美少女エステル
ゲーム世界に転生してからまともに睡眠を取れていなかったからか、肉体的にも精神的にも疲れが溜まっていたみたい。
そのせいか、過去のショッキングな思い出が夢に出てきてしまった。
でもやっぱり、また会いたいな。
私がセブンソーサリーの世界で冒険してるって知ったら、びっくりして腰抜かすだろうな……‼︎
優奈、元気にしてるかな⁇
お別れもできずに事故って死んでしまったけど、彼氏と上手くいくといいね。
親友よ、遠い世界からずっと応援してるから……頑張っ‼︎
感慨に耽っていると、エステルが心配そうに顔を覗き込んできた。
「もの凄くうなされていたようですが、お加減が悪いのでしたら、無理なさらずに寝ていてくださいね」
「ぐっすり眠れたからもう大丈夫だよ‼︎ 私はこの通りピンピンしてるから‼︎」
「確かに、先日お会いした時よりも顔色が良くなっているみたいですし、お身体が回復したようで何よりです。改めまして、先日は親切にして頂きありがとうございました」
「ほんとに気にしないで‼︎ 私も一人きりで不安だったから、声をかけてくれて嬉しかったんだよ⁈」
「わたくしも旅を始めて間もない身ですので、頼りになる人と巡り会えて幸運でした‼︎」
ゲームではどんなルートを辿ったとしても、私たちがこのルーカス村でばったり遭遇することは百パーセントないんだよね。
これが異世界転生の醍醐味、本来なら絶対にあり得ない二人が愛見える奇跡が起きてしまう。
それに、美少女が近くにいるだけで、目の保養になるよね〜ウヘヘヘ〜……‼︎
と、それはさて置き。
ルーカス村は、主人公が最初に辿り着く場所であり、旅の始まりとなる言わばスタート地点だ。
物語の序盤も序盤だから、さすがにルーカス村のことを思い出すのに時間がかかってしまったが。
主人公のエステルは、この地で冒険の準備をすることになるんだけど、最初は手持ちが少ないんだよね。
だからこそ、無駄に出費を増やしてしまったのが悔やまれる。
「昨日は宿賃出してもらっちゃってほんとごめん‼︎ この借りはいつか必ず返すから……‼︎」
「いえいえ、道案内の対価……ということで、貸し借りはなしですかね……⁉︎」
うんうん、メインヒロインの優しさが身に染みる‼︎
私の所持金は銀貨一枚の10ルピカしかなくて、ほぼ無一文だったので、仕方なく宿賃を奢ってもらったんだよね。
エステルがいなかったら、そこら辺で野宿をするはめになってたから、そりゃもうめちゃくちゃ助かってるのよ。
「それはそうと、レムナ様。少々お腹の虫が鳴っているようですが……‼︎」
うげっ、しばらく何も口にしてなかったから、おもいっきり空腹なの忘れてたー‼︎
「既に朝食の準備は済ませてあります。お持ちしますので、今しばらくお待ちください」
「エステルって料理も作れるんだ‼︎」
「えぇ、小さい頃からお母様に教わっていたので……と言っても、城の料理長が作るお料理に比べたら、わたくしの腕など大した事はございません」
エステルはキッチンから二人分の朝食を運んできた。
「おぉぉ、朝から豪華な料理……お肉の香ばしい香りと添えられた新鮮な野菜、極め付けにツルんとしたゼリー風のデザート……思わずヨダレが……ジュルり……‼︎」
「お口に合うか分かりませんが……」
「これは絶対に美味い。一目見れば分かる。さすが、ゲームの主人公は家庭的だ……‼︎」
「ゲーム⁇ 主人公⁇ はて……よく分かりませんが、このくらいならいつでも作れますよ‼︎ ささ、冷めないうちに遠慮なく召し上がってください‼︎」
こんな手料理を毎日食べられるなんて贅沢極まりないって。
主人公パーティにこんな特権があったとは思いもしなかった。
私は出された朝食を数分で食べ終えた。
現実世界ではコンビニ弁当とかカップ麺ばかり食べていたので、誰かの手料理を食すのは久しぶりだ。
「めちゃくちゃ美味しかった‼︎ ご馳走様‼︎」
「お粗末さまでした‼︎」
嬉しそうな表情を浮かべる一方で、エステルが不安な心情を吐露し始める。
「レムナ様に出会うまで苦労しました。わたくしの身なりが他と少し違うので、話しかけても誰も取り合ってくれなかったのです。見慣れない異邦人と思われて怪しまれていたみたいで……まぁ無理もないですね」
