力をつける
砲脚との遭遇から二日。
南西方面の一部は、協会によって危険区域に指定された。
調査依頼も一旦停止。
砲脚については、Aランク以上の探索士を対象に、非公開で討伐依頼が出されたらしい。
当然、僕たちの端末には表示されない。
「Aランク以上か」
迅が呟いた。
「それくらい危険ってことだね」
Cランク四人が遭遇して、二人が死んだ。
普通の銃ではほとんど歯が立たず、僕たちも戦わずに逃げた。
今の僕たちでは、どうにもならない。
「律はどうしたい?」
「どうって?」
「もう南西行くのやめる?」
僕は少し考えた。
「やめない」
「だよな」
「でも、今のまま奥へ行くのは危ないと思う」
砲脚だけじゃない。
もっと奥へ進めば、同じくらい危険な機巧がいるかもしれない。
その時も逃げるしかないのは嫌だった。
「いつか、あれも倒せるくらいにはなりたい」
迅が笑う。
「じゃあ、力つけるしかないな」
「うん」
◇
必要な装備を少し調べただけでも、今の僕たちに足りないものは多かった。
普通の銃では、大型機巧の装甲には通用しない。
徹甲榴弾。
対装甲用の手榴弾。
もっと大きな火力を持つ武器。
僕自身も、拳銃だけでは何もできない。
迅もR20より強力な武器を考え始めている。
アシュラにも、まだ手を入れたいところはいくらでもある。
問題は。
「高いな」
「高いね」
強い装備は高い。
今すぐ全部揃えるのは無理だった。
「結局、稼ぐしかないか」
「依頼は続けよう」
「Dランクになって、前より報酬も上がったしな」
「それと」
僕は工房の奥にいるアシュラを見る。
「闘技場」
「やっぱ出す?」
「うん」
元々、そのつもりで改装した。
それに今は、もう一つ理由がある。
「戦闘データも欲しい」
「ああ」
今のアシュラは、大きく手を入れたばかりだ。
まだ、この状態でまともに戦ったことがない。
「探索中に試すのは危ないから」
「失敗したら俺たちも巻き込まれるしな」
「闘技場なら、実際に戦わせられる」
戦えば記録が残る。
どの動きに無理があるのか。
どこに負荷がかかるのか。
何が使えて、何が足りないのか。
工房へ持ち帰って、それを直せる。
そして。
「勝てば金も入る」
「なるほどな」
迅が笑う。
「依頼と闘技場、両方で稼ぐか」
「うん」
「しかもアシュラも強くなる」
「そのつもり」
「一石二鳥だな」
「もっとあるかも」
「欲張るなあ」
◇
翌朝。
僕たちは黒い四駆にアシュラを載せて、浪華へ向かった。
数時間後。
浪華機巧闘技場。
前に来た時とは違い、今日は出場者用の入口へ車を回す。
アシュラを荷台から降ろし、受付へ向かった。
「新規登録です」
「機巧も一緒ですね。では、こちらで受付します」
職員が端末を操作する。
「機巧名をお願いします」
「アシュラ」
「所有者は?」
「久世律です」
職員が入力していく。
「それと、試合時の表示についてですが」
「はい」
「機巧名と所有者名のほかに、一枠だけ所属先や改装工房、スポンサー名を表示できます。どうしますか?」
少し考える。
「久世工房でお願いします」
「久世工房ですね」
入力が終わる。
画面に表示された。
機巧名――アシュラ。
所有者――久世律。
表示――久世工房。
「新規登録はFランクからになります。このあと実地審査です」
「分かりました」
◇
審査はそれほど時間がかからなかった。
指示された動作を順番にこなし、最後に戦闘を想定した動きを確認する。
「アシュラ、前へ」
走る。
「右」
進路を変える。
「車輪」
足元が滑るように動き、アシュラが横へ移動した。
僕は端末に表示される数値を見る。
まだ少し姿勢が揺れる。
背部腕の追従にも、わずかに遅れがある。
直せそうだ。
「楽しそうだな」
少し離れたところから、迅が言った。
「そう?」
「めちゃくちゃ」
自分では分からなかった。
◇
審査を終え、しばらく待つ。
やがて受付端末に結果が表示された。
――審査合格。
「正式登録になります」
職員が手続きを進める。
画面が切り替わった。
機巧名――アシュラ。
所有者――久世律。
表示――久世工房。
闘技場ランク――F。
「登録完了です」
「ありがとうございます」
僕は画面を見る。
F。
一番下からのスタート。
「ついに出るのか」
迅が横から覗き込む。
「うん」
「目標は?」
「まず戦ってみたい」
「ランクじゃなくて?」
「今のアシュラが、どこまでやれるか知りたい」
「やっぱそっちか」
迅が笑った。
砲脚には、まだ届かない。
今の僕たちでは、戦うことすら難しい。
でも。
依頼をこなす。
闘技場で戦う。
金を稼ぐ。
装備を整える。
アシュラも強くする。
一つずつでいい。
いつか。
あの巨体を前にしても、逃げる以外の選択肢を持てるように。
そのための一歩が、ここから始まる。




