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幼馴染が悪役令嬢の為に王太子殿下になってくれました  作者: みずきあきら


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第38話 アルの過去③(アル視点)

 豊穣祭でのデートの帰り、ヴィアンカと別れてから、アルベルトは意を決して、パステルダールの屋敷に足を運んだ。そこは領主邸の本宅で、さすが侯爵家と言った立派な屋敷だ。

 自分の名を告げ、パステルダール侯爵にお目通しを願うと、すぐに中に通された。豊穣祭に領主が領地に赴かない訳にはいかないだろうと思っていたが、その考えは当たっていたようだ。


 ちなみにヴィアンカは領主邸の別宅に居を構えているらしく、ここにはいない。


 応接室で待っていると、程なくしてパステルダール侯爵が姿を現した。


「殿下、お待たせ致しました」

 そう言って、恭しく頭を下げてくる。


「突然の訪問に応じて頂き、痛み入ります」

 アルベルトがそう告げると、侯爵は優しく微笑んだ。


「殿下、お元気そうでなによりです。パステルでの生活が性に合っているように見受けられます。顔つきが穏やかになられましたな。本当に良かった。僭越ながら、本日はどういった御用件で?」


 アルベルトは単刀直入に告げた。

 ヴィアンカ嬢との婚約を認めて頂きたい。必ず彼女を幸せにしてみせますから、と。


 しかし侯爵はそれには応えず、わずかに眉間に皺を寄せた。


「娘と……ヴィアンカと仲良くして頂いているのは聞き及んでおりますが、まさか婚約、とは。本気なのですか?」

「勿論、本気です。私は彼女が好きです。彼女を守りたい」


 侯爵は、ふむ……と顎に手をやった。


「婚約、ひいては結婚となると、惚れた腫れただけではどうにもならないのです。貴方様も王家の一員なら、よくおわかりのはずでは」

「それは、婚約を認めて頂けない、ということでしょうか」

 アルベルトは俯き、両手をギュッと握りしめた。


「いえいえ、そうは申しません」

 侯爵は困ったように眉を下げた。


「ヴィアンカに、ジークフリート殿下との婚約話があがっていることをご存知ですか?」

「……はい」

「あの子はそれを断固として拒否しておりました。領地から絶対に出て行かない、ジークフリート殿下と婚約するくらいならここで平民になるとまで申しておりまして。何を馬鹿なことをと叱りましたがどうしても意思を曲げないのです。政略結婚が嫌なんじゃない。ジークフリート殿下が嫌なんだ、と」

「……そんな、ことを?」

「あの子はあの子なりに、ジークフリート殿下の本質を薄々察しているのかもしれませんな」

「…………」


 しばらくして、パステルダール侯爵が重々しく口を開いた。

「これから話すことは内密に願います」

と、前置きした。


「私は現在、財務大臣の任を拝命いたしておりますが、近年、国家予算に於ける王宮維持費の一部がミルーシュ公国に流れていたことにお気づきですか?」


 アルベルトは突然の物言いに面食らった。質問の意図がわからなかった。


「え? 何故です。ミルーシュとは同盟国でもなければ友好国でもありません。そのようなことはあり得ない」


 ミルーシュから支援要請が来たという話も聞いたことがない。そもそも王宮維持費が流用されるわけがないのだが。


「ジークフリート殿下です」

 侯爵はキッパリと言い切った。


「ジークフリート殿下がミルーシュ公国の、とある商会の娘に懸想しておるようで、請われるままに資金を流用していたのです。気がついた時にはそれは莫大な金額に膨れ上がっておりました。私は至急陛下にご報告申し上げ、すぐにその常軌を逸した行いが内密に粛正されることになりました。ジークフリート殿下は厳重注意だけで済んだようです」

 侯爵は眉間に手をやって、溜息を吐いた。


「ですが、ジークフリート殿下は資金繰りが上手くいかなくなったことに大層ご立腹なさいましてね。私に、『お前の娘と婚約してやるから金を出せ』と、そう申してきたのです。『王太子の自分と婚約できることをありがたく思え』と」

「な、なんですか、それは!」


 アルベルトは全身が総毛立つのがわかった。あいつはどこまでも性根が腐っている。ジークフリートに対するおぞましいほどの怒りを覚えた。


「その後です。陛下から、ヴィアンカへの婚約の打診を頂いたのは。ジークフリート殿下がどのように陛下へ懇請されたのかは知りませんが、あの方は外面だけは大変よろしいですからな。おっと、少々口が過ぎました」

 そう言って、侯爵は力無く笑った。


「私はヴィアンカが然るべきところへ嫁いでくれることを望んでいますが、それは決してジークフリート殿下のところではない。しかしそれが王命であるならば辞することができません。陛下も我がパステルダール家と縁続きになることはやぶさかではないご様子ですので。今は、あの子の領地での静養を理由に保留していただいていますが、それもいつまで続けられることやら」

「…………」


 侯爵は顔を手で覆っていた。

「私はあの子が何よりも大切です。ヴィアンカには幸せになってもらいたい。私の大事な大事な宝なのです」

「……わかります」

 アルベルトも神妙に頷く。


「アルベルト殿下。殿下は先程、ヴィアンカを守りたいとおっしゃってくださいました。私は非常に嬉しかった。そのお気持ちが嘘偽りなく本心であるならば、」


 侯爵はそこで一旦言葉を区切って、アルベルトをジッと見据えた。




「王太子におなりなさい」

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