再集結
人型機巧との交戦から二日。
久世工房の整備区画で、アシュラの右腕がゆっくりと持ち上がった。
肩を回す。
肘を曲げる。
右手を開いて、閉じる。
端末に表示される数値を確認する。
「もう一回」
アシュラが同じ動作を繰り返した。
異常はない。
「大丈夫そうだな」
隣で見ていた父さんが言った。
「うん」
狙撃で撃ち抜かれた右肩は、装甲だけじゃなく、その内側の駆動部まで壊れていた。
損傷した部品は交換。
周辺も一度ばらして、歪みが出ていないか確認した。
右腕そのものへの被害が少なかったのは助かった。
「しかし、一発でここまでやられるか」
父さんが交換した肩部品を見る。
「相当な威力だったよ」
「弾は?」
「残ってない」
肩を貫通していた。
細かな破片はいくつか残っていたけど、相手が使った弾を特定できるようなものは回収できなかった。
「次は盾で受けろよ」
「見えたらね」
「見えない相手に撃たれたんだったな」
「うん」
「それが一番厄介だな」
僕もそう思う。
前回確認できた人型は三機。
犬型が一機。
でも。
アシュラを撃った狙撃役は、その三機とは別にいた。
つまり、確認できただけでも四機以上。
実際に何機いるのかは分からない。
端末が鳴った。
黒瀬探索士協会からだ。
内容を見る。
「来たみたい」
「浪華か?」
「うん」
協会が要請していた、二組のBランクパーティー。
両方とも黒瀬へ到着したらしい。
◇
黒瀬探索士協会へ入る。
受付で名前を伝えると、すぐに奥の会議室へ案内された。
扉を開ける。
「あ」
先に声が出た。
窓際にいた女性が振り返る。
「律君?」
「奏さん」
白峰奏。
二年前から知っている探索士。
僕より二つ年上。
以前は僕よりずっと先を歩いている人だった。
その奏さんも、今はBランク。
「久しぶり」
「久しぶりです」
僕の後ろから入ってきた迅にも気づく。
「迅君も」
「どうも。久しぶりです」
「二人ともBまで上がったって聞いてたけど、本当だったんだね」
「本当ですよ」
迅が笑う。
奏さんの近くには、見覚えのない男女が二人いた。
「紹介するね」
奏さんが大柄な男を見る。
「真壁蓮司。同じパーティーの前衛」
「真壁だ。よろしく」
「久世律です」
「橘迅です」
蓮司さんは大きかった。
身体そのものも大柄だけど、装備のせいでさらに大きく見える。
重い防護アーマー。
その下には強化外骨格。
背中には銃。
前腕には厚い装甲が付いている。
前に出て戦う人だと、一目で分かった。
「こっちは高瀬由良。索敵担当」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
由良さんの足元には、小さな四脚機巧が座っていた。
犬型より一回り小さい。
武器らしいものはない。
代わりに頭部や胴体には、いくつものセンサーが組み込まれている。
「索敵用?」
僕が聞く。
「そう。光学と集音、それと短距離レーダー」
由良さんが機巧の頭を軽く叩く。
「森だとレーダーだけじゃ使い物にならないことも多いけどね。反応を拾って、近づいて光学で確認する感じ」
「いいな」
思わず言った。
アシュラにもレーダーはある。
でも。
これは最初から索敵だけを目的に作られている。
センサーの配置も違う。
「興味ある?」
「あります」
「律」
迅が呆れたように呼ぶ。
「今それ始めたら長くなるぞ」
「……あとで聞く」
由良さんが笑った。
「いつでも」
「久世」
今度は奥から低い声がした。
そちらを見る。
「……剛志さん?」
「やっぱりお前らか」
大きな身体。
二年前とほとんど変わらない。
その隣には。
「久しぶり」
「千景さん」
剛志さんと千景さん。
二年前。
南西方面の調査で一度だけ組んだことがある。
そして。
一緒に砲脚から逃げた。
「二年ぶりくらい?」
千景さんが聞く。
「それくらいだと思います」
「二人ともBか」
剛志さんが僕と迅を見る。
「早かったな」
「剛志さんたちも」
「俺らはお前らより長くやってるからな」
剛志さんの視線が、窓の外へ向いた。
協会前に待機させているアシュラが見える。
「……また随分変わったな」
「そうですか?」
「見た目は似てるが、前とは別物に見える」
「二年前の部品は、もう一つも残ってません」
剛志さんが眉を上げた。
「一つも?」
「はい」
「それでアシュラなのか?」
少し考える。
「アシュラはアシュラです」
迅が横で笑った。
「律に聞くとそうなるんですよ」
「まあ、久世らしいな」
◇
全員が席につく。
