二年後
『試合終了』
『勝者――アシュラ』
場内表示が切り替わった。
僕はすぐに端末を開く。
「またそれか」
隣で迅が呆れたように言った。
「最後の回避、少し遅かった」
「Cランク戦で勝った直後なんだけどな」
「勝ったことと、問題があることは別だから」
「二年前から変わんねえなあ」
二年前。
アシュラがFランクで初めて闘技場に立った時も、似たようなことを言われた。
あれから。
二年が経った。
◇
十八歳になった。
僕と迅は、今も探索士を続けている。
依頼を受ける。
探索する。
浪華へ来た時には、アシュラを闘技場へ出す。
戦闘記録を工房へ持ち帰り、調整する。
そして、また戦う。
それを繰り返してきた。
アシュラの闘技場ランクはC。
Fから始めて、E、Dとシーズンを重ねながら上がってきた。
そして。
僕と迅の探索士ランクは、B。
少し前に、二人とも昇格審査を通った。
Bランクになって変わったことはいくつもある。
その一つが。
端末だった。
◇
浪華を出て、黒瀬へ向かう。
町からかなり離れたところで、端末が震えた。
「律」
「うん」
迅も気づいたらしい。
僕は運転したまま、端末を迅へ渡した。
普通なら。
ここでは通信なんて入らない。
一般の端末が使えるのは、基本的に町の中だけだ。
でも。
Bランクへ昇格した時、協会から新しい端末を支給された。
見た目は、それまで使っていたものとほとんど変わらない。
違うのは。
町の外でも、通信できることだった。
「協会から」
迅が画面を見る。
「やっぱ繋がると便利だな」
「うん」
僕たち二人しかいないから、こうして普通に使える。
でも。
この端末のことは、誰にでも話していいわけじゃない。
存在を知っていいのは、基本的にBランク以上。
Cランク以下の探索士や一般人の前では、町の外で通信機能を使わないように言われている。
Bランクへ昇格した時。
そのことは、かなり強く念を押された。
理由も聞いた。
町と町の間には。
一般には知られていない通信網がある。
黒瀬。
浪華。
京洛。
六甲。
それぞれの町にある協会や行政、研究機関。
重要な施設同士が連絡を取るためのものだ。
町と町の間には、通信を繋ぐ中継局が点在しているらしい。
主要な道から外れた場所。
人がほとんど近づかない場所。
正確な位置は、僕たちにも知らされていない。
電源は中継局ごとに確保され、普段の点検は整備機巧が行う。
定期的に人間の整備班も入る。
そして。
重要な設備だから、警備用の機巧も配置されているという。
故障した中継局の修理や、その護衛がBランク以上の依頼として回ってくることもあるらしい。
僕たちの端末は。
その通信網へ接続できるようになっている。
ただし、どこでも使えるわけじゃない。
中継局から離れすぎれば切れる。
山の裏や地下でも繋がらないことがある。
それでも。
町を出れば完全に連絡が途絶えていた頃とは、大きな違いだった。
「内容は?」
僕が聞く。
「帰ったら協会に来いって」
「それだけ?」
「ああ」
迅が端末をこちらへ向ける。
黒瀬探索士協会。
短い文面だけが表示されていた。
――久世律、橘迅。
――帰還後、探索士協会へ来訪されたし。
「指名かな」
「たぶんな」
Bランク以上の依頼は、一般の依頼一覧には出ない。
そもそも人数が少ない。
必要な探索士を協会側が選び、直接話を持ってくる。
「内容くらい送ってくれてもいいのにな」
「外で見られたら困る依頼なのかも」
「ああ。そっちか」
迅が端末を返してくる。
画面を閉じる。
二年前。
僕たちは端末に並んだ依頼を見ながら、次に何を受けるか考えていた。
今は。
協会から呼ばれる側になった。
「帰ったら、そのまま行く?」
「うん」
「アシュラの調整は?」
「明日やる」
「珍しいな」
「依頼の内容が気になる」
「結局、好奇心じゃねえか」
迅が笑った。
僕は前を見る。
黒瀬までは、もう少し。
二年前。
砲脚を前にした僕たちは。
逃げることしかできなかった。
あの頃から。
僕たちは少しずつ力をつけてきた。
探索士Bランク。
闘技場Cランク。
まだ上はいる。
ずっと上に。
それでも。
二年前と同じ場所には、もういない。
端末には。
協会からの呼び出しが残っていた。
Bランクになってから初めて受ける、本格的な指名依頼だった。




