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灰の世界の機巧士  作者: yakumo


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39/40

赤字

 黒瀬へ戻った頃には。


 すでに夜になっていた。


 その日は全員の無事と、大まかな状況だけを協会へ報告。


 詳しい話は翌日に回し。


 僕たちは、それぞれ帰ることになった。


     ◇


 翌朝。


 僕たちは、再び黒瀬探索士協会へ集まった。


 僕。


 迅。


 奏さん。


 蓮司さん。


 由良さん。


 剛志さん。


 千景さん。


 昨日の調査に参加した七人全員。


 会議室の机には。


 端末から送った位置情報や映像が並べられている。


「では、最初から確認します」


 協会職員が端末を操作した。


 地図。


 僕たちが進んだ経路。


 そして。


 犬型を発見した位置。


「犬型は、かなり広い範囲に散らばっていました」


 奏さんが言う。


「人型機巧のすぐ近くを守っていたわけではありません」


 由良さんの索敵機巧が撮影した映像も表示される。


 森の中を単独で移動する犬型。


 別方向でも。


 また一機。


「外側に警戒網を作っていた?」


 職員が聞く。


「その可能性が高いと思います」


 僕が答える。


「犬型は、おそらく周囲の情報を人型機巧と共有しています」


 こちらを見つけた時点で。


 すでに存在を知られたと考えた方がいい。


「前回、久世さんたちが人型の近くまで接近できたのは?」


「岩熊の影響かもしれません」


 岩熊。


 身体には、新しい銃創がいくつも残っていた。


 人型たちに撃たれて。


 北へ追い出された。


 その前に。


 周辺を動いていた犬型を何機か壊していた可能性がある。


「前回だけ、警戒網に穴が開いていたと」


「推測ですけど」


 職員が記録する。


     ◇


 次に表示されたのは。


 人型機巧がいた場所。


 そこから南へ続く足跡。


 途中で。


 足跡は途切れる。


 代わりに。


 太いタイヤ痕。


「人型と犬型の足跡は、この場所で消えています」


 僕が説明する。


「大型車両へ乗った?」


「多分」


「車両そのものは?」


「見てません」


 確認できたのは。


 地面に残った痕跡だけ。


 僕たちは、そのタイヤ痕を追って。


 さらに南へ向かった。


 そこで見つけたのが。


 撃たれた灰猪。


「素材の回収はされていなかった?」


「はい」


 迅が答える。


「撃っただけです」


「探索士なら、普通は何かしら回収するな」


 剛志さんが言った。


 肉。


 革。


 売れるものは多い。


 それを。


 全部そのまま残していた。


「通行の邪魔だったから排除しただけかもしれません」


 奏さんが言った。


 次。


 さらに南。


 森が少し開け。


 何度も車両が通ったことで。


 道のようになっていた場所。


 職員が映像を拡大する。


「かなり通っていますね」


「はい」


 深い轍。


 重なったタイヤ痕。


 邪魔になる倒木だけが処理されている。


 一度。


 一台。


 通っただけではない。


「人型機巧は、以前からこの道を利用していた可能性が高いですね」


「僕もそう思います」


 道は。


 さらに南へ続いていた。


     ◇


 そこから。


 戦闘記録へ変わる。


 白煙を引く対装甲ロケット弾。


 急激に進路を変える黒い四駆。


 横転。


 対装甲ロケット砲を持った人型。


 狙撃銃を持った人型。


 そして。


 二機との戦闘。


「この二機は、撃破を確認しています」


 職員が言う。


「はい」


 一機は迅。


 もう一機は奏さんと迅。


 どちらも。


 完全に停止したことを確認した。


 続いて。


 由良さんの索敵機巧が撮影した近距離映像。


 倒れた人型機巧。


 胸。


 肩。


 腕。


 脚。


 外側を覆う装甲。


「この装甲は、本体ではありません」


 僕が言う。


「取り外せる?」


「はい」


 固定具があった。


 装甲の下には。


 もっと細い人型の骨格。


 駆動部。


 配線。


「人間が防護アーマーを着るのと近いです」


「武器も内蔵ではない」


「はい」


 手で持っている。


 銃。


 狙撃銃。


 対装甲ロケット砲。


「同じ人型でも、装備を変えれば役割を変えられる」


「多分」


 作業。


 運搬。


 警備。


 戦闘。


 同じ身体を。


 用途に応じて使い分けられる。


「かなり汎用性が高いですね」


 職員が呟いた。


     ◇


「問題は、この後です」


 映像が切り替わる。


 僕たちが。


 撃破した人型機巧を確認している。


 その直後。


 後方で爆発。


 僕の黒い四駆。


 続いて。


 奏さんたちの四駆。


 二台とも破壊された。


「攻撃した機巧は確認できていません」


 由良さんが言う。


「索敵機にも映りませんでした」


「少なくとも、撃破した二機とは別の個体が残っていた」


 迅が言った。


「そう考えるしかないね」


 奏さんが続ける。


 僕は。


 映像を見ながら考える。


 二機を倒した。


 当然。


 僕たちは。


 そっちへ意識を向けた。


 近づいて。


 調べた。


 その間。


 車から離れていた。


「……あの二機を使ったんだ」


 僕が言った。


「使った?」


 迅がこちらを見る。


「僕たちの注意を集めるために」


 正面から戦えば。


 人型側にも被害が出る。


 実際。


 すでに二機やられている。