この村の人たちはどうにも無愛想というか、過度に排他的というか。
みんな不親切だよね。
こんな可愛らしい子が道を尋ねてるっていうのに‼︎
まぁ私にも同じことが言えるかな。
馬車から降ろされて一人ぼっちになった時、近くを通りすぎる村人は何人かいたけど、見て見ぬふりをして誰も手を差し伸べようとはしなかったわけだし。
「どちらかと言えば私の方が異邦人っぽいし、あんまり気に病まないで。今度村長に文句の一つでも言っといてあげるから‼︎」
「だ、だめですよ‼︎ あの人たちにもきっと部外者を嫌悪する理由があると思いますので」
エステルはともかく、私は罪人として追放された身だからね。
幸運なことに、辺境の地にまで魔女の悪名は広まっていなかったらしく、宿屋にもすんなりと泊まれたから助かったっちゃ助かったが。
ルーカス村は都市部から結構離れた距離にあって、言ってしまえば、隔離されているような村って印象を受ける。
ざっくりと村の様子を見た感じだと、畑を耕していたり、井戸から水を汲んだりと、かなり原始的な光景が広がっている。
魔術師っぽい人間も今の所見かけてないしね。
「そういえば、レムナ様は魔術師の方ですよね⁇」
「えっ、う、うん。一応魔術師やってるよ‼︎」
「その、見たこともない強そうな杖をお持ちのようなので少々気になりまして……あ、もしかして、聞いたらまずかったでしょうか⁇」
「いやいや全然大丈夫……‼︎ まぁ確かに⁈ここら辺じゃ絶対に手に入らない代物ではあるけど……‼︎」
デーモンの杖は魔女レムナが愛用している武器だ。
中盤以降で出現するデーモンキングっていう強力な悪魔系の魔物からしかドロップしない、大変にレアな武器である。
見るからに禍々しい造形の杖だからね。
こんな曰く付きの武器持ってるの悪役キャラしかいないって。
てか、さすがに魔女ってバレたか⁈
「そんな貴重な杖をお持ちとは……やはり、レムナ様は凄腕の魔術師なのですね‼︎」
「ま、まぁね‼︎ そこそこ強い部類に入るんじゃないかな⁈」
「わたくしも魔術師の端くれです。いつの日か、レムナ様のような立派な魔術師になるため、日々精進してまいりたいと思います‼︎」
ば、ばれてないーー⁈
てか、めっちゃ純粋でいい子じゃん‼︎
さすがにゲームの主人公はやる気が違うね。
その混じり気のない金髪と同じくらい、キラキラしたオーラを漂わせている。
むしろ、私の方が見習わないといけないよね。
「ん、杖の横にあるのって、私の着ていたローブじゃない⁇」
そういえば私、いつ着替えたんだっけ⁈
確か昨日、ベッドに入る前にシャワーを浴びて体を洗い流してから、汚いローブを再び着直して爆睡したと思うけど。
「あ、お召し物が汚れておりましたので、洗って一纏めにして置いておきました」
今更だけど、何故かパジャマ姿に変わってる⁈
新しい着替えなんてもちろん用意してないし、買う時間もお金もなかったわけで……。
「わたくしのパジャマのことでしたら心配いりませんよ。長旅になると踏んで、変えの着替えを大量に持ち運んでおりますので、お気になさらないで下さいね‼︎」
やっぱりエステルのお洋服だったのねー‼︎⁉︎
エステルが善意でやってるのは理解してるけど、これは単純に恥ずかしい‼︎
気持ちはもの凄く嬉しい、嬉しいんだけど……この歳でお着替えさせてもらうってのは、流石にショックが大きいんだが⁈
レムナ・フローレンスは二十二歳。
エステル・ミンティアーノは二十歳。
二人とも大人‼︎
子供のお着替えごっこじゃないんだよ⁉︎
「わたくし、何も見ておりませんから……」
と、顔を赤くしながら言う。
思いっきり見ちゃってるじゃん‼︎
見る気満々じゃん‼︎
はぁ、なんか色々なモノを失った気がする……‼︎
アラレもない姿を見られた可能性はさて置き。
ここまで色々と晒したのに、私の素性はまだバレてないようなので一安心。
結局、何から何まで世話になってしまった。
どんな形であれ、冒険に出る前に恩返しをしたいとは思う。
『敵襲、敵襲‼︎ 村の者は避難されたし。繰り返す。敵襲、敵襲…………』
何やら外が慌ただしくなってきた。




