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幼馴染が悪役令嬢の為に王太子殿下になってくれました  作者: みずきあきら


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第56話 実家に帰ってきました

 パステルダールの屋敷に戻ると、家令のサージたちが出迎えてくれた。


「お嬢様、お帰りなさいませ」

「ただいま。久しぶりね。何も変わりはない?」

「ええ、至って平和でございます」

「そう。よかった」




 自分の部屋に戻って、ベッドにゴロンと横になる。清潔に仕付けられたシーツ、嗅ぎ慣れた石鹸の香り、なのに思ったほど心地よくない。何か物足りない。落ち着かない。何故だろう。

 手を伸ばせばすぐに感じられた存在の不在。それがこんなにも心を騒つかせる。


 私は気を取り直して、起き上がった。


 机の上に飾られた、ガラス細工の女神像にそっと触れる。アルとの再会の日を思い出す。懐かしいな。あの時はまだ婚約もしていなかったんだっけ。


 ……ダメだ。先程からアルのことばかり考えてしまう。


 私は両手で頬をペシペシ叩いて気合いを入れ直し、厨房へ向かった。


 厨房で明日のお弁当の相談をしていると、お父様が帰宅した。


「お父様、お帰りなさい」


 出迎えると、お父様は途端に顔を綻ばせた。

「ヴィアンカ、帰っていたのかい。元気にしていたか?」

「はい。すこぶる元気です」


 私はお父様の腕に抱きついた。


「ハハハ。お前はいつまでたっても子供だね」


 頭を撫でてくる手が温かくて、少し切なくなった。




 夕食で私はひっきりなしにおしゃべりしていた。普段はアルと一緒にいるから、必然的にアルの話題になってしまう。お父様は優しく微笑んで、相槌を打ちながら静かに聞いてくれている。


「大切にしていただいているようだね」

「はい。とっても!」


 お父様はテーブルに肘を付き、目の前で両手を組んだ。


「お前が幸せなのが一番だ。陛下にも王妃様にも可愛がっていただいているみたいだからね」


「ふふ。ありがたいです」


「私はね、本音を言うと、お前のことはあまり心配していないんだよ。お前は昔から空気の読める子で、周りに気を使うのが上手だった。だから皆、お前に好感を抱いて、敵を作らない。悪意に満ちた王侯貴族の世界ではそれはとても貴重なことなんだよ」


 お父様はふっと小さく息を吐いた。


「私はアルベルト殿下のことを幼い頃から見てきたが、あの方の周りには昔から敵ばかりだった。誰のことも信用できず、いつも暗い顔をした子供だった。私はそんな殿下が可哀想でね。出来る限り気に留めるようにはしていたんだが、それでも殿下をお救いすることは出来なかった。


でもね、殿下はお前と出会ってから変わられた。それはもう見違えるほどだったよ。元々優秀なお方だったが、そこに活発さと寛大さが加わった。人形みたいだった彼が人間になった。そう感じた。


ヴィアンカ、殿下をしっかりお支えしてあげなさい。それはお前にしか出来ないことだからね」


「……はい」

 私は神妙に頷いた。






 その日の夜、私はなかなか寝付けないでいた。万年寝不足なのに、おかしいな。

 私の頭の中はアルのことで一杯だった。いつも隣で眠る温かな安らぎが、こんなにも恋しい。寂しいな……私はその時、強くそう思った。

 何度も何度も寝返りを打って、ようやくうとうとし始めたのは明け方になってからだった。


 アルの夢を見た。



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