナさん。
「で、で、殿下に並んでいただくなんて、ヴィアンカさんって凄い……」
「ま、待って。殿下もここにいらっしゃるってこと!?」
途端に慌て出すふたり。
「大丈夫よぉ。気さくな人だから。ふたりに紹介するね」
私はそう言って、アルに向かって手を振った。
「はい」と渡されたトレイをお礼を言って受け取る。今日の日替わりランチは彩り野菜のパスタとコーンスープだった。私は内心で「ぎょえっ」と叫んだ。ブロッコリーが入っとる……
私は手早くブロッコリーを避け、何食わぬ顔でアルのお皿に放り込んだ。アルは苦笑しながら見守っていた。
アルが席に着いてすぐ、私はココルさんとレイナさんを紹介した。
「こちら、同じクラスのココルさんとレイナさん。おふたりには入学当初から仲良くしていただいてるの」
「は、はじめまして。ココル=サリーと申します」
「レイナ=リングベルと申します。ヴィアンカさんには大変お世話になっております」
ふたりが立ち上がって礼をしようとするのを手で制して、アルがニコリと微笑んだ。
「ああ、彼女から話はかねがね。とてもよい友人が出来たと毎日楽しそうにしているよ。これからも仲良くしてあげてください」
滅多に見せないアルの王子様スマイルを目の当たりにしたふたりが挙動不審になっていた。
アルもなんだか機嫌良さそう。
さっきまでぶつぶつと文句を言い続けていた人と同一人物なのかと疑ってしまうくらいの変わり様だわ。
アルの猫かぶりも健在のご様子です。
そりゃあさあ、私がお弁当を忘れたのが悪いんだけどさぁ。
久々に腕を振るうか、と、昨夜、王宮の厨房で意気込んでいた私は、料理人さんに明日のお弁当は要らないと断りを入れて、翌日の仕込みをしたまでは完璧だったはず。
なのに、明日は早起きしなくちゃいけないから早めに休ませていただきます、と宣言したにも関わらず、なし崩し的に盛り上がり、結局全然手心を加えてくれなかったアルにも少しは責任あると思う……
翌朝、「しまった! 寝過ごした!」と慌てて飛び起きる私をガッチリとホールドして身動き出来なくさせたのば誰だっけ。寝起きの壮絶な色気を振り撒いて、私を過呼吸に陥らせたのは一体誰だっけ。ねぇ??
「ヴィーの弁当、楽しみにしてたのに。ガッカリだよ」
落胆するアルに必死で謝って、そんなに楽しみにしてくれていたなら悪いことしちゃったなと反省した。
「ホントごめんね。今日はサロン行こ?」
おずおずと申し出るも、まさかの却下で。
「サロンなんて行かないよ。今日は君の行きつけに行こう」
行きつけと言うほど利用はしていないのだが、こうして私たちの食堂行きが決まったのだ。
食堂では、やはり我々は目立つようで、刺すような視線を随所に感じる。でもアルは全く気にしていない。食堂を利用するのは初めてなんだと、少し嬉しそう。
日替わりのパスタは塩味が利いてて凄く美味しかった。
食事を進めながら、ココルさんが我慢出来ないと言った感じで話しかけてきた。
「あの、殿下。少々質問してもよろしいでしょうか」
「いいよ。なにかな」
「殿下はお休みの日は何をなさっておられるのですか?」
ココルさんの瞳が輝いている。さすが新聞部。好奇心が抑えられないみたい。
アルはニコリと微笑んだ。
「大抵、愛しの婚約者と過ごしていることが多いかな」
私は咄嗟にゴホゴホと咳き込んだ。い、言い方……
「なるほど。では殿下のご趣味を伺ってもよろしいですか?」
「最近は愛しの婚約者の世話を焼くことが趣味みたいなものかな」
た、確かに、最近アルは何やかやとせっせと世話を焼いてくれている。あれって趣味だったのか……
ココルさんとレイナさんがニヤニヤしてる。
私の耳元でレイナさんがそっと囁いた。
「愛されてるね」
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