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灰の世界の機巧士  作者: yakumo


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22/40

灰猿

 旧吹田、千里丘陵区域。


 浪華を出てしばらく走ると、整備された道路は次第に細くなり、左右を木々に囲まれるようになった。


 途中からは舗装もひび割れ、その隙間から草が伸びている。


 僕たちは森へ入る少し手前で車を停めた。


 僕の黒い四輪駆動車と、玲奈たちが乗ってきた車。


 二台を路肩の開けた場所に並べる。


「ここから先は歩きね」


 茜がA24の弾倉を確認しながら言った。


 探索服の上には黒っぽい防護アーマー。


 胸、肩、前腕、膝を中心に防護板が取り付けられ、頭には同じ色の防護ヘルメットを被っている。


 玲奈も同じだった。


 形は少し違うが、胸部や肩、前腕を守るアーマーに防護ヘルメット。


 その二人を見てから、僕は迅を見る。


 いつもの探索服。


 たぶん、僕も同じようなものだ。


 茜がこちらを振り返った。


「……ちょっと待って」


「何?」


「あんた達、その格好のままなの!?」


 僕と迅は顔を見合わせた。


「いつもこれだけど」


 迅が答える。


「アーマーは?」


「持ってない」


「ヘルメットは?」


「ない」


 茜の視線が今度は僕へ向く。


「律も?」


「うん」


「……本気?」


「今まではこれで問題なかったけど」


「今日は灰猿だよ?」


 茜が呆れたように言った。


「石投げてくるの知ってるよね?」


「知ってる」


「だったら普通、もうちょっと何か着てこない?」


 迅が肩をすくめた。


「避ければいいだろ」


「その言葉、覚えとくからね」


「なんでだよ」


 茜はため息をつく。


「まあ、今から買いに戻るわけにもいかないし……今日は絶対に無茶しないこと」


「分かった」


「特に迅」


「なんで俺だけ」


「今の発言」


「……はい」


 僕は茜の前腕を覆う防護板を見る。


 そこまで必要なのだろうか。


 この時は、まだそう思っていた。


 迅はR20の弾倉と照準を確認する。


 左腰には警棒。


 僕の隣では相棒が装備を確認していた。


 左前腕にA6。


 右前腕には小盾とパイルバンカー。


 腰には機巧刀。


 その後ろでは、玲奈のシグレが静かに立っている。


 相棒より一回り大きい、細身の戦闘用機巧。


 左前腕には徹甲銃。


 右手には機巧刀。


 右肩には単発式の小型ミサイル発射器まで載っている。


 もちろん、今日の灰猿相手に使う予定はない。


「ミサイル一発いくらすると思ってるの」


 昨日、玲奈はそう言っていた。


 聞かない方がよさそうだった。


「隊列、これでいい?」


 玲奈が聞く。


 僕は端末を確認した。


 画面には、相棒の頭部レーダーから送られてくる情報が表示されている。


「僕と相棒が前。迅と茜が少し後ろ。玲奈とシグレは最後方で」


「前は相棒のレーダーで見るってこと?」


 茜が聞いた。


「うん。森だとかなり距離は落ちるけど、三十メートルくらいなら動いてるものは拾えると思う」


「じゃあシグレは後ろを見る」


 玲奈がシグレを見上げた。


「レーダーはないけど、音には強いから」


「音?」


 迅が聞く。


「集音センサー。足音とか枝が折れる音を拾って、方向と大体の距離を出せる」


「それで見つけるのか」


「そこからカメラを向ける。一回捉えれば、速い相手でもかなり追えるよ」


 僕はシグレの頭部を見る。


 レーダーを積む代わりに、光学系と集音性能を高めているらしい。


「灰猿向きじゃん」


 迅が言う。


「たぶんね」


 玲奈が笑った。


「シグレ、闘技場にも出てるから」


「闘技場?」


 僕は思わず聞き返した。


「うん。今はE」


 迅もシグレを見る。


「探索だけじゃなくて、闘技場にも出してるのか」


「うん。まだEだけどね」


 玲奈はそう言った。