黒瀬協会の職員が端末を操作した。
机の中央に地図が表示される。
「今回、浪華探索士協会を通じて二組のBランクパーティーへ協力を依頼しました」
奏さんたち。
剛志さんと千景さん。
どちらも公開募集ではない。
協会同士で連絡を取り、条件に合うパーティーへ直接依頼したらしい。
「まず、久世さんたちが遭遇した機巧について共有します」
画像が表示される。
人型機巧。
見たことのない防具。
アサルトライフルに近い銃。
ヘルメット。
黒っぽいシールド。
その奥にある金属の骨格と、二つの光学カメラ。
「気味悪いね」
千景さんが呟く。
「遠目だと人間に見えます」
僕が言う。
「俺も最初は探索士だと思いました」
迅が続けた。
次に戦闘映像。
迅の対物ライフルで、一機が撃破される。
残った二機が散開。
一機が射撃。
その間にもう一機が下がる。
下がった機巧が射撃を始める。
今度は前にいた一機が後退。
「交互後退か」
蓮司さんが言った。
「はい」
「ずいぶんまともな動きするな」
「それだけじゃない」
迅が言う。
「この後、後ろにいた別のやつにアシュラが撃たれました」
映像が切り替わる。
アシュラの右肩が撃ち抜かれる瞬間。
奏さんの表情が変わる。
「一発?」
「一発です」
「距離は?」
「正確には分かりません。姿も確認できませんでした」
由良さんが映像を見る。
「狙撃用の機巧が別にいたってこと?」
「多分」
「じゃあ、最低でも四機」
「確認できた範囲では」
実際はもっといるかもしれない。
犬型もいた。
そして。
僕たちは途中で撤退している。
「今回の目的は三つです」
職員が地図へ印を付ける。
「人型機巧が活動している地域の再調査」
次。
「可能であれば、人型機巧を撃破し、その残骸を確保」
最後。
「彼らがあの地域で何をしているのか。その確認です」
「殲滅は?」
剛志さんが聞く。
「敵の総数が不明です。必要ありません」
職員が答える。
「危険と判断した場合は撤退してください」
それには全員が頷いた。
◇
「固まって入るのはやめた方がいいね」
奏さんが地図を見る。
「俺もそう思う」
迅が言った。
「狙撃役がいる。一か所に集まると狙われやすい」
「三方向か」
剛志さんが言う。
地図上に三本の線を引く。
中央。
東。
西。
「中央は僕たちが行きます」
前回通った経路を一番知っている。
「じゃあ私たちは東側」
奏さんが言う。
「俺らは西だな」
剛志さん。
三組で大きく距離を空ける。
ただし。
離れすぎない。
近距離無線が届く範囲。
「相手を確認しても、一組だけで仕掛けない」
奏さんが言う。
「一度共有してから動く」
「了解」
「狙撃役を見つけたら?」
由良さんが迅を見る。
「場所だけ共有してくれればいいです」
迅が答える。
「撃てるなら俺がやります」
「任せていいの?」
「そっちの方が慣れてるんで」
蓮司さんが迅の対物ライフルを見る。
「それ持ったまま森歩くのか」
「外骨格あるんで」
「俺も使ってるけど、そのサイズは持ちたくねえな」
「慣れますよ」
「慣れたくねえよ」
少しだけ空気が緩む。
でも。
今回の相手は分からないことが多すぎる。
「無線合わせよう」
千景さんが端末を出した。
全員が続く。
近距離通信のチャンネルを同じ番号へ合わせる。
「確認するね」
奏さんが少し離れる。
『聞こえる?』
端末から声。
「聞こえてます」
『こっちも』
千景さん。
「問題ない」
迅。
由良さん。
蓮司さん。
剛志さん。
全員の声を確認する。
町との通信が切れても。
この距離なら、互いには連絡できる。
「由良の索敵機は、うちの少し前を進ませる」
奏さんが言う。
「何か反応があれば、まず全員に共有する」
「お願いします」
「アシュラにもレーダーあるんだよね?」
「あります」
「じゃあ中央はそれで」
「はい」
「西は?」
剛志さんが肩をすくめる。
「目と耳だ」
「昔ながらだね」
「壊れにくいぞ」
千景さんが笑った。
◇
翌朝。
黒瀬探索士協会の前に全員が集まった。
装備の最終確認。
弾薬。
予備バッテリー。
応急処置用品。
端末。
近距離無線。
アシュラも問題ない。
右肩も完全に直っている。
「行ける?」
迅が聞く。
「うん」
奏さんたちも準備を終えた。
剛志さんと千景さんも、それぞれの車へ向かう。
僕は黒い四駆の運転席へ乗った。
荷台にはアシュラ。
エンジンをかける。
三組が順番に黒瀬を出る。
向かう先は。
二日前。
人型機巧と遭遇した森。
今度は。
僕たち二人だけじゃない。