 迅の対物ライフル。


 奏さんの射撃。


 アシュラ。


 そのまま戦い続ければ。


 さらに被害が出る。


「だから、こっちが倒した人型に集まってる間に」


 千景さんが言う。


「別のやつが回り込んだ?」


「多分」


 車へ。


 僕たちが戻る前に。


「それで二台とも壊した」


 迅が呟く。


「追跡を続けられなくするために」


 奏さんが頷いた。


「正面から全員を相手にするより、そっちの方が効率がいい」


 車を失えば。


 追跡は難しくなる。


 実際。


 僕たちは。


 そこで撤退した。


「戦闘すること自体が目的ではない」


 協会職員が言った。


「追跡を止めるために、必要な攻撃だけを行った」


「そんな感じがします」


 最初に遭遇した時も。


 人型は。


 最初から僕たちを追ってきたわけじゃない。


 撤退しようとしていた。


 僕たちが追ったから。


 戦闘になった。


 今回も。


 追跡手段を潰した後は。


 それ以上攻撃してこなかった。


「野良機巧とは、かなり違いますね」


 由良さんが言った。


 犬型による警戒。


 人型による戦闘。


 狙撃。


 対装甲火器。


 大型車両。


 撤退。


 それぞれが。


 役割を持っている。


「今後は、従来の野良機巧とは別の存在として扱います」


 職員が言った。


     ◇


 地図が表示される。


 今回。


 僕たちが到達した場所。


 その先。


 南。


「旧時代の記録では、この先にもいくつか施設があります」


「何の施設?」


 迅が聞く。


「詳細は残っていません。ただ、古い地図では採掘や工業に関連する施設がいくつか確認できます」


 五百年前。


 今。


 何が残っているかは分からない。


 そもそも。


 人型機巧がそこへ向かっているのかも分からない。


「今回は、ここまでです」


 職員が地図を閉じる。


「追加調査は?」


 剛志さんが聞く。


「現時点では行いません」


 敵の総数は不明。


 対装甲ロケット砲。


 狙撃銃。


 大型車両。


 さらに。


 こちらは車を二台失った。


「浪華探索士協会とも情報を共有します。そのうえで今後の対応を検討します」


 今回の依頼は。


 これで終了。


     ◇


 端末に。


 精算内容が届いた。


 依頼報酬。


 危険手当。


 犬型の警戒網。


 人型機巧。


 大型車両。


 戦闘記録。


 新しく得た情報にも。


 買い取り額が付いている。


「結構あるな」


 迅が言った。


「うん」


 普通なら。


 かなりいい依頼だったと思う。


 僕は。


 頭の中で計算する。


 弾薬。


 アシュラの盾。


 消耗品。


 それから。


 黒い四駆。


「……赤字」


「だろうな」


 迅がすぐに答えた。


「かなり赤字」


「車一台だからな」


 買ってから。


 まだそれほど経っていない。


 最新型。


 高かった。


 本当に。


 高かった。


「いくらしたんだ?」


「聞かないで」


「気になるだろ」


「聞かないで」


「分かった分かった」


 迅が笑う。


 笑えない。


 奏さんも。


 似たような顔で端末を見ていた。


「こっちも赤字だね」


「やっぱり?」


「車なくなったから」


 人型を二機倒した。


 新しい情報も手に入れた。


 それでも。


 残骸は回収できず。


 車を失った損失の方が大きい。


 金銭的には。


 完全に赤字だった。


     ◇


 協会を出る。


 駐車場へ行く。


 当然。


 僕の黒い四駆はない。


「……」


「見るなよ」


 迅が言う。


「何を?」


「車があった場所」


「見てない」


「見てたぞ」


「……」


 迅が。


 自分の四駆を見る。


「しばらく、これ使えば?」


「いいの?」


「ああ」


 迅には。


 バイクもある。


「俺がバイク使う日は空いてるし。一緒に探索するなら一台でも問題ないだろ」


「でも」


「次の車買うまででいい」


 助かる。


「ありがとう」


「ただし」


「何?」


「壊すなよ」


「……気をつける」


「その間は何なんだよ」


「絶対とは言えないから」


「言えよ」


     ◇


 迅の四駆で。


 久世工房へ戻った。


 整備区画。


 アシュラ。


 昨日受けた弾痕が。


 盾に残っている。


 肩。


 脚。


 各部。


 点検するところは多い。


「まず盾だな」


 迅が言う。


「うん」


 弾薬も補充する。


 細かな調整も必要。


 それに。


 新しい車。


 すぐ買うか。


 しばらく迅のを借りるか。


「しばらく借りる」


「そうしろ。その方がいい」


 今すぐ。


 また大きな出費をする気にはなれなかった。


 僕は。


 アシュラを見る。


 探索ばかりで。


 しばらく後回しになっていることがある。


「……闘技場」


「そういや」


 迅も思い出したように言う。


「最近、全然行ってないな」


「うん」


「そろそろ行っといた方がいいんじゃないか?」


 人型機巧のことは。


 もちろん気になる。


 南へ続く道も。


 その先に何があるのかも。


 でも。


 追加調査は止められた。


 今すぐ。


 僕たちだけで戻ることもできない。


 だったら。


 他にやることもある。


 まず。


 アシュラを直す。


 それから。


「浪華に行こう」


「闘技場?」


「うん」


 久しぶりに。


 アシュラを。


 闘技場へ連れていく。

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