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幼馴染が悪役令嬢の為に王太子殿下になってくれました  作者: みずきあきら


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第42話 アル、思い悩む。

※メタ発言あり。

 今日のアルはなんだかお疲れみたい。


 アルの部屋で仕事が終わるのを待っていた私は、帰ってきたアルを見るなりギョッとしてしまった。

 顔面蒼白で無表情で、どことなく憂いを帯びた雰囲気を醸し出していて。フラフラとした足取りで部屋に入っきたと思ったら、私の姿を確認するなり、無言のままぎゅうぎゅうに抱きついてきた。


「ア、アル?どうしたの?」

「………………」


 何も答えないで、さっきからやたらと甘えてくる。私の胸に顔を(うず)めてスリスリクンクン、くすぐったいってば。


「ねぇ、どうしたの? お仕事、大変だった?」

「そう言うんじゃないけど……」


 なんだか歯切れが悪い。アルらしくないね。


 仕方がないなと思いながら、とりあえず好きなだけ甘えさせてあげようと、私は愛しい人の頭を優しく撫で続けた。




 しばらくして、アルが口を開いたことには。


「……今、すごく複雑な気分なんだ。俺の過去を(あば)かれて公衆の面前で晒し者にされたような……不思議な感じ。上手く言えないけど……」


 意味がわからず、私は思わずプッと吹き出してしまった。


「何それ。アルの過去ってどんな? 何か悪い事でもしたの?」

「悪い事……したかと言われたら、した、かも」


 わずかに視線を彷徨わせるアル。

 ふむ。何を思い悩んでいるのかわからないけど、ちょっと物憂げだ。


「大丈夫だよ」

 私は言った。


「アルがどんなに悪い事してても、私だけはアルの味方だよ」


 アルの蒼い瞳を覗き込む。

 ゆらゆら揺れる深い海。


「………………本当?」

「本当だよ。だってアルが意味もなく正義に反する行いをするわけないもの。私はアルを信じてる」

「……う、ん…………」

「私だけはずっとアルのそばにいるよ。絶対に離れない。だから元気出して」


 あ、そうだ!と思いながら、ポケットを(まさぐ)って言った。


「アーンして」

「ん?」

「いいから、ほらアーン」


 アルが怪訝な表情でわずかに口を開けたので、私はそこに紅い飴玉を放り込んだ。


「甘いもの食べると元気が出るよ」


 ニシシッと笑顔を向けた。


「甘くて美味しいでしょう。私ね、この飴玉が昔から大好きでさ、小さい頃はよく持ち歩いてたなぁ」


 すると突然、アルがキスをしてきた。ビックリして「んん!」と抗ってもお構いなしに貪ってくる。時折息継ぎを挟んで長く深く繰り返されるキスは、とろけるような甘美さで、イチゴの味がした。


「もー! アルって大概キス魔だよね……」


 唇を離し、抗議の声を上げると、アルがすごく楽しそうに笑った。


「……ヴィーは昔から変わらないな」

「なによ。成長してないってことですかぁ?」

「違うよ」


 アルが優しい、だけど少しだけ泣きそうな顔をした。


「君は初めて逢った時からいつも俺の心の穴を埋めてくれる。もう君のいない人生なんて想像出来ない。大好きだよヴィー。一生手放せそうにないや」

「ずっとそばにいるって言ったでしょう。手放してもらっちゃ困ります」


 アルが強く抱きしめてきたので、その腕の中で目を閉じた。私だってアルのこと、大好きなんだよ。ちゃんと伝わってるかな?




「私がアルのそばを離れるのは……アルが浮気した時だけだよ」

「う、うわき??」


 アルが素っ頓狂な声を出した。


「そう。ねぇアル。浮気だけは絶対しないで。婚約者がいるくせに不貞を働く最低な人間にだけは絶対ならないでね」

「ヴィーは俺がそんな不誠実な男だと思ってるの?」

「思ってない! 思ってない、けど……」

「けど?」

「人の心は移ろいやすいもの。それが世の常、人の常……」


 ぶつぶつと呟く私。

 はぁ〜っと盛大に溜息を吐くアル。


「本当にバカだね、君は。幼い頃から君のことが好きで好きで堪らなくて、君の為なら俺の人生捧げちゃうくらい愛してるのに、どうして疑うの。俺のことを否定するんだ? 甚だ不快だな」

「…………!! ごめん!そんな意味じゃないの。本当にごめんなさい」


 アルはあの人(ジークフリート)とは違う。

 アルのことを信じてるって言ったのは嘘じゃない。

 それなのに、不安に駆られてしまうのは、私が前世の記憶に囚われているせいなのだろうか?


 そもそも、今、この世界ってどうなってるの?

 物語の舞台は隣国のミルーシュ公国なのでこの国(ユーイン)にゆかりの人物なんてジークフリートと悪役令嬢(私)だけだったから、完全に失念していた。ジークフリートが王太子でなくなった時点で物語が不透明になってしまっている。私はジークフリートの婚約者にさえならなければ大丈夫だと思っていた。………………でも本当に?




「ヴィー?」


 そんな思考の海から私を呼び戻したのはアルだった。

 ハッと顔を上げると、眉を下げたアルが。


「ごめんな、ヴィー。些か言い過ぎたかな」

「待って! どうして謝るの? 悪いのは私なのに。私こそごめん。アルを疑うようなこと言って。怒ってない?」

「怒ってないよ」


 ホッと胸を撫で下ろした私に、アルは苦笑した。

 そのまま私たちは再び唇を重ねる。仲直りのキスは、やっぱり甘かった。


 その後、耳元で囁かれる。

「心配しなくても、俺がドキドキムラムラするのはいつもヴィーだけだよ」

「ム、ムラムラ……って……それ、本人に言っちゃます!?」

「なんだよ。大事な事だろー」


 アルはあははっと豪快に笑った。

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