諸悪の根源は……
あんなに動きが遅いんだから、背後に回り込んで奇襲を仕掛けるのが得策かも。
勘付かれないように移動して、グールの親玉だけでもやっつけてしまえば群れは瓦解する。
ボスを倒せば手下も逃げるという有りがちなゲーム設定を信じるしかないか。
「エステル、見つからないように村の側面からグール部隊の背後を取ってから――――」
「グールさん、お覚悟っ‼︎」
「なっ⁉︎」
私が作戦を伝えるよりも先に飛び出した。
さっきまでの怖がり方が嘘のように突っ走る。
いくら何でも、正々堂々と正面からやり合うのは数的に厳しくない⁈
やる気があるのはいいんだけどさ、お願いだから一人で突っ込むのはやめてー‼︎
まぁ新米冒険者とはいえ、腐っても主人公だ。
こんなところでやられるような玉じゃないのは分かってる。
すでに魔物のすぐ近くまで迫っているエステル。
さすがに足が速い。
まぁ走っていると言うよりは、風属性の魔術を操って動いているわけだが。
「レムナ様、わたくしが先陣を切ります‼︎」
自身の足回りに風域を作り出し、その風の拡散力を持ってして空中を浮遊しながら、加速度的に移動。
本来の人間の走るスピードとは一線を画する。
やっぱりエステルは凄い……‼︎
魔術の才能はピカイチ、英雄と讃えられるキャラクターは持ってるモノが違う。
「すぐに追い付くから‼︎」
エステルの背中を追いかけるように、全力ダッシュでグールの陣取っている場所へと向かった。
ゲームで戦った時とほとんど同じ絵面で、エステルと親玉グールの戦いはすでに始まっていた。
「グールの皆さん、あなた達に恨みはありませんが、村を襲うなら容赦はしませんよ‼︎」
『グルルっ、グガっ……グゲっ……‼︎』
エステルは装備していたショートソードを構え、風の魔術と共に攻撃へと撃って出た。
「エアロソード‼︎」
風の塊を剣に纏わせ、グール目掛けて斬り込んだ。
グールは少し怯んだように見えたが、すぐに体勢を立て直して雄叫びを上げる。
親玉グールを守るために、周りにうじゃうじゃと手下のグール達が集まってくる。
「エステル危ない‼︎」
周りに気を取られていたエステルの隙を付き、親玉グールの拳がエステルの顔面を捉えようとした。
が、何故だか攻撃をやめてしまった。
エステルの魔術によるダメージが大きかったのだろうか⁇
「グガッ、ガッ……れ、レムナ閣下……⁈ 何故このような場所に……‼︎⁉︎」
ん……んん⁈
なんか魔物に話しかけられた気がするけど。
いやいやそんな馬鹿な……魔物が人間の言葉を話すなんてあり得ない。
「レムナ様、何だかよく分かりませんが、グールの動きが止まっております。今の内に畳み掛けてしまいましょう‼︎」
「今がチャンスだね‼︎」
『あ、あ、あなた様は確か……かの地、監獄要塞ヘルヘイムに幽閉されていたはずでは⁈』
無視無視、気のせいに決まってる。
多分私の頭がおかしくなって、幻聴が聞こえているだけだよね……‼︎
『ご帰還されているなら、我々に一言伝えてくれればお迎えにあがりましたのに……‼︎』
えーと、やっぱり喋ってますよね⁇
思いっきり話してますよね⁉︎ この私に‼︎
私はグールの群れを一瞥した。
『ひ、ひぃぃぃ……レムナ様をお助けできなかったのは、我々の不徳のいたすところ……どうか、どうか寛大なる措置を……‼︎』
「あのー、グールさん⁈ ちょっとお尋ねしたいのですが、どうしてそんなに怯え遜っているのか聞いてもいいですか⁈」
『な、何をおっしゃいます閣下。我々は貴女様の忠実なるしもべ……それ以上でも以下でもございません』
「うーん、そうだっけ⁈」
『まさか、あの監獄から無事に生還できたとは驚きましたよ。ささ、この生意気な小娘を平らげて、さっさと村を燃やしてしまいましょう‼︎』
「ちょ、待って待って‼︎」
『あなた様が企てた当初の計画通りでございます。あの時言ってたじゃないですか。"手始めに見窄らしいルーカスって村を焼き払っておしまい‼︎"……って‼︎』
あの時ってどの時よ‼︎
てか、諸悪の根源思いっきり私じゃん‼︎
グールの群れが入り口付近で待機していた理由は、村の中から凶悪な魔女の匂いが漂っていたからだ。
『何卒、ご命令を‼︎』
あぁ、おわた。完全にバレた。
もう何もかも終わりよー‼︎
軽蔑されただろうなぁ。
ブランドール様に続いて主人公にも嫌われる。
結局どう足掻いても、バッドエンドに向かう運命は避けられないのね……‼︎
私は恐る恐るエステルの顔を覗き見る。
そんな私の絶望感に反して、何故かキラキラと目を輝かせてくるエステル。
「す、凄いですレムナ様‼︎ 魔物さんとお話ができるなんて……これは奇跡という他ありません‼︎」
「えぇぇ……⁉︎」
「わたくしには何を喋っているのか全く分かりませんが、これもレムナ様の特殊な能力なのでしょうか⁈」
まぁエステルには魔物が唸っているようにしか聞こえないらしいが……。
いや待て、これは利用できるわね。
私は忌み嫌われる醜悪な魔女。
今この瞬間だけ、魔物を従える悪役キャラに転じてみるか。
私は顔をぐにゃりと変貌させ、悪役面で偉そうに腰に手を当てがい、上から目線で命令を下す。
「こほん。我が下僕共、聞くがよいわ。この村の焼却作戦は放棄して、直ちにルーカス森林から撤退せよ」
『へっ……何故です閣下。森に潜みながら、その時を今か今かと待っていたのですが……』
「くどい‼︎ 早々に我々の住処へと戻り、来たるべき戦いに向けて万全の準備を整えるのだ‼︎」
どこかも分からない住処、適当にあさっての方向を指差しながら睨み付ける私。
『は、はぃぃぃい……仰せのままに‼︎』
(さすが悪役、型にハマってるじゃん♪)
あれだけ息巻いていたグールの集団は、呆気なく村から姿を消してしまった。
場の高まっていた緊張感が一気に崩れ去り、力を失ったかのようにガクッと膝を突くエステル。
私は、精神的に疲れ切った一人の勇敢な少女に手を差し伸べてあげた。
「お疲れ様‼︎」
「はい‼︎ レムナ様もお疲れ様でした‼︎」
お互いニコッと微笑み合い、村の避難場所へと向かう。
村長と思しき老人と避難していた村人達が、拍手をしながら出迎えてくれた。
「旅のお方、本当にありがとうございました。貴女達の活躍、遠方から見ておりましたぞ‼︎」
「いえいえ、当然のことをしたまでです」
「今し方、奴らは森からも完全に姿を消したとの報告が入りましたゆえ……本当になんとお礼をすれば良いのやら……」
ま、結果オーライ。
本当はエステルの力で倒す方が良かったのかもしれないけど、みんなが無事で何よりだね。
こうして村の危機は去り、村人達の生活に平穏が戻ったのだった。




