表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染が悪役令嬢の為に王太子殿下になってくれました  作者: みずきあきら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/76

第25話 王宮を探索します②

 フラフラと彷徨っていたら、匂いに誘われて、いつの間にか厨房に辿り着いていた。そういえばそろそろお昼時かぁ。厨房内はさながら戦場のようになっていた。

 王宮の全ての食を賄う宮廷料理人は、王族を含め、王宮で働く人々の、いわば胃袋の番人だからね。それだけ責任も重大だって聞いている。お手伝いを申し出ようかと思ったけど、小娘なんかが下手に手出しをしていいわけがない。


 厨房から離れ、裏口に回った時、ひとりの少年が山盛りのじゃがいもを一心不乱に皮剥きしていた。


「手伝ってもいい?」

 そう話しかけると、少年は顔を上げ、私の姿を確認するなり、

「できんの?」

と、ぶっきらぼうに言ってきた。


「馬鹿にしてもらっちゃ困るなぁ。田舎でよくやってたもん」


 私は少年の隣に腰を下ろし、刃物を手に取った。じゃがいもの歪な形は本当に剥きづらい。速さはないが丁寧に剥き終えると、どーよ?と鼻高々で少年に差し出した。


「下手くそ」

と言われたけど、止められることはなかった。


「田舎ってどこ」

「パステルダールだよ。知ってる?」

「パステルって、ああ、あの大きな街か。オレはセブール村」


 セブールは1年くらい前に疫病が発生し、死者も出た村なんだって。幸いにも少年は罹患しなかったが、妹さんが罹ってしまい、生死を彷徨ったらしい。


「あの時はもうこの村はお終いだと思った」


 少年は、そうボソッと呟いた。

 疫病が終息し、日常を取り戻した頃、王都に出て来たそうだ。村に仕送りをする為に。

 少年はリン君と言って、私よりひとつ年下の愛想のない男の子だったけど、心根は優しい子なんだなと思った。


「村はもう大丈夫なの?」

「ああ。今、国の支援で下水処理?とかいう工事が行われてる。そうすれば疫病が発生しにくくなるんだってさ」


 私はハッとした。以前、ランシード先生が教えてくれた話を思い出したからだ。王太子殿下が推進する上下水道完備の計画の話。あの時、ランシード先生は、これが実現すれば国の在り方が変わると言っていた。そして私も今、それを実感する。本当に実現してしまうなんて、アルって凄い……


 いろいろと話をしながら、ふと尋ねてみた。


「ねぇ、リン君は宮廷料理人になるの?」

「は? ンなの無理に決まってんじゃん。雑用ばっかのオレが」


 リン君は少し怒ったように言った。


「あのねー。誰だって始めは下働きからでしょうが。それに王宮の厨房に採用されるってだけでも凄い事なんだよ。大丈夫。リン君ならなれるよ」

「テキトーなこと言うな。あんたにオレの何がわかるっての」

「……わかるよ。だってコレ」


 皮の剥かれたじゃがいもの山を指差す。


「この短時間にこんなに丁寧で繊細に作業するの、相当努力したんじゃない? リン君が真面目で努力家な証拠でしょ?」

「……こんなの、当たり前だ」

「そう? 当たり前のことを当たり前にこなすの、実際は結構難しいんだよ」

「…………」


 リン君は俯いている。私は追い討ちをかけるように、言葉を紡いだ。


「それにさ、さっき村の話を一番最初にしたでしょ。あれって、私の反応を見る為だったんじゃないかなって」

「……なんで」

「疫病のことで、誰かから嫌なこと言われた? だから私を遠ざけようとしたんでしょ。違う?」

「…………」


「リン君は人を思いやれる、優しい子だなって思ったよ。そういうの、料理人として人に尽くすのに大切なことだと思うな」

「…………」

「…………」

「……知った口きくな」

「へへっ、ごめんごめん」


 私はなんとなく気がついていた。小さな村出身の彼がなにかしらのコネを持っているとは考えにくく、この若さで王宮の厨房に勤められることは通常はあり得ないことなのだ。この世界も縦社会だからね。ある程度の身分と信用が求められる。

