人型機巧
人の形をした機巧。
しかも、一機じゃない。
迅から送られてくる映像には、三機の人型機巧と、その前を歩く犬型機巧が映っていた。
胸や肩。
前腕。
太腿。
見たことのない防具で身体を覆い、手にはアサルトライフルに似た銃を持っている。
「どうする?」
迅が小声で聞く。
僕は端末の映像を見る。
まだ、向こうはこちらに気づいていない。
「何してるんだろう」
「少なくとも散歩じゃないだろ」
「うん」
人型機巧の一機が立ち止まった。
周囲を確認するように頭を動かす。
その少し先で、犬型も足を止めた。
「まずい」
アシュラを少し下がらせる。
でも。
犬型の頭部が、こちらへ向いた。
「気づかれたか?」
迅が言った。
犬型が姿勢を低くする。
それと同時に。
三機の人型が動いた。
速い。
一機が木の陰へ。
もう一機は反対側。
最後の一機が、その場で銃を構えた。
「完全に気づかれた」
「撃つぞ」
迅が言う。
「うん」
対物ライフルの銃口が、一機の人型機巧へ向く。
一瞬。
銃声。
人型機巧の胸部が大きく弾けた。
装甲板が砕け。
背中側へ金属片が飛ぶ。
そのまま後ろへ倒れた。
「一機」
迅がすぐに次を探す。
でも。
残った二機は、もう姿を隠していた。
次の瞬間。
木々の向こうから銃声が連続して響いた。
「来る!」
アシュラが盾を上げる。
何発もの弾丸が木や地面を叩いた。
一発。
二発。
盾にも当たる。
火花が散った。
僕は太い木の裏へ入る。
「普通の銃じゃないな」
迅の声が飛ぶ。
「威力ある?」
「かなり」
犬型が横へ走る。
正面じゃない。
右へ。
「回り込む!」
アシュラを右へ向ける。
背部の銃が動く。
木々の間を走る犬型へ短く射撃。
犬型がさらに奥へ飛び込んだ。
当たったかは分からない。
人型からの射撃が続く。
でも。
妙だった。
「迅」
「なんだ?」
「近づいてこない」
こちらを倒そうとしているなら。
もっと距離を詰めてもいい。
でも人型機巧は、木々を使いながら撃ってくるだけ。
少しずつ。
位置が変わっている。
「……下がってるな」
迅も気づいた。
一機が撃つ。
その間に。
もう一機が後方へ移動する。
移動した機巧が次の遮蔽物へ入る。
そこから射撃。
今度は前にいた機巧が下がる。
「交互に下がってる」
「完全に援護してるな」
人型機巧は逃げているんじゃない。
僕たちを牽制しながら。
順番に後退している。
犬型も、それに合わせて姿を消していく。
「こんな戦い方する野良機巧、見たことある?」
「ない」
僕もない。
犬型。
猪型。
砲脚。
どれも危険だった。
でも。
こんなふうに仲間を援護しながら動く機巧は初めてだった。
「追う?」
迅が聞く。
僕は前を見る。
距離は少し開いた。
でも。
まだ見失ってはいない。
「少しだけ」
「無理すんなよ」
「うん」
アシュラを前へ出す。
盾を構えたまま。
木々の間を縫うように進む。
人型機巧の姿が一瞬見えた。
遠ざかっている。
「アシュラ、追って」
速度を上げる。
その時だった。
一発。
今までとは違う銃声がした。
アシュラの右肩が弾けた。
「アシュラ!」
肩の装甲板が砕け。
内部から金属片が飛ぶ。
右腕が力を失った。
そのまま下へ垂れる。
端末に警告が表示される。
右肩駆動部。
損傷。
右腕。
動作不能。
「止まれ!」
迅の声。
アシュラが左腕の盾を持ち上げる。
直後。
もう一発。
盾に強い衝撃。
表面が大きく抉れた。
「どこから?」
迅が対物ライフルを構えながら周囲を探す。
「見えねえ」
さっきまで撃ち合っていた二機じゃない。
もっと後ろ。
さらに遠い場所。
木々の隙間を通して狙っている。
「狙撃役がいる」
僕はアシュラを下がらせた。
右腕は動かない。
もう一発受ければ。
今度はどこを抜かれるか分からない。
「追う?」
迅が聞く。
少し迷った。
でも。
首を振る。
「やめよう」
「俺もそれがいいと思う」
見えていた三機だけじゃない。
犬型もいる。
後方には狙撃役。
それ以外に何機いるのかも分からない。
しかも。
ここは通信圏外だ。
「戻ろう」
「ああ」
◇
撃破した人型機巧のところへ戻る余裕もなかった。
その周囲が、まだ相手の射程内かもしれない。
位置だけ端末に記録する。
それから。
来た道を戻った。
アシュラは右腕を動かせない。
それでも歩行には問題ない。
僕は何度も後ろを確認した。
追ってくる気配はない。
「追撃してこないな」
迅が言った。
「うん」
「やっぱり、あいつらも俺たちを倒しに来たわけじゃないのか?」
「分からない」
ただ。
あの動き。
あの連携。
偶然じゃない。
誰かが教えたみたいに。
いや。
