第49話 アルの帰還
日も暮れかけた頃、一台の馬車が、王宮内に入ってきた。大勢の臣下が出迎える中、王家の紋章が刻印された豪華で立派な馬車から、アルが降りてくる。
私は深くお辞儀をして、アルを労う。
「おかえりなさいませ。道中、大過なきを得ました事、謹んでお慶び申し上げます」
「お出迎えありがとう。ただいま」
アルは私の手を取り、握り締めてきた。笑顔にはやや疲労の色が見えるものの、元気そうだ。
無事に帰って来てくれて本当に良かった。
私たちはしばらくそうやって見つめ合っていた。
「おーい。自分たちの世界に浸るのは二人きりになってからやれー」
お兄様が呆れ返った声を上げ、クリス様は苦笑していた。
陛下に帰還の報告をしてくると言うので、私はアルの部屋で、ソワソワしながら待っていた。1ヶ月振りの再会に胸がはち切れそうになる。
気を落ち着かせようと紅茶のカップを手に取った時、アルが扉を開けて入ってきた。私は慌ててカップを置き、アルに飛び付いた。
「アル! おかえりなさい!」
アルは私を受け止めて、ぎゅうぎゅうに抱きしめてくる。私はどうしようもなく切なくなって、涙が込み上げた。
「ヴィー、会いたかった」
アルが私の顎を持ち上げ、荒々しく口づけてくる。アルの舌が私の口の中を蹂躙してきて、堪らなくなった。頭が真っ白になり足がガクガクと震えて、私は必死でアルにしがみ付く。愛しくて気が狂いそう。長い長い口づけに、私はしばらく酔いしれていた。
唇を離すと、私はアルの身体をペタペタと触った。頬に触れ、腕に触れ、胸に触れ、脇腹に触れ、太腿に触れ、ふくらはぎに触れ……
そうやって全身に触れていると、アルが怪訝そうな声を上げた。
「ヴィー? 何?」
「ちょっと屈伸してみて」
「えっ?」
「いいから」
アルは戸惑いながらも脚を曲げ伸ばしする。
「グーパーして」
アルは更に戸惑いながらも手のひらを曲げ伸ばしした。
「うん、怪我はしてないみたいだね」
アルは私の突然の奇行に笑いを堪え切れないみたいだった。
「座って」
アルの手を引き、ソファに座らせる。私はアルの膝に乗って、顔をじっと見た。上瞼と下瞼を開け、瞳孔確認。うん、大丈夫。
「次、舌出して。ベーって」
アルは言われるがままに舌を出した。出された舌に触れ、ジーッとよく観察。綺麗なピンク色。
「うん」
そこまでしてから、私はアルの首に抱きついて言った。
「良かった、無事で。本当におかえり」
「まさか帰る早々、ボディチェックされるとは思わなかったよ」
「なによ……一番大事なことじゃないの……」
どうせ後から宮廷医師の診察があるんだろうけど、とりあえず、ね。
それから私たちは近況を報告し合った。
私の学園生活は概ね順調だと告げる。
後で制服デートしたいなと言うと、アルは嬉しそうに笑った。
アルの話は聞いていて楽しい。
シールニア国は鉱物資源の豊富な国で、規模はユーインと比べると小さいけど、とても裕福な国なんだって。国王も貫禄のある方でとても良い国みたい。いろいろ国内を案内してもらって、参考にするところも多かったって語る。同盟国だし、今後も友好にやって行こうと約諾して来たようだ。
ちなみに、建国祭に国外から招聘されたのは同盟国であるユーイン王国だけらしい。それだけユーインの国力は無視できないものなのだ。
「近いうちミルーシュとやり合うつもりなのかもな……」
アルがボソッと呟く。
シールニアとミルーシュは長い間冷戦状態が続いている。
ミルーシュ公国。ジークフリートを匿う国。ユーインとも因縁がある。もしシールニアがミルーシュと戦争となったら、ユーインも参戦せざるを得ない。
怖い。思わずアルにしがみ付くと、背中を優しく撫でられた。
気を取り直すように、アルは言った。
「シールニアの第一王子は俺と歳が近くてなかなか面白い奴だったよ。ちょっと腹黒そうだったけど。今度、ユーインにも来たいって言ってたな」
ツンツンと私の頬をつつく。
「舞踏会はどうだった?」
「結構大規模なものだったよ。白亜の会場が立派でね。多くの上流貴族と挨拶を交わすだけでも大変だった」
へぇ……と私は頷いた。
「ご令嬢もたくさんいた? お姫様は美女だった?」
「どうだろう。あまり喋ってないし」
「ちゃんと踊った? 私に遠慮して踊ってないなんて言ったら殴るよ。アルは国賓なんだからね」
「怖いなぁ。大丈夫。ちゃんとやったよ」
アルは苦笑する。
「でも……浮気はしてないよね……?」
「するわけないだろう。すごーく紳士的でしたよー」
私の頭をグリグリと撫で回しながら笑った。
「なぁヴィー。ちゃんとわかってる? 俺は君以外を可愛いとも綺麗だとも思ったこともないし、触れたいと思うのは君だけだ。抱きたいのも口づけたいのも、全部君にだけなんだよ。浮気なんてあり得ない。もっと信じてよ」
アルは一途だ。いつも真摯に想いを寄せてくれる。廉潔で真っ直ぐな人。不誠実なことなんて一度だってしたことがない。
全ては私の自信のなさが問題なのだ。私が気弱だから、いつもアルを傷つけてしまう。
もっと強くなりたい。胸を張ってアルの隣に居られるように。
「アル……ごめんね。大好き」
アルが私の胸に顔を埋めて呟いた。
「ああ、俺の大好きなヴィーの匂いだ……やっと帰って来たんだって実感するよ。ずっとずっと君に触れたかった。抱きしめたかった」
そのまま、顔を上げ、
「今夜は帰さない」
と、アルがキッパリと言い放つので、私は真っ赤になった。アルの首に腕を巻きつけ、コクリと頷く。
私も……離れたくない。
もっとアルを感じたい。
「余裕ないから今夜は優しく出来ないかも」
口づけの後、耳元で囁かれた声が妙に艶っぽくて。私はそれだけで昇天しそうだった。
結局。
散々求められて、イヤと言うほど啼かされて、翌日足腰が立たなくなった私は、学園を休む羽目になり、後でお兄様の「昨夜はお楽しみでしたね」の嫌味と共に大目玉を食らうことになるのだが、それはまた別のお話。
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