メインヒロインとの遭遇
移りゆく外の景色をひたすら眺めている。
大きな外郭で覆われた城下街の壁が、段々と遠ざかっていく。
華やかで賑やかだった情景から一変、あっという間に静寂へと誘われていく。
私は急に不安な感情に押しつぶされそうになっていた。
時間だけが刻一刻と過ぎていく。
絶え難い沈黙の中に長時間置かれていたせいか、なんだか無性に悲しくなってきたので、我慢できずにシクシクと泣いてしまった。
「なっ……き、貴様……我々をからかっているのか⁈」
「がらがっでなんでいばぜん……‼︎ ぐすっ……」
隣に座る騎士は驚いた表情を浮かべ戸惑っていた。
本来、レムナはこのような些細なことでメソメソするような人間性ではない。
傲慢で、自分勝手で、平然と他者を見下し蔑む女、涙とは無縁、それが性悪魔女の本分だ。
「ごべんなざい〜〜……‼︎」
「むむ……ま、まぁ反省しているのなら、これ以上は何も言うまい……」
付き添いの騎士にハンカチを手渡されたので、お構いなしに鼻をかむ。
『ブシュ〜〜……‼︎』
「ハンカチは貴様にやるから……にしても、演技にしちゃリアルだな……役者顔負けの演技力だ……」
それ以上、騎士は何も言わなかった。
喩え用のない気まずい雰囲気の中、馬車は目的地へと到着した。
頬に涙の跡を残しながら、ぐっすりと眠りこけていた私の肩が揺すられる。
「いつまで寝ている。早く起きろ」
「うーん……」
「着いたぞ。ここが辺境の村、ルーカスだ」
「ここが辺境の村……⁈……ですか⁇」
馬車を降りて辺りを見渡してみると、思っていたよりのどかな風景が目に飛び込んできた。
自然に囲まれた質素な村って感じかな。
ついさっきまで過ごしていた王都とはまるで違う雰囲気で、明らかに貧しそうだ。
「もう悪事を働くんじゃないぞ…………と言っても、その様子じゃ、もう貴様の牙も折れているか」
「頑張って人の役に立つことをします」
「その言葉に嘘偽りはないようだな。では我々は行く。達者でな」
そう言い残して、付き添いの騎士たちは私だけを置いて、早々に馬車で帰っていった。
一人ポツンと取り残された私。
二十代そこそこで犯罪者となり、国を追放され、無一文で辺境の地へと飛ばされた哀れな女だ。
「死んで早々、こんな仕打ちに遭うとは……‼︎」
"なんとかなる"の精神で、今までだって辛い現実世界を乗り越えてきたんだ。
それに、さっき死ぬほど泣いたから色々と吹っ切れたし‼︎
まぁ実際のところ、休みの日はゲームばっかりやって自堕落な生活を送っていたから、ばちが当たった可能性も⁈
「そのだらしなさを差し引いたとしても、会社員からニートに転落とか、ちょっと扱い酷すぎない⁈」
今の私は、実質的にホームレスと大差ない。
ローブの内ポケットに入っていた小汚い巾着袋の中身も、見慣れない硬貨が一枚だけ入っているのみ。
一応、強そうな杖だけは装備してるけどね。
「お金も無し、家も無し、なーんにも無し‼︎」
おまけに服はズタボロ。
誰かに襲われたんじゃないかって心配になるレベルだ。
髪はボサボサで四方八方に跳ね散らかってるし、何日お風呂に入ってないんだっけ⁇
鏡で自分の姿を見た時から分かっていて目を背けていたが、清潔感の欠片もない容姿だよ‼︎
「顔とスタイルは良いのに勿体無いよね」
腰にずっと引っかかっているデーモンの杖だけは高価な代物だが、ゲームと違って使い方も全く分からないし、現時点ではほとんど意味を成していない。
「これからどうやって生きていけば良いのか分からないんだが‼︎」
独り言をぶつぶつ呟いていると、背後からいきなり声をかけられた。
「あの、少々よろしいでしょうか⁇」
(はい、よろしいです‼︎)
やっと普通のやり取りができると思うと、単純に嬉しくて、背筋がピーんとなってしまった。
見るからに怪しい私みたいな部外者に声をかけるなんて、命知らずにも程があるとは思うが。
「すみません。少々聞きたいことがあるのですが」
「は、はい‼︎」
転生してからまともに会話をする最初の人間だから、できるだけ愛想良く接しないとだね。
どうやら困っているみたいだし、私にできることなら何でも協力するつもり。
罪滅ぼしのためにも、人を助けて善行を積んでいこう。
「どうかされましたか…………って、えっ⁈」
「⁇」
びっくりし過ぎて思わずガン見してしまった。
異世界転生してから一番びっくりしたかも‼︎
「えーと、わたくし、この辺りに来るのが初めてなもので、一夜を過ごせる宿屋を探しているのですが、何処かおすすめの場所とかありましたら、教えていただけないかと思いまして…………あの、わたくしの顔に何か付いてたりしますか⁇」
「ご、ごめん‼︎ そういうことじゃなくって……‼︎」
「⁇」
「でも、宿屋の場所なら知ってるよ。あっちの方に比較的大きな建物が見えるでしょ⁇ あそこがルーカス村唯一の寝泊まりできる場所だよ‼︎」
大変育ちの良さそうなその女性は、礼儀正しくペコりとお辞儀をする。
「ご親切にありがとうございます‼︎ 」
「全然気にしないでいいんだけど、もしよろしければ、あなたの名前を教えてもらっても⁇」
その女性は慌てた様子で自己紹介を始めた。
「申し遅れました。わたくし、エステルと申します」
うん、名前を確認する必要すらないんだけどさ。
「出会ってしまった……セブンソーサリーの英雄に……‼︎」
「はて……⁇」
あれだけ動かした主人公の顔を忘れるはずもなく、ゲームのイラストと瓜二つの人間を見せられて、思わず唖然としてしまった。
少し幼い顔立ちをした金髪の美少女は、不思議そうにキョトンとした表情を浮かべている。
「私は……えーと……レムナだよ……‼︎ よろしくね〜……‼︎」
魔女の名前を言うつもりはなかったんだけど、エステルに嘘を付くわけにもいかないし……。
バレたかなぁ……さすがにバレたよねぇ……‼︎
悪役面を隠しつつ、なるべく笑顔を作って、にこやかに……‼︎
「レムナ様、よろしくお願いします‼︎」
(まさかの、ばれてない……⁈)
これが、私とセブンソーサリーのメインヒロインである『エステル・ミンティアーノ』との衝撃的な出会いだった。




