残された敵
由良さんの索敵機巧が、ゆっくりと森の奥へ進んでいく。
僕たちはその場から動かない。
対装甲ロケット砲を持っていた人型。
狙撃銃を使っていた人型。
二機とも倒れている。
でも。
周囲にまだ別の人型がいる可能性は残っている。
『一機目、動きなし』
由良さんの声。
索敵機巧から映像が送られてくる。
倒木の向こう。
仰向けに倒れた人型機巧。
迅が対物ライフルで撃った方だ。
頭部は大きく壊れている。
少し離れた場所には、筒状の武器。
対装甲ロケット砲が落ちていた。
『次を見る』
索敵機巧が向きを変える。
さらに奥。
木の根元に、もう一機が倒れている。
『こっちも動いてない』
「周りは?」
『今のところ反応なし』
それでも。
すぐには近づかなかった。
前回。
見えない場所から狙撃された。
今回も。
相手が二機だけだったという保証はない。
数分待つ。
銃声はない。
ロケット弾も飛んでこない。
「行こう」
奏さんが言った。
蓮司さんが盾を構えて先頭へ。
その少し後ろをアシュラ。
僕と迅。
奏さん。
最後に由良さん。
全員が周囲を警戒しながら進んだ。
◇
最初に確認したのは。
対装甲ロケット砲を持っていた人型だった。
「完全に止まってる」
迅が言う。
僕はその横へしゃがんだ。
頭部はほとんど原形を残していない。
でも。
胴体。
腕。
脚。
そこはかなり残っている。
胸部を覆う厚い装甲。
肩。
前腕。
太腿。
遠くから見た時は。
それ自体が人型機巧の外装だと思っていた。
近くで見ると違う。
「……これ」
胸部装甲の端を見る。
「どうした?」
迅が聞く。
「外せる」
「装甲が?」
「うん」
固定具がある。
胸部だけじゃない。
肩も。
前腕も。
脚も。
機巧本体へ後から取り付けられている。
蓮司さんも近づいてきた。
「俺たちの防護アーマーみたいなものか?」
「近いと思います」
装甲の隙間を覗く。
その奥。
もっと細い金属製の骨格。
駆動部。
配線。
簡単な外装。
人型機巧そのものは。
見た目ほど重装甲じゃない。
「じゃあ、こいつは」
由良さんが言う。
「機巧が防具を着てる?」
「多分」
僕は頷いた。
武器も同じだ。
腕に組み込まれていない。
手で持っている。
銃も。
対装甲ロケット砲も。
必要に応じて交換できる。
「装備を変えたら、別の仕事もできるってことか」
迅が言う。
「できると思う」
戦う時は。
防具を付けて。
武器を持たせる。
それ以外なら。
全部外せる。
人型という形そのものを。
色々な用途に使っているのかもしれない。
◇
もう一機へ移動する。
こちらは頭部が残っていた。
ヘルメットのような外装。
透明なシールド。
その奥。
人間の顔はない。
金属の骨格。
左右に二つ並んだ光学カメラ。
「近くで見ると、余計に人間じゃないな」
迅が言った。
「うん」
僕は頭部を見る。
「これも外せそう」
「頭まで?」
「多分、保護用」
本来の頭部を覆っているだけ。
人間がヘルメットを被るのと。
かなり近い。
少し離れた場所には。
長い狙撃銃が落ちていた。
迅がそちらを見る。
「前回アシュラを撃ったのも、これかな」
「同じ種類かもしれない」
「持って帰りたいな」
僕もそう思う。
人型機巧。
防具。
武器。
黒瀬へ持ち帰れば。
もっと詳しく調べられる。
その時だった。
後ろ。
遠くから。
爆発音が響いた。
「っ!」
全員が振り返る。
木々の向こう。
炎が上がった。
「車!」
迅が叫ぶ。
僕の黒い四駆。
横倒しになったまま残していた車両から。
炎と黒煙が上がっている。
「伏せて!」
奏さんの声。
直後。
もう一度。
遠くから何かが飛ぶ音。
続いて。
二度目の爆発。
別の場所から炎が上がる。
「私たちの……!」
奏さんの四駆。
森の中へ入れて停めていた車両。
そちらも。
炎に包まれていた。
「まだいる!」
迅が対物ライフルを構える。
でも。
敵は見えない。
「全員、隠れて!」
僕たちは一斉に木々の奥へ入った。
◇
アシュラが盾を構える。
太い木。
岩。
斜面。
使えるものを遮蔽物にする。
迅は木の陰から。
対物ライフルで周囲を見る。
由良さんの索敵機巧も。
低い姿勢で周囲を探る。
「反応は?」
「今のところない」
奏さんが燃えている車の方向を見る。
「まだ別の人型が残ってる」