 この子は多分何かしらの才能を秘めていて、それを見込まれて採用されたんじゃないかな。たしかに刃物の扱いは上手い。神業のように、正確で素早く、そして美しかった。


 私はニッコリと笑いかけた。

「リン君がさぁ、宮廷料理人になったら、私の専属料理人にしてあげてもいいよ」

「は? なに言ってんの?」

「だから頑張りな」

「あんたバカだろ」

「なんで。本気なのに」


 リン君はしばらく無言だったが、顔を上げた時はどことなくスッキリした表情をしていた。


「わーったよ。じゃあ、オレを雇えるくらいにせいぜい上り詰めてみせてくれ」

「うん。私、将来、王妃様になるつもりだからさ」


 リン君は盛大に吹き出した。

「あんたみたいなへちゃむくれが王妃様になれるとは到底思えねぇけどな」

「へ、へ、へちゃむくれぇ!? なんだとぉ? 取り消せ! 取り消せ!」

「わっバカ! 刃物を振り回すな!」




「おい、リン! なに遊んでんだ! そっちが終わったらサッサと中を手伝え!」


 厨房から怒鳴り声が聞こえて、リン君が慌てて立ち上がった。


 去り際に、

「そろそろオレらの賄いの時間だから、あんたの分も頼んどいてやるよ。表口から入ってこい」

「ホント!? ありがとう!」


 やったぁ〜! お腹空いてたんだよね。




 厨房の表口に回ると、先程の戦場のような慌ただしさは過ぎ去り、料理人さんたちはひと心地ついたみたいだ。グッタリとしゃがみ込んでいる者もいる。毎日こうなんだったとしたら、大変だな……


「よう、嬢ちゃん。リンから聞いてるよ。賄い食べていきな。今日はパオだぜ」


 パオとは小麦粉の皮に餡を包んで蒸した、中華まんみたいなものらしい。蒸し上がる湯気と、いい匂いが漂う。ほかほかの中華まんはめちゃくちゃ美味しそうで、ぐぅ〜とお腹の虫が騒ぎ出す。元気のいい腹だなと笑われた。お恥ずかしい……


「何個食べる?」

と聞かれたので、

「ん〜じゃあ、3個! 3個ください」


 あんた見た目によらず大食いだなとリン君に呆れられながら、熱々のパオにかぶりつく。肉汁たっぷりでめちゃくちゃ美味しい。ん〜幸せ! ハフハフ言いながら頬張っていると、料理人さんたちに、

「美味そうに食べるなぁ」

と言われた。


「すっごく美味しいです! さすが王宮の料理人さんは腕がいいですね。最っ高!」


 こんなのあり合わせだよと言いながら、満更でもなさそうだ。

 みんな優しくて雰囲気も朗らかな厨房は、とても居心地がいい。


 2個目のパオに手を伸ばした時、急に首根っこ掴まれて引っ張られた。ビックリして、猫みたいに大人しくなる私。にゃんにゃのにゃ〜。


「お前、こんなとこで何やってんの」

 振り向くとお兄様が眉を顰めて立っていた。


「何って……お昼ごはん……」

「あのなぁ。アルベルトがお前とランチするんだって待ってんだぞ」

「え〜。そんな約束してない……」

「いいから、行くぞ」

「く、苦しいって! 引っ張んないでよぉ!」


 突然のお兄様の登場に、厨房のみんなは立ち上がり、頭を下げていた。居た堪れなくなりつつ、おずおずと私は申し出た。


「残り、持ち帰ってもいいですか……?」


 慌てて包んでくれた2つのパオを胸に抱えて、手を振った。


「ありがとう。また遊びに来ます。リン君、またね」


 リン君は呆気に取られた顔をしていた。


「えっ、あいつ、何者……?」




 アルの執務室に向かう途中、庭園に寄ってもらい、庭師のおじさんから花束を受け取った。

 ちょうどお昼休憩をしていたおじさんに、差し入れだと言って先程のパオを渡したら、大層喜んでくれた。


「はぁ……お前はホント自由だね」


 お兄様は盛大に溜息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