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灰の世界の機巧士  作者: yakumo


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初戦

 闘技場への登録を終えたあと。


 僕は端末に表示された対戦可能な機巧一覧を眺めていた。


 Fランク。


 機巧名。


 戦績。


 装備。


 簡単な構成。


 現在、挑戦を受け付けている機巧だけが並んでいる。


「結構いるな」


 迅が横から画面を覗き込む。


「どれにする?」


「今見てる」


 強そうな機巧。


 変わった武装を持つ機巧。


 動きに特徴がありそうな機巧。


 いくつか見て。


 一機で指を止めた。


 ――ハウンド。


 人型の中量機巧。


 機巧銃。


 小型盾。


 近接用の機巧刀。


 目立った特徴はない。


「これ?」


「うん」


「もっと変なのでもいいんじゃない?」


「最初だから」


「最初だから普通の相手?」


「アシュラの動きを見たい」


 射撃。


 防御。


 接近戦。


 全部できる機巧の方が、今のアシュラを試すには都合がいい。


「勝てそうだからじゃなく?」


「それもある」


「そこはあるんだな」


 僕は挑戦申請を送った。


 あとは相手が受けるかどうか。


     ◇


 返事が来たのは、その日の夕方だった。


 ――挑戦受諾。


 試合は翌日。


「早いな」


「ちょうどよかった」


「緊張してきた?」


「少し」


「律は戦わないけどな」


「だから緊張する」


 闘技場では、試合が始まれば所有者は介入できない。


 命令も出せない。


 戦うのは機巧だけ。


 どう動くか。


 どの武器を使うか。


 どこを狙うか。


 いつ下がるか。


 全部。


 アシュラ自身が判断する。


 僕は、それを見ることしかできない。


     ◇


 翌日。


 浪華機巧闘技場。


 アシュラが試合場へ入っていく。


 反対側から、ハウンドも姿を見せた。


 実際に見ると、一覧で確認した通りだった。


 中量の人型機巧。


 右手に機巧銃。


 左腕に小型盾。


 腰には機巧刀。


 奇をてらったところはない。


 だからこそ。


 最初の相手としてはちょうどいい。


 二機が開始位置につく。


 場内表示が切り替わった。


『試合開始まで――三』


『二』


『一』


『試合開始』


 ハウンドが先に動いた。


 右腕が上がる。


 発砲。


 アシュラは左腕の盾を前へ出した。


 弾が盾を叩く。


 その直後。


 足元の車輪が回った。


「使った」


 僕は思わず呟いた。


 アシュラが横へ滑る。


 正面をハウンドへ向けたまま。


 背中から左の射撃腕が持ち上がる。


 A6。


 発砲。


 ハウンドも盾を上げた。


 弾が小型盾へ集中する。


 それでもハウンドは撃ち返した。


 互いに盾を構えながら射撃する。


 でも。


 位置が違う。


 ハウンドはアシュラを追うために身体を向け直す必要がある。


 アシュラは正面を向いたまま、横へ動ける。


 さらに。


 射撃しているのは背部腕。


 本来の二本の腕は、まだ自由だった。


「これ、相手からしたら嫌だな」


 迅が言う。


「うん」


 ハウンドが射撃を止めた。


 距離を詰め始める。


 銃撃戦では不利だと判断したらしい。


 腰の機巧刀を抜く。


 アシュラはA6の射撃を止めた。


 そのまま盾を前へ。


 ハウンドが走る。


 距離が縮まる。


 五メートル。


 三メートル。


 ハウンドが機巧刀を振り上げた。


 次の瞬間。


 アシュラが横へ滑った。


 機巧刀が空を切る。


 同時に。


 左腕の盾が、ハウンドの身体へぶつかった。


 姿勢が崩れる。


 そこへ。


 アシュラの右腕が伸びた。


 P-3。


 パイルバンカー。


 先端がハウンドの胸部へ押し当てられる。


 炸裂。


 重い金属音が響いた。


 胸部装甲が大きく陥没する。


 ハウンドが後ろへ倒れた。


 動かない。


 数秒。


『試合終了』


『勝者――アシュラ』


「……終わったな」


 迅が言った。


「うん」


 試合時間を見る。


 一分にも届いていない。


「圧勝じゃん」


 迅が笑う。


 僕は端末に表示された戦闘記録へ視線を落とした。


     ◇


 戻ってきたアシュラには、盾にいくつか弾痕が増えていた。


 それ以外に、大きな損傷はない。


「初戦でこれなら十分だろ」


「うん」


 僕は戦闘ログを開く。


「……でも、二回目の横移動で少し姿勢が揺れてる」


「もう始まった」


「背部腕の追従も、一瞬だけ遅れてる」


「圧勝した直後にそこ見る?」


「実際に戦ったから分かるんだよ」


 工房で動かすだけでは見えない。


 相手が動く。


 相手が撃つ。


 アシュラ自身が判断する。


 その状態で初めて出る癖がある。


「G12は使わなかったな」


 迅が言う。


「必要ないって判断したんだと思う」


「弾、高いしな」


「それも設定してある」


「しっかりしてんな」


 高価な弾を、必要のない相手に使う意味はない。


 その判断も問題なく働いていた。


 車輪。


 背部射撃腕。


 盾。


 パイルバンカー。


 全部。


 想像していた以上に噛み合っている。


「次も出る?」


 迅が聞いた。


「出る」


 迷いはなかった。


 戦う。


 記録を取る。


 直す。


 また戦う。


 探索も続ける。


 稼いだ金で装備を整える。


 その繰り返しでいい。


 砲脚を前に。


 逃げることしかできなかった僕たちが。


 いつか。


 あれと戦えるようになるまで。

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