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幼馴染が悪役令嬢の為に王太子殿下になってくれました  作者: みずきあきら


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第39話 アルの過去④(アル視点)

 アルベルトは息を呑んだ。思いも寄らなかった言葉に思考が停止した。


「私は何もヴィアンカのことがあってだけで言っているのではありません。私は貴方を幼い頃からずっと見守ってきました。殿下のご気性もよく存じ上げているつもりです。貴方は真面目で我慢強く、頑として屈しない強い意志と決断力をお持ちです。何よりも志が高く聡明である。そしてここで暮らし始めて、国民を思いやる精神が芽生えたのではありませんか? 私は貴方様こそ次期国王に相応しい器であると確信しております。ジークフリート殿下では見通しの悪い未来も、アルベルト殿下でしたら、必ずやこのユーイン王国を正しく導いてくださる。出過ぎたことを申しているのは重々承知です。どうかこの国を、そしてヴィアンカを救ってくださいませんか」

「救う……」


 アルベルトは混乱していた。だが一方で正しく理解してもいた。パステルダール侯爵の言葉はアルベルトの心に重くのしかかった。

 王太子になりたいなどと大それたことを願ったことなどない。ヴィアンカを守る為に権力が必要だと考えたこともあるが、それは決して王太子の座を奪うことではなかった。


 「少し時間をください」と、領主邸を後にしたアルベルトは、真っ先に丘の上に向かった。そこはヴィアンカとふたりのお気に入りの場所だった。

 辺りはもう薄暗く、月明かりだけが頼りだ。


 草原にゴロンと寝転がり、満天の星空を見上げた。無数の星屑を眺めていると、自分がちっぽけな存在だと思えてくる。こんな自分が王となり一国を背負うことなんて出来るのだろうか。アルベルトの心はまだ決められないでいた。




 アルベルトはずっと考えていた。考えれば考えるほどに、ヴィアンカを守り、手に入れる為の手立てはひとつしかないのだと思い知らされた。

 だがそれは、ヴィアンカと過ごすこの穏やかな日々を手放すことを意味する。嫌だと思った。今の幸せな時間を失う、その恐怖に身震いした。だが、この幸せは両手で掬った砂のようなものだ。指の隙間からサラサラと溢れ落ちていく、不安定なもの。


 アルベルトの決意を決定的にしたのは、ヴィアンカの言葉だった。ある日の会話の中で、彼女が何気に口にした。


「ジークフリート様ってさ、今婚約者いるのかな」


 アルベルトは心臓を鷲掴みされた気がした。


 ヴィアンカはまだ怯えている。ジークフリートのことを。『王太子の婚約者にさせられちゃう』と語った幼き日のあの言葉。

 そして、今なお、ヴィアンカがジークフリートの婚約者になる可能性を潰し切れていない。


 それなら。

 自分が王太子になればいいのか。


 何よりも彼女を大事に思う。ヴィアンカが好きだ。初めて王宮で出逢ったあの日から、ずっと一途に恋焦がれていた。この気持ちは、日に日に膨らむばかりで、想いに上限などないのだと実感させられる。

 ヴィアンカを守らなければ。大丈夫。何も心配しないで。俺が君の懸念を取り除いてあげる。




 ヴィアンカと離ればなれになるのは半身が引き裂かれたようだった。だがこれも彼女との未来の為なのだからと、自分に言い聞かせた。

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