風の国エッフェルバルト
大陸に七つある国の一つ。
風の加護を受けし国、エッフェルバルト。
緑豊かな自然が特徴的な国である。
エッフェルバルト領土内の中心部に位置するエリナス大平原は、観光地としても名の知れている場所だ。
ルーカス村の東口を一歩出れば、大陸全土でもトップクラスの広さの土地面積を有する大平原に足を踏み入れることになる。
見渡す限りの柔らかな草が生い茂り、色とりどりの花が一面に咲き誇る。まさに地上の楽園。
「あの草原の上で寝てみたい〜」
視覚でしか大自然を感じることができなかったゲームとは違い、今は五感をフルに使って安らぎを得ることができるからね‼︎
エリナス大平原には魔物が寄り付き辛く、数多の草食動物達が群れを成して生息しており、穏やかな環境を維持し続けている。
そんな一見平和そうに思えるエッフェルバルトではあるが、その守られるべき豊かな自然が、国王自らの手によって破壊されようとしている。
他国に武力で引けを取るまいと武器工場の大量建造を目論み、土地の広さを利用して平原の至る所に設置するプランを強引に推し進めようとしている。
有毒な廃棄物を垂れ流し、自然破壊をも厭わない国益を損なう本末転倒な政策だ。
「それって自然環境を壊してまでやること⁈」
少し前まではまともな人が王位に着いていた。
とても温厚な性格の持ち主で、民からの信頼も厚い国王だったのだが、何らかの理由で逝去してしまう。
それに伴い、新たに就任した現国王のガルストン。
エッフェルバルトの王都キルキスの玉座に居座っている。
ガルストンは実に傲慢な人間性で、非常に上から目線な性格であるがために、一部の民衆から強い反感を買っている男だ。
表舞台では偉ぶっている王様、裏では罪人と深いパイプを持ち、あらゆる悪事に手を染めている、まさに忌むべき悪役キャラである。
王都の城下街に自身の銅像を建てるよう命じて造らせていることから、私の大っ嫌いなタイプのナルシストな奴……‼︎
「思い出したらなんか鳥肌立ってきちゃった」
まぁこの王様は主人公パーティにメタメタに倒されて監獄送りになる運命なんだけどね。
エッフェルバルトは強く風属性の影響を受けている。
ガルストンは風の精霊様の恩寵を受けているから、結構やっかいな相手だ。
面倒なデバフ付きの風魔術を使用してくるので、だいぶ苦戦させられた記憶があったりなかったり。
とにかく、国内が酷い内部状況なので、辺境の地であるルーカス村は見放され、孤立している。
辺境と呼ばれるのはその為だ。
国から戦闘に特化した魔術師や騎士が、村の護衛に来てくれることもほとんどなくなった。
結果として治安が乱れ、盗賊が村に押しかけてくることが増えたらしい。
夜な夜な畑を荒らして食料を掻っ攫っていくといった被害が多発したりと、散々な目に遭っているのが現状だと村長は言っていた。
昨日の魔物撃退の一件よって、私とエステルは、村の内部事情を教えてもらえる程の信頼を得た。
村の困りごとを一つ取り除いたってだけなのに、私たちは身に余る恩恵に与っている。
宿賃はタダ。アイテムと装備品は半額値引き。
酒場は格安で数時間飲み放題。
駆け出し冒険者のエステルとしては、願ってもない最高のスタートが切れたんじゃないかな⁈
そして、今日は村長さんにお呼ばれされているので、村の待ち合わせ場所に二人で来ていた。
「村長さん、こんにちは‼︎」
「よくぞ来てくれましたなお二方。今しがた村の者から聞いたのじゃが、どうやら村に来たばかりのエステルさんに不遜な態度を取ってしまった者がいたようで……どうか許してやってください。皆、外から来る部外者に警戒心を抱いているのです」
「村長さんが気に病むような事ではございません。国民が疑心暗鬼に陥ってしまうのは当然なのです。全ての原因は、現国王ガルストンにあるのですから……」
「国王がまともな人間ならここまで酷くはなってないよね。民を蔑ろにするなんて最低‼︎ 王様失格だよ‼︎」
私が村を滅ぼそうと糸を引いていたなんて、口が裂けても言えない……‼︎
村長さんの困り果てた表情に同情心を抱きながらも、エステルが本題へと切り込む。
「今日わたくしたちをここに呼んだのは、何か協力してほしいことがあったからでしょうか⁇」
「貴女方の手を煩わせるつもりはなかったのじゃが、話だけでも聞いてもらえないかと思いまして」
「分かりました、是非お話しを聞かせてください。レムナ様もよろしいですか⁇」
「もちろん‼︎」
私に出来ることなら何でも手伝うつもり‼︎
善行を積み上げていくことが大事だからね‼︎
「ありがとうございます。して、貴女方をお呼びしたのは他でもない、ワシらのために援助をしてくださるありがたい方々が村にお見えになるからじゃ」
「と、言いますと⁇」
「今日は彼らのリーダーと会議をする予定でありまして、是非お二方にも参加してほしいのです」
ルーカス村に暮らす人々はせっせと畑を耕しながら自給自足の生活を強いられているわけだが、村長さんいわく、月に一度、たくさんの物資が運ばれてくるとのこと。
偶然にも私たちが滞在していた日と重なったって話だ。
すでに村人立会いの元、各場所に様々な物資が運び込まれている様子が伺える。
そんな慌ただしい村の様子を眺めていたエステルが疑問を呈する。
「一体誰がこんなにもたくさんの物資を提供してくれているのでしょうか」
「めちゃくちゃ正義感のある人なんだろうね」
ルーカス村って結構あっさりと抜けちゃう上に、村の実状とかそこまでの掘り下げはなかったから、知らないことの方が多い。
そもそもレムナは裏で暗躍していただけで、ルーカス村に一切顔を出さないし、もうだいぶ世界線変わっちゃってる気がする……‼︎
となると、やっぱリーダーが気になるね。
数台の荷車から物資をひたすら運んでいる人達は、おそらく全員部下だと思う。
「リーダーのお方は他者に顔を見られたくないようでして、基本的に荷車から出ないんじゃよ」
「村長さんも顔を見たことないんですか⁇」
「えぇ、まだ一度も。じゃが、例えどんな人間であっても、我々に取っての救世主であることに違いありませんゆえ。これだけの支援をしていただいてる手前、その者が誰であるかを詮索することは厳に控えておるところです」
なるほどね。
ただ、会議をするってことは、初めて顔を出す可能性もあるってことだ。
「さぁさぁ、ずっと外にいては暑いでしょうから、先にワシの家で寛いで待っていてください」
私とエステルは、性別すらも分からない謎の人物と会議をするため、村長が暮らす住居へと足を運んだ。




