第53話 サロン事件、その後
『嫉妬に狂うアルは怖い』を身をもって体感したサロン事件以降、アルは学園内でもベッタリになった。授業中以外、どこでも一緒。隣に居ればいつも手を繋いで仲良しこよし。これは今までと変わりがないので、私は特に気にしてなかったが、周りはギョッとしてるみたい。
アルとお近づきになりたいご令嬢がわんさかといる中、私の存在は邪魔なんだろう。露骨な視線を向けられることもしばしば。でも気になんかしていられない。私はアルの婚約者なんだからね。この人は私のもの。そう思って、アルの腕にしがみ付くと、アルは満足気に表情を和らげるのだった。
ある日の昼下がり。
「最近、ヴィーが積極的で嬉しいよ」
アルがゆったりとソファでくつろぎながら言った。
「せ、積極的だなんて……アルの気のせいじゃない?」
「そお? 腕にグイグイ胸を押し付けてきちゃってさ。もう、いつもたまらない気分になるよ。はぁ〜可愛い」
私は飲んでいた紅茶を吹き出した。
「はぁ? し、し、してない! そんなことしてない!」
「遠慮しなくていいんだよ。むしろもっと」
「遠慮なんてしてないし……って、こ、こら、ツンツンするな」
アルが胸を突いてくるので身を捩って避ける。するとアルは「むぅ」とむくれて、更に腕を伸ばしてくる。
「わわっ! 揉むな揉むなって! やめてよ!」
はたから見るとバカップルのイチャイチャ。なんなんだろうね、この空間。
「いたたッ」
「ん? ごめん。強かった?」
「違う。血が……」
首筋を押さえると、血が滲んでいた。
「もう。やきもち焼くたび噛み付くのやめてよ。せっかく血が止まってきたのに」
「ダメだよ。やめない」
無慈悲なアルに、溜息が出る。酷い。
「さっきだって、ちょっとランシード先生と話してただけなのに……」
「ランシード=ピケル。あいつもヴィーを狙ってる」
「んなわけないでしょー。バカじゃないの」
「バカって言うなよ。泣くぞ俺が」
「バーカ、バーカ、アルのスケベ」
「俺はスケベじゃない」
「だから胸を揉むなって!」
首筋の血をハンカチで押さえてくれるアルを睨みつけ、私は嘆いた。
「このままじゃドレス着れなくなっちゃうよ……」
「いいじゃない。美しく着飾ったヴィーの首元から覗く、俺の証。ふふ。想像するだけでゾクゾクするね」
「うわぁ……」
恍惚の表情を浮かべ、遠くを見つめるアル。その性癖にはドン引きだわ……
「ねぇ。だったら私にも付けさせてよ。アルは私のものだっていう証。思いっきり噛み付いてやるんだから」
「おっ、いいねぇ。ヴィーにマーキングされるなんて、それはそれで興奮する。ふふ」
「えぇ……こわ……冗談だし。天下の王太子様に傷なんて付けたら処刑されちゃうよ」
「そんなことしないよ。それに今更じゃない?」
「ん? 何が?」
「だって俺の背中にはヴィーがあんあん言いながら夢中でしがみ付いてきた時の爪痕、たくさん残ってるよ。昨夜だって……」
「な、な、な、な、な、なに!? なにッなにッなにをいいだすの!? し、し、しんじらんない!! はぁ? はぁ〜!?」
「ヴィー、うるさいよ」
アルは肩を震わせ笑いを堪えていた。アルは学園だと意地悪だ。なにさ。普段は甘えん坊のくせに。
ゴホンと咳払いがして、振り向くと、リオル様が気まずそうな表情で立っていた。
「あの〜。お取り込み中、申し訳ありません。一応ここは神聖な生徒会室ですので、過度な戯れ合いはご遠慮頂きたく……我々は非常に困惑しておりまして……」
そうおずおずと口を開くリオル様に、アルは悪びれず大袈裟に肩をすくめるのだった。
生徒会メンバーの会話。
「殿下のあれ、絶対わざとだよな」
「ああ、牽制だろうな」
「リオル、お前まだ許してもらってないのかよ」
「やめてくれ……あの日、一日中続いた説教で10年は寿命が縮んだんだからさ……」
リオルは頭を抱えて、身震いした。
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