第52話 サロン事件②
※ 若干の鬼畜行為あり。苦手な方ははご注意下さい。
「あーあ、落とせたら面白かったのに」
「私、そんなに軽くないですよ」
「だって君たちあまり仲良くないって噂だけど。実際のところどうなの?」
「…………」
おおう。噂の影響がここにも。
「ひと月前、殿下から、君をよしなに頼むって言われた時は、何の冗談かと思ったよ。まぁ自分の婚約者が目を離した隙に何かしでかさないよう見張ってろって意味かと思って。どんな性悪女なのか、ずっと君を観察してたよ。なのに君ってば、何? 思ってたのと真逆じゃないか。令嬢にとって殿下の婚約者ってポジションは最大の名誉だろ。何で全然ひけらかさないの。意味わかんないよ」
「.……何が言いたいんですか?」
「だから。君、今の立場をもうちょっと利用した方いいよ。今の君に逆らえる奴なんていないだろ。もったいないよ。もっと威張り散らしたりさ、周りの人間を顎で使うくらいしてもいいんじゃない」
ああ、それはココルさんにも言われたな。
でも。
「そんなことしませんよ」
「何で。もっと堂々としてなよ。殿下の懸念していたことがなんなのか、すぐにわかったよ。君さ、隙だらけなんだよな。無防備すぎて、そんなんだから色んな奴に付け込まれるんだよ。知ってるか? 殿下にどれほど守られてるか。君は今、妬み嫉み僻み恨み、色んな目を向けられてる。君を利用しようとする人間もたくさんいる。そんな中で平穏にのほほんと学園生活を送れてるの、全部殿下のおかげだよ。もっと感謝しないと」
「…………」
私は何も言えなくなった。彼の言っていることはきっと真実だ。
「僕、キツイこと言ってる? ごめんね。でも言われなきゃわかんないだろ、君。どんなに恵まれた環境にいるのかちゃんと理解しなよ」
「…………」
「……やだな。泣かないでよ」
「泣いてませんよ。……リオル様、いい人ですね」
「は? 本気で言ってる?」
「はい。ちゃんと言葉にして言ってもらえるのありがたいです。私、いろいろと理解が足りませんね。殿下に甘えてばかりいる。もっとしっかりしなきゃとは思っているんですけど」
「うん、そうだね」
「私、多分自分に自信がないんです。彼の隣に並びたいのにどうしても引け目を感じちゃう。平凡な私が、あんな完璧な人の側に居ていいのか今でもたまに躊躇する。好かれているのはよくわかっているんですけど」
「へぇ。自己主張の激しいご令嬢が多いのに、珍しいタイプだね、君。そういう謙虚なところが魅力なのかな。でも殿下も可哀想だね」
「可哀想?」
「だってそうだろ。せっかく君を選んでくれてるのにさ。肝心の君が何でそんなに弱気なの」
「……そう、ですね……」
「ほら、もっと胸を張ってさ」
バンッと背中を叩かれる。少し痛いが、彼なりの励ましなんだろう。その心意気は嬉しい。
「リオル様、いろいろありがとうございます」
「見直した? 惚れた? なら僕と火遊びしてみない?」
「それは遠慮しときます」
リオル様はあははっと楽しげに笑った。
この短時間に、私はこの人に少し好感を抱いていた。生徒会長に選ばれるだけあって、人の心を掴むのが上手い。女性に手が早いのはいただけないが。
いつの間にか、テーブルの上にランチが用意されていた。給仕係の使用人が、お辞儀をして出て行く。いい匂いが充満して、お腹が鳴りそうだ。
「殿下、遅いね。先食べちゃおうか? お腹空いたでしょ」
リオル様がそう言って、私の頭を撫でてくる。
「ちょっと! なんで撫でるの!」
「言っただろー。サラサラしてて触りたくなっちゃうんだよー」
頭を抱きかかえて、更にわしゃわしゃしてくる。やめて〜。
「何してるんだ」
その時、急にドアが開いて、アルとクリス様が入ってきた。アルが凄い形相で睨んでいる。そして素早い動作でリオル様の腕を捻り上げた。
「痛い、痛いって! ごめんごめん! ついね」
「つい、じゃないよ。人のものに手を出しておいて、ただで済むと思ってるのか」
アルの怒りが半端ない。リオル様の腕が折れちゃう! 私は咄嗟にアルにしがみ付いた。
「アル、落ち着いて!」
すると今度は私の肩を掴んで、
「ヴィー、何であんな奴に簡単に触らせてるんだ? 警戒心なさすぎだろ」
「う、うん。ごめん、なさい」
「君は頭の天辺から足の爪先まで全部俺のものなんだよ。信じられないよ。さっきは目を疑った。これは現実か?」
大袈裟だよ……と言おうと思ったが、アルの目が冷たくて、怖くて震え上がってしまい、口をつぐんだ。
「君は俺の婚約者だ。もっと自覚しろよ」
グイッと腕を引かれ、抱きすくめられ、そのまま首筋に噛み付かれた。
「いっっっ!?」
涙目でアルを突き放そうとしたがびくともしない。アルの冷酷な目。今までアルにこんな視線を向けられたことがあっただろうか。怖い。
ビクビクしてると、アルは顔を歪ませ、また噛み付いてきた。今度はさっきより強く。私は息が止まりそうになった。首筋から血が滲む。
「いぃたぁぁぁいぃぃぃ。もぉやだぁ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
恐怖と痛みで私はガチ泣きしてしまった。
「で、ででで殿下、ぼ、ぼぼ僕が悪いんだし、そのへんでやめてあげてよ……」
「黙れ」
リオル様が勇気を出して進言してくれるもアルに一蹴されあえなく撃沈。弱すぎだよ、生徒会長殿。
アルから逃れようともがくも、両手を強く掴まれているので身動きが出来ない。嫌ッ嫌ッと首を振ると、非情なアルが、三度目の噛みつきをしてきた。
「……ぅぅぅ……」
私は抵抗する気も失せ、ただただ泣きじゃくるのだった。
「わかった? ヴィーは俺しか見ちゃダメだよ」
「は、い……」
シクシクと泣く私の手を引き、ソファに座らされた。そのまま私を胸に抱き、頭を優しく撫でてくる。
「ほら、もう泣かないの」
そう言って、私の首筋の血をペロリと舐めた。
「ふふ。これは君が俺のものだって証。消えないように定期的に付けてあげるからね」
ゾクリと背中に冷や汗が伝う。
アルの心の闇を見た、気がした。
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