第57話 寂しかった①
翌朝、アルが迎えに来るのをソワソワしながら待っていた。
アルに早く会いたい。まだかな、まだかな。
「ヴィアンカ様。少し落ち着いてください」
ハンナが苦笑している。
しばらくして、王家の馬車が到着した。中から降りてきたアルに頭を下げて、挨拶をした。
「おはようございます」
「おはよう、ヴィー」
なんだろう。微笑むアルがいつもの3割増しでキラキラ輝いて見える。私はぽーっと見惚れてしまった。
するとアルが怪訝な表情を浮かべた。
「元気ないね。よく眠れた?」
「いえ……」
貴方を想って眠れませんでした……
「いってまいります」
とみんなに声を掛けて、私たちは馬車に乗り込んだ。
馬車の中ですぐ、私はアルの首に腕を回して強く抱きついた。アルが「おっと」と言いながら私の背中に手を添えてきた。
「どうしたの?」
「さ……寂しかった……!」
なんとかそれだけ声を絞り出して、アルをギュッと抱きしめる。
アルの匂い。大好きな、落ち着く匂い。
アルの温もり。愛しい、安心する温もり。
ああ、やっぱりここが私の居場所なんだと実感する。アルの腕の中が一番心地よくて、一番大好き。
「アルがいないと寂しくて寂しくて心が張り裂けそうだった。何度も、屋敷を抜け出してアルに会いに行こうかと思ったくらい。たった一晩なのに、アルがそばにいないと思うとおかしくなりそうだった。こんなに寂しいだなんて想像していなかった。もう離れない。絶対絶対離れない」
「俺も凄く寂しかったよ。安心して。俺はここにいるよ。ずっとヴィーのそばにいる。絶対離さないから」
アルも強く強く抱きしめ返してくれる。
ああ、このままふたり、溶け合ってしまえばいいのにと、本気で思った。
「ヴィーはすぐ泣くんだから」
と言って、私の目元を拭う。それまで自分が泣いていたことに全然気が付かなかった。
そのまま唇を重ねる。私はうっとりとアルの口づけを味わう。唇が離れても、それを逃したくなくて、もっともっととキスをねだった。舌を絡める濃厚なキスに、私はゾクゾクと身体を震わせた。もう何も考えられない。
アルが、私の耳朶を甘噛みしながら囁く。
「これ以上煽られたら、口づけだけじゃ済まなくなるって」
「いや……やめちゃやだ。もっとして……」
「はぁ……拷問かよ……」
私たちはそのまま、学園に着くまでずっと唇を重ね続けていた。
学園に到着するや否や、学園内に戦慄が走った。
馬車から降りるアルの顔が恐ろしく強張っている。眉間に深く皺を寄せた、怒っているかのような怖い怖〜い顔。ジロリと睨まれたクリス様がわずかにたじろいだ。
だが、私は知っている。アルが、気を抜くと頬がだらしなく弛んでしまいそうになるのを必死で抑え込んでいることに。
憤りを覚えた表情で足速に歩く王太子殿下に、学園の生徒たちにも焦りの色が見える。
「殿下がご立腹の様子だ」
「あんな表情、見たことがない」
「一体何があったんだ」
「誰が殿下を怒らせたんだ」
当然私に疑惑の目が向けられる。
ふふふ。面白くなって、私はこっそりとアルの腕にツツツッと人差し指を這わせた。アルはビクリと肩を揺らし、繋いだ手に力を込めてきた。
「とんだ小悪魔だよ、君は」
一年一組の前まで来た。
でも私たちはなかなか手を離せないでいた。磁石のようにピッタリとくっ付いてなかなか離れられない。もっと一緒にいたい。多分アルも同じ気持ち。
じっと見つめ合う私たちが、周りにはどんなふうに映っているのだろう。アルに睨まれているように見えているんだろうか。
「ほら、痕がついちゃうよ」
そう言って、アルの眉間をグリグリ伸ばした。
「君のせいだろ……」
ますます眉間に皺を増やすアル。やれやれ。
「またお昼に迎えに来るから」
いつものセリフを言い残し、アルは去って行った。アルの不在に心が軋んだ。
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