最初から、そう動くように作られている。
◇
黒い四駆まで戻る。
アシュラを荷台へ乗せる。
右腕が揺れないように固定した。
「肩、ひどいな」
迅が覗き込む。
「中まで抜かれてる」
「直る?」
「直せる。でも、肩周りは交換かな」
「最新型だろ、それ」
「最新型」
「高そうだな」
「高い」
「……悪い」
「迅のせいじゃないでしょ」
「まあ、そうだけど」
僕たちは四駆へ乗り込んだ。
来た道を北へ戻る。
端末が通信圏へ戻ったのは、しばらく走ってからだった。
「繋がった」
「協会?」
「うん」
黒瀬探索士協会へ接続する。
『黒瀬探索士協会です』
「久世律です。指名依頼の報告があります」
『久世さん。お願いします』
「岩熊の移動経路を南へ追いました」
まず。
岩熊が一時的に縄張りにしていたと思われる場所。
痕跡が新しかったこと。
さらに南から移動してきた可能性が高いこと。
順番に伝える。
「それから、武装した機巧と交戦しました」
『機巧?』
「人型です」
少し間があった。
『……人型ですか?』
「はい」
撮影した画像を送る。
防具を身につけた人型機巧。
ヘルメット。
シールド。
その奥の金属骨格。
光学カメラ。
アサルトライフルに似た武器。
『これは……』
「少なくとも三機確認しました。犬型も一機」
「一機は俺が撃破してます」
迅が横から言う。
「残りは?」
『残りはどうなりました?』
「撤退しました」
ただ。
逃げたわけじゃない。
「互いに援護しながら、順番に後退していました」
『連携行動を?』
「はい」
さらに。
「後方に別の狙撃役がいます」
アシュラの損傷記録も送る。
「一発で右肩を撃ち抜かれました」
向こうが黙った。
『撃破した一機は回収できますか?』
「無理だと思います」
『理由を』
「残りがまだ周辺にいます。それに、狙撃役の位置も分かりません」
交戦地点は通信圏外。
普通の回収班を送り込める場所じゃない。
『分かりました。位置情報と戦闘記録を送ってください』
「送ります」
撃破地点。
最後に人型機巧を確認した方向。
アシュラのレーダー記録。
迅の照準映像。
全部送る。
『確認します。それ以上の調査は行わず、帰還してください』
「分かりました」
通信を切る。
迅が助手席へ身体を預けた。
「原因調査だったはずなんだけどな」
「うん」
「余計なの見つけたな」
「たぶん、余計じゃない」
「岩熊?」
「うん」
岩熊に残っていた弾痕。
人型機巧が持っていた銃。
岩熊が移動してきた方向。
全部同じ方角にある。
「あいつらに追い出された?」
「可能性はあると思う」
でも。
まだ分からない。
なぜ人型機巧があんな場所にいるのか。
何をしていたのか。
どこから来たのか。
◇
黒瀬へ戻ると、そのまま協会へ向かった。
すでに僕たちが送った戦闘記録の確認が始まっていた。
会議室へ通される。
前回と同じ職員。
それに。
今回はもう一人。
見たことのない年配の職員がいた。
「まず、無事に戻っていただけて良かったです」
「はい」
「アシュラの損傷についても確認しました」
机の上に、人型機巧の画像が表示される。
「黒瀬探索士協会の記録には、この型の機巧はありません」
「浪華には?」
「現在照会中です」
画像が切り替わる。
人型機巧が後退する様子。
一機が射撃。
もう一機が移動。
次に役割が入れ替わる。
「これは、明らかに連携しています」
「そう見えました」
「さらに狙撃支援まで存在する」
職員が腕を組む。
「久世さん。橘さん」
「はい」
「この件について、お二人だけに再調査を依頼する予定はありません」
迅が少し笑った。
「助かります」
「敵の総数が分かりませんから」
僕も同意する。
次に行くなら。
もっと戦力が必要だ。
「黒瀬だけで集めるんですか?」
僕が聞く。
「いいえ」
職員が首を振った。
「黒瀬を拠点にするBランク以上では、十分な戦力をすぐには揃えられません」
そこで。
「浪華探索士協会へ、支援を要請しました」
「浪華に?」
「はい」
「Bランク以上のパーティーを二組。今回の調査に参加できる者を選定してもらいます」
二組。
僕たちを含めれば。
三つのパーティー。
「人型機巧の排除が目的ですか?」
「それだけではありません」
職員が画像を見る。
「可能なら撃破した機巧を確保すること」
そして。
「この機巧たちが、なぜあの地域にいるのか。それを調査します」
最初は。
一頭の岩熊だった。
それだけのはずだった。
でも。
その先にいたのは。
見たことのない人型機巧。
僕は机の上の画像を見る。
黒いシールドの奥。
二つの光学カメラ。
まるで。
こちらを見返しているようだった。