「多分」
さっき倒した二機とは別。
どこかにいる。
僕たちが車から離れ。
人型機巧の残骸へ集まるのを待っていた。
そして。
僕たちじゃなく。
車を狙った。
「近づかない方がいいな」
蓮司さんが言う。
「また狙われるかもしれない」
「はい」
敵がどこにいるのか。
何機いるのか。
分からない。
今。
燃えている車へ戻る理由はない。
その時。
無線へ雑音が入った。
『――律』
全員が端末を見る。
『聞こえるか?』
「剛志さん!」
『ああ。そろそろそっちに着くと思うんだが――』
「止まってください!」
少し間が空いた。
『……何があった?』
「そのまま来ないでください」
『律?』
今度は千景さん。
「待ち伏せです。車を二台やられました」
『二台?』
「全員は無事」
奏さんが答える。
「でも、まだ敵が残ってる可能性が高い」
『分かった』
剛志さんの声が低くなる。
『どうすればいい?』
「道路から外れてください」
『車ごとか?』
「はい」
剛志さんたちの四駆。
今は。
あれだけが残っている。
「車が入れそうな場所を探して、そのまま森の中に隠してください」
『了解』
「駆動系も止めてください」
『分かった』
「それから」
僕は周囲を見る。
「二人は車の近くで警戒していてください。僕たちがそっちへ戻ります」
『こっちから迎えに行かなくていいのか?』
「来ないでください」
また車を狙われたら。
今度こそ。
移動手段がなくなる。
「そこにいてください」
『……了解した』
◇
通信を終える。
「人型はどうする?」
迅が聞いた。
僕は倒れている二機を見る。
本当なら。
持って帰りたい。
これだけ状態のいい人型機巧を調べられる機会は。
次にいつあるか分からない。
でも。
一機でもかなり重い。
担いで森を移動するようなものじゃない。
アシュラを使えば運ぶことはできる。
ただ。
その間。
盾も。
戦闘も。
大きく制限される。
敵がどこにいるか分からない今。
やるべきじゃない。
「置いていこう」
僕が言った。
迅が少し驚いた顔をする。
「いいのか?」
「持って帰りたいけど」
人型を見る。
「今は無理」
奏さんも頷いた。
「私も賛成」
「残骸より、生きて戻る方が大事だね」
由良さんが言う。
位置は端末へ記録する。
二機。
武器。
周辺の映像。
取れるだけの情報を残す。
安全を確保できた時に。
改めて回収できるかもしれない。
でも。
今じゃない。
「戻ろう」
◇
「道路は避ける」
奏さんが言った。
「はい」
車を狙われた。
なら。
道路を監視されている可能性がある。
敵が南にいるとも限らない。
回り込んでいるかもしれない。
「索敵機を前に出す」
由良さんが操作する。
小型の四脚機巧が。
森の中へ進む。
「アシュラは中央に置きます」
僕が言った。
前。
後ろ。
どちらから攻撃されても。
すぐに盾を向けられる位置。
「蓮司さん、前をお願いします」
「任せろ」
先頭。
由良さんの索敵機巧。
その後ろに蓮司さん。
少し間を空けて奏さん。
僕。
アシュラ。
最後尾に迅。
固まりすぎない。
でも。
互いが見えなくなるほど離れない。
「行こう」
道路から離れる。
森の中。
木々を遮蔽物にしながら。
北へ進んだ。
◇
ゆっくり。
少しずつ。
剛志さんたちの位置へ近づく。
由良さんの索敵機巧が止まるたび。
僕たちも止まる。
周囲を確認。
また進む。
鳥の声。
葉が擦れる音。
自分たちの足音。
それ以外。
何も聞こえない。
銃声はない。
ロケット弾も飛んでこない。
敵の姿もない。
「追ってこないな」
迅が小さく言う。
「分からない」
追ってきていないのか。
それとも。
見ているだけなのか。
僕には判断できない。
ただ。
さっきの攻撃。
人を撃つことより。
車を壊すことを優先した。
その意味が。
少し気になった。
『律』
無線。
剛志さんだ。
『もう近いか?』
「はい」
『こっちからお前らが見えた』
前を見る。
木々の奥。
人影。
大きな身体。
剛志さん。
少し離れて。
千景さん。
二人とも銃を構え。
周囲を警戒している。
そのさらに奥。
木々に隠れるように。
一台の四駆が停まっていた。
無傷。
僕は。
少しだけ息を吐いた。
最後の一台。
少なくとも。
ここまでは守れた。




