第28話 レアール様降臨
アルは今年から学園に通っている。はずなんだが、通っている形跡がなく、いっつも王宮にいる。仕事が忙しいんだって。とは言ってもねぇ。いいのか、それで。
少し窘めると、
「来年からはちゃんと通うよ」
「なんで来年から?」
「だって、来年は君も通うから」
………………はぃ???
非常にアルらしい理由。笑っちゃう。
だからといって、全く通わないわけにはいかないようで、定期考査はちゃんと受けているみたい。授業も受けず、試験だけなのに、毎回一位をとってるんだから、アルは優秀だよ。さすがと言うか、ちょっと怖い。
そういう訳で、アルの制服姿はめちゃくちゃ貴重なのだ!
その日はアルの部屋で、チクチク刺繍を嗜んでいた。アルとお揃いの柄のハンカチを作ろうと、せっせと針を刺していた。四つ葉のクローバーをモチーフにした、自分で言うのもなんだが、なかなかお洒落な仕上がりに満足した。上出来だ。
「ここにいたんだ」
突然、ドアが開いて、アルが帰ってきた。
今日は中間の定期考査の日なんだって。
「おかえりなさい。お疲れさ……ま!?」
そこに居たのはアルなんだが。見慣れているはずのアルなんだが! アルじゃない。いつものアルじゃない。学園の制服を着たレアなアル。略してレアール。
アルの通う王立聖カトリア学園の制服は、ベージュのブレザーにえんじ色のズボンとネクタイ、胸には学園の紋章が刺繍され、更に襟に校章を付けた、特段変わったところのない、ごく普通の制服なんですよ。それなのに、それなのに、着る人によってここまで変わるのかと。
「な、な、な、なんてこと〜!?」
私は思わず絶叫してしまった。初めて見た制服姿のレアール様はもうなんと言っていいか、言葉に出来ないほどカッコよくて素敵で魅力的で、こんな人がこの世に存在するなんて、八百万の神に感謝するくらい感動した。
咄嗟に立ち上がった際、針で指を刺して、「いっだぁ〜!!」と、また絶叫している私を、レアール様は驚愕の表情で眺めている。
「おいおい、大丈夫か?」
「だ、だ、だ、大丈夫ではありません……胸が、胸が、張り裂けそうです……」
レアール様が近寄ってきて、血が滲んだ指をパクリと咥えた時には、私はもう茹でダコ状態で、頭から湯気が吹き出した。ヤバいヤバいって! レアール様の色気がハンパないッ!!
興奮で鼻息を荒くする私に、
「まだ痛い?」
と問いかけるその声が、甘く切なく響き、
「はい……心臓が痛いです……」
私はもう限界だった。
着替えてこようとするアルを必死で引き止め、そのお姿を目に焼き付ける為にガン見する。
「制服ひとつでなんでそこまで興奮できるのか、さっぱりわからない」
事情を察したアルが呆れた顔をしてる。
溜息を吐きながら、首元のネクタイを緩めるその手付きがこれまた色っぽくて、私は「はうっ」と頬を抑え、ソファに倒れ込んだ。
「もうダメ……尊い……好き……」
その呟きに、アルは
「ふぅん?」
と満更でもなさそうなんだけどなんなの。
私はテンションMAXだった。
「制服は学園物のセオリーでしょうが!」
と、アルに力説する。
「こんな素敵な人が学園に通ってたらさぞやモテてモテて仕方がないでしょうね。どうするのよ! 『アルベルト先輩、好きです! 付き合ってください』なんて後輩に言い寄られたら! ねえ、アル!」
「いや、俺、まだ1年だし」
「はッ! じゃあ敵はお姉様方か! 『アルベルト君、私と付き合いなさい。先輩命令よ』とかか!? 女教師って可能性もあり得るな。『実録! 美人女教師に狙われた美少年』が完成してしまう。どうしよう。アルの貞操が! 危険に晒されている!!」
「ちょっと落ち着けって」
私はアルのお立場も忘れ、興奮と混乱の坩堝と化していた。
「なにそんなに余裕をかましているのよ! これは由々しき問題なんだよ! 学園中の女性が、女性? ……い、い、い、いやぁぁ〜! 男はみんなオオカミなのよ! 男性にも狙われているに違いないわ! 『殿下、僕たちBがLしましょう』な展開になったら……なったら……それはそれで萌える……じゃなくて!! あああ、なんてことだなんてことだっ!!!」
「ヴィーはホントに面白いな」
「アアアアル、気をつけなきゃダメだよ! 男はみんなオオカミ、女はみんなハイエナなんだからね! アルは私のだよ! アルには可愛い可愛い最愛の婚約者がいるの、忘れないで!」
「わかってるよ」
「側妃の問題が解決したばっかりなのに、今更他のハイエナに掻っ攫われてたまるもんですか! なんですぐこんなことになっちゃうの。アルが悪い! アルが素敵すぎるのが悪いんだ!」
「はいはい」
「おいで」と、腕を広げてくるので、私はアルの胸に飛び込んで、頬をスリスリ擦り付けた。
「猫みたい」と苦笑しながら、優しく優しく頭を撫でてきて、
「ヴィー、俺はすごく嬉しいんだよ。君がちゃんと約束守ってくれていること」
「約束? なんだっけ」
「不平不満愚痴なんでもいいからちゃんと話してくれって言っただろ。君がそうやって不安を口にして伝えてくれるのが、たまらなく嬉しい」
「そ、そう?」
「愛してるよ、ヴィー。他の誰かなんて目に入らないくらい、君に夢中なんだ。だからなにも心配いらない」
私たちは唇を重ねた。腰が砕けるほどの快感に全身が痺れる。アルにしがみ付きながら、その深い深いキスに身体を委ねていた。
アルの腕の中で、そっと呟いた。
「私ね、アルのそういうところ、大好き」
「ん? ヴィーの可愛い唇、美味しくいただいちゃうところかな?」
「バカ」
顔を上げ、アルの深い海をジッと見つめた。
「いつも好意をちゃんと伝えてくれるとこ。アルがいつも好きだ愛してるって言葉にしてくれるから、私も安心してアルを好きでいられる。言葉にするって大事だね。アルの言った通りだ」
「……うん、そうだな」
そして、アルは囁く。
「これからも何万回も口にするから、聞き飽きたなんて言うなよ?」




