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灰の世界の機巧士  作者: yakumo


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改装

 浪華から黒瀬へ戻った翌日。


 僕は工房の中央に相棒を立たせていた。


 迅の左腕が治るまで、三週間ほど。


 その間、僕にはやりたいことがあった。


 闘技場で見た、シグレとヴァイスの戦い。


 盾を使いながら攻撃し、距離によって武器を使い分ける。


 相棒でも、やってみたい。


「父さん」


「なんだ?」


「相棒、闘技場に出してみたい」


 父さんが作業の手を止めた。


「本気か?」


「うん」


「それで?」


「腕を二本増やしたい」


「……何?」


     ◇


 背中に付ける腕は、ちょうど工房に在庫があった。


 黒瀬機工K-A16。


 軽作業用の細い腕が二本。


 三年ほど売れずに残っていたものだ。


「これ、二本とも譲ってほしい」


「相棒に使うのか?」


「うん」


 父さんは棚の腕を見て、少し考えた。


「三年も置いてる在庫だしな。二本で十六万でいい」


「いいの?」


「その代わり、ちゃんと使えるように仕上げろよ」


「うん。ありがとう」


 重量物を扱うには力不足だけど、銃を支えるだけなら十分だった。


 手は必要ない。


 先端を外して、武器を固定できるように加工する。


 取り付けるのは肩じゃない。


 相棒の背中に増設作業架を載せ、その架台から二本の腕を上へ伸ばす。


 普段は背中に沿って畳み、戦闘時だけ立ち上げる。


 左側には、これまで左腕に付けていた八洲兵装A6。


 右側には、新しく小型擲弾砲を用意した。


 A6は小型の敵や牽制用。


 擲弾砲は大型の野良機巧用。


 直撃すれば装甲そのものにも大きな損傷を与えられる。


 厚い装甲を一発で破れるとは限らないけれど、A6よりずっと大きな火力を持っている。


 A6を外した左腕には、八洲兵装S12中型盾。


 右腕には今まで通り、K-C32の重作業腕とパイルバンカー。


 左右の重量差も、以前より小さくなった。


     ◇


 ただ、背中の腕を二本増やすと、今の制御核だけでは負荷が大きい。


 そこで副制御核を追加した。


 主制御核は、本体の歩行、姿勢、左右の腕を担当。


 副制御核は、背部の二本の腕と射撃制御を担当する。


 最終的な判断は主制御核。


 二つが勝手に動くわけではない。


 そこまではよかった。


 問題は脚だった。


 背部武装。


 副制御核。


 追加バッテリー。


 中盾。


 すべて仮組みして相棒を急停止させると、膝が大きく沈んだ。


「脚が負けてるな」


 父さんが言った。


「うん」


 今までのK-A33は汎用作業用。


 大幅に重くなった相棒には少し力不足だった。


     ◇


 三枝機巧部品店で、中古の脚を探した。


「中量級なら、これだな」


 三枝さんが出してきたのは、浪華機装M-32。


 警備用機巧から外した中古の中量級脚部だった。


 関節も太く、今までの脚より出力が高い。


 足部を見ているうちに、闘技場で聞いた話を思い出した。


 車輪脚の機巧。


「三枝さん」


「なんだ?」


「これ、足裏加工しても大丈夫ですか?」


「何する気だ?」


「タイヤ付けます」


「……やっぱり闘技場で変な影響受けてるだろ」


     ◇


 東雲車輌の小型駆動輪を四つ用意した。


 片足の前後に二輪ずつ。


 足裏に組み込んでも、普通に歩ける位置にする。


 さらに足首の回旋範囲を広げた。


 正面を向けば前後へ走れる。


 足首を横へ向ければ、盾を正面へ向けたまま横へ滑れる。


 そこからは調整の繰り返しだった。


 走らせる。


 止める。


 曲がる。


 横へ動かす。


 背部の腕を展開する。


 姿勢が崩れれば、制御を書き直す。


 左右の重量が合わなければ、バッテリーや弾薬の位置を変える。


 途中、高性能なカメラとレーダーも欲しくなった。


 値段を調べて、やめた。


 レーダーだけでも百万円を超える。


 今回はK-A24の頭部をそのまま使う。


     ◇


 気づけば、三週間近く経っていた。


 最後に、相棒の外装を一度すべて外した。


 黒瀬機工。


 浪華機装。


 八洲兵装。


 東雲車輌。


 いくつものメーカーの部品が組み合わさっている。


 それでも、以前ほどバラバラには見えない。


 全体の配置と重量を考えて、最初から一つの機巧になるように組み直したからだ。


「せっかくだ。塗るか」


 父さんが言った。


「うん」


 全身を、つやを抑えた濃いガンメタルに統一した。


 関節と背部の腕は黒。


 そして左胸に、小さく文字を入れる。


 久世工房。


「うちの名前入れるのか」


「闘技場に出るなら、誰が弄ったか分かった方がいいから」


 父さんが相棒を見る。


「なら、恥ずかしくない仕事しろよ」


「うん」


     ◇


 工房の前。


 完成した相棒が中盾を構える。


 背中に畳まれていた二本の軽量腕が立ち上がった。


 左にA6。


 右に小型擲弾砲。


「前進」


 足裏の四輪が回る。


 相棒が一気に加速した。


「停止」


 姿勢を沈めて止まる。


「右」


 両足首が回転する。


 盾を正面へ向けたまま、相棒が横へ滑った。


「……いい」


「何がいいんだよ」


 後ろから声がした。


 振り返る。


 迅が立っていた。


 左腕の固定具がない。


「治った?」


「今日から探索も再開していいってさ」


 迅は相棒を見る。


 しばらく黙った。


「……俺がいない間に何した?」


「改装」


「腕増えてるけど」


「二本」


「盾もでかくなってる」


「中盾」


「脚も違う」


「浪華機装の中古」


 迅が足元を見る。


「タイヤまで付いてる」


「四個」


「俺が骨一本治してる間に、なんで相棒は腕二本増えて脚まで変わってんだよ」


「闘技場に出してみたくて」


 迅が相棒を見る。


 それから左胸の文字に気づいた。


「久世工房?」


「うん」


 迅が笑った。


「本気じゃん」


「うん」


「まあ、面白そうだけどな」


 僕は端末を取り出した。


「何か依頼探す?」


「三週間ぶりだしな。行こうぜ」


 僕たちは並んで、依頼一覧を開いた。

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