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幼馴染が悪役令嬢の為に王太子殿下になってくれました  作者: みずきあきら


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第24話 王宮を探索します①

 王宮には何故か、私専用の衣装部屋がある。当然のようにアルが用意してくれた。そこには一生着るに困ることのないほどの衣装が並んでいて、正直最初は戸惑ったものだ。

 目にも鮮やかな煌びやかで豪華なドレスが所狭しと並んでいて、ひと目で最高級品だとわかる。飾り気のないドレスばかり着ている私にはこれから先、着る機会が訪れるのだろうかと疑問だが、アルが私に似合うと思って選んでくれたのだとしたら、それはそれで嬉しい。


 その衣装部屋で、私は着る物を選んでいた。シンプルで動きやすいのはないかな、と。

 一緒に選んでくれているハンナが、一着のワンピースを差し出してくれた。


「これなんかいいんじゃないですか」


 濃紺のなんの刺繍も施されていないシンプルな膝丈のワンピース。胸元にやや大きめのリボンを結んだだけで、何も装飾品がなくて、動きやすそう。


「わあ! いいね!」


 これに決めた。ハンナに手伝ってもらい着替える。サイズはピッタリだ。アルがなんでここまで私の身体のサイズを把握しているのかは、怖いので聞くまい……


「ハンナ、2つに三つ編みして!」


 私の心は弾んだ。






 王宮では何百という人が働いている。

 政務を補佐する宰相や大臣、補佐官、文官などの役人。それから騎士団や軍隊などの戦闘職の人々。そしてこれらを世話する使用人……など様々だ。


 いつも多くの人が行き交っていて、賑やかだ。王宮といっても王族が住んでいるだけではないのだ。だから途轍もなく広い。いくつもの棟が立ち並び、ひとつの街のようになっている。王族が住まう城はその中でも一際大きく警備もガッチガチで荘厳な造りになっているのだが。




 私は王宮内を探索すべく、ウロウロと彷徨っていた。アルが好きにしていいって言ってくれたので許可は得ている。アルはホントに私に甘すぎるよ……


 王宮の庭園に足を踏み入れると、鮮やかな花が咲き誇り、その中でも一際目を引くのが、真紅の薔薇だった。キングダムローズって言う特別な品種で、ここでしか咲かない薔薇なんだって。凄くゴージャスでとてもいい香りがする。


「こんにちは、おじさん」


 庭師のおじさんに話しかける。


「おや、お嬢ちゃん。初めて見る顔だね。新入りかい?」


 むむ、使用人に間違われているみたい。まぁいいや。


「ねえ、おじさん。この薔薇ひとつ貰ってもいい?」

「駄目駄目。勝手に摘んだら罰せられちまう」


 王族の許可なく摘むことは許されないそうで、それほど貴重で稀少なものらしい。残念。


「それじゃ、王太子様の執務室に飾る花はどんなのがいいかしら」

「なんだ。お嬢ちゃんは王太子殿下付きの侍女なのかい。わかった。見繕っておいてあげるよ。もうしばらくしたらまたおいで」

「はぁい。ありがとう」




 またウロウロと彷徨い出す。

 井戸のそばで大量の洗濯物と格闘する若い女中がいたので、話しかけてみた。


「大変そうだね。手伝うよ」


 最初は驚いて警戒していた彼女だが、私が隣でゴシゴシし出すと、表情が和らいだ。


「あなたの仕事の方は大丈夫なの?」

「うん。私なら大丈夫」


 う〜ん、やっぱり使用人に間違われてしまうようだ。何故。濃紺のワンピースがお仕着せに見えるのかな。一応、最高級の生地で仕立てられてるんだけどな。それとも私が地味なのかな。ふ、ふ〜んだ。いいんだけどね別に、と少しいじける。


 後で知ったことだけど、普通、王侯貴族のご令嬢は使用人に気軽に話しかけたり、ましてや仕事を手伝ったりなんてもってのほかなんだって。ああ、なるほど……って、そりゃそうか。


 これ貸してあげる、と言われ、エプロンを渡された。

 女の子ふたりがいればおしゃべりに花が咲かない訳がない。彼女はマリーさんといって、私と同い年の明るい笑顔の少女だった。男爵家の三女で、2年前に田舎から出てきて、ツテを辿って王宮に採用されたらしい。

 王宮の噂話に詳しくて、聞けば聞くほど興味深い。驚いたり笑ったりと、とても楽しい。思い返せば、王都に出て来てから同年代の女の子と話す機会なんてなかったから余計にね。


 そして話は恋バナにも及ぶ。意外にもお兄様が人気あるみたいで、マリーさんも密かに憧れてるんだって。


「たまにお見かけすることがあって、その度に見惚れちゃう。私たち使用人にも優しいし、まさに貴公子って感じよねぇ」


 うっとりとマリーさんが言う。


 わからないでもないかな。お兄様はあれで女性には優しいフェミニストだから。でもねぇ……う〜ん。あの人、平気で可愛い妹に拳骨を食らわしてくる鬼だよ。


「だったら王太子殿下の方が素敵じゃない?」

「ダメよ。あんな雲の上の人。ルドルフォ様だって充分高嶺の花だけど、王太子殿下は別格でしょ。別次元の存在、神よ、神」


 マリーさんの言い方が面白くて笑ってしまう。


「ヴィアンカさんは王太子殿下にお会いしたことある?」

と聞いてきたので、私は頷いた。


「わあ、いいなぁ。素敵な方なんでしょ?」

「うん、すっごく素敵」

「殿下をお見かけした日はその日一日運がいいらしいよ」


 なんと、アルで運勢が決まるらしい。


「それだけ滅多にお姿を拝見できないってことなんだよね。でもさ、運良く目に留まってお手付きにでもなれば、正妃は無理だとしても、側室か妾になれるかもしれないよ。ヴィアンカさん、可愛いし、チャンスあるかもよ。頑張ってみちゃったりなんかしたら」

「え……側室? 妾?」

「王族の特権でしょー。凄いよね。私だったら嫌だなぁ。好きな人には私だけを見てて欲しい」

「私も……そんなの、嫌だ……」


 考えてもいなかった。アルに側室? アルが私以外の女性と? そんなの嫌に決まってる。もしアルが私以外を娶ることになったら、きっと正気ではいられない。アルは私だけのものだ。

 だが、どう足掻いてもそれは王族の特権なのだ。地位を強固にする為、更に血筋を残す必要のある王族の、大切な役割。

 好きだって気持ちだけじゃどうにもならない。

 あの日……再会したあの日、アルは私に覚悟を決めておけと言った。それにはこういうことも含まれていたのだとしたら。私は全然、覚悟なんて足りていなかった。


 洗濯も大半が片付いたし、私はよろよろと立ち上がり、

「そろそろ行くね」

と、マリーさんに言った。マリーさんは「頑張ってね」と親指を突き出してきた。私は曖昧に笑うしかなかった。

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