 シグレには、探索だけじゃなく対機巧戦の経験もある。


 だからなのか。


 昨日見た時から、相棒とはどこか違う動きをする機巧だと思っていた。


「行こっか」


 茜の声で、僕たちは森へ入った。


     ◇


 森の中では、全員が固まりすぎないよう十メートルほど間隔を空けた。


 僕と相棒が先頭。


 その後ろ、右側に迅。


 左側に茜。


 最後方に玲奈とシグレ。


 地形に合わせて位置は変わるが、互いが離れすぎないようにだけ意識する。


 誰かが襲われても、一人か二人は援護できる距離だ。


 木の根。


 倒木。


 背の高い草。


 平地とは違って、綺麗な隊列を保つことなんてできない。


 僕は歩きながら端末を見る。


 相棒のレーダーには、木々や地面から返ってくる反応が細かく混じっていた。


 平地よりずっと見づらい。


 それでも。


「止まって」


 僕が手を上げる。


 全員が足を止めた。


 端末の右上。


 一つ。


 小さな反応が動いている。


「右前。二十八メートルくらい」


 迅がR20を構える。


 茜もA24の銃口を上げた。


「地面?」


「違う。たぶん上」


 反応が横へ移動する。


「木の上」


 相棒が頭部を右へ向ける。


 端末の表示をカメラ映像へ切り替える。


 枝。


 葉。


 その奥。


 一瞬だけ灰色の身体が見えた。


「いた」


「どこ?」


「迅から見て右上。二十五メートル。太い枝の上」


 迅が銃口を動かす。


「見えた」


 灰猿が動いた。


 成人男性よりも大きな灰色の身体が、枝から枝へ飛ぶ。


 速い。


 迅がR20で追う。


 一発。


 銃声が森に響いた。


 外れた。


 灰猿は次の木へ飛び移る。


「茜の方!」


「了解!」


 A24が短く火を噴く。


 ダダッ。


 二、三発。


 灰猿の進路へ弾が飛ぶ。


 灰猿が空中で身体をひねり、着地する枝を変えた。


 その瞬間。


 後方にいたシグレの頭部が動いた。


 まだ灰猿は次の跳躍をしていない。


 なのに、左腕の銃口は灰猿ではなく、その先にある枝へ向いている。


「え?」


 僕が呟く。


 灰猿が身体を沈める。


 枝が軋んだ。


 跳ぶ。


 向かった先は、シグレが銃口を向けていた場所だった。


 一発。


 徹甲弾が灰猿の胴を貫く。


 灰色の身体が枝から落ちた。


「一体」


 玲奈が言う。


「今の、動く前から狙ってた?」


「うん」


「どうやって?」


「踏み込みと重心。それと枝の音」


 玲奈が答える。


「シグレはそういうの得意だから」


 僕は倒れた灰猿とシグレを交互に見る。


 相棒はレーダーで見えない相手を探す。


 シグレは、見つけた相手の動きを読む。


 同じ機巧でも、全然違う。


「律」


 迅の声。


 端末を見る。


 今度は二つ。


「左。二体」


 森の中を素早く動いている。


「距離二十二……二十」


「近い!」


 茜が左を向く。


 直後。


 枝が大きく揺れた。


 灰猿が一体、低い枝から飛び出してくる。


 手には石。


「投げる!」


 僕が叫ぶ。


 灰猿の腕が振られた。


 拳ほどの石が飛ぶ。


 茜は左腕を顔の前へ上げた。


 ゴンッ。


 鈍い音。


 石が前腕のアーマーに当たり、横へ弾かれる。


「っ!」


 茜が一歩下がった。


「大丈夫!?」


「平気!」


 そう答えながら、茜は左腕を一度振る。


「ちょっと痺れたけど!」


 その間に迅がR20を撃った。


 一発目が肩。


 二発目が脇腹。


 木から落ちた灰猿へ、茜がA24を向ける。


 短い連射。


 灰猿が動かなくなった。


「二体目!」


 もう一つの反応が動く。


「右へ回ってる!」


 レーダー上の反応が木々の間を横切った。


「迅、右!」


「見えてる!」


 R20が火を噴く。


 灰猿が木の幹を蹴り、射線を外す。


「玲奈の方へ行く!」


 僕が叫ぶ。


 後方。


 枝が折れる音。


 ほぼ同時にシグレの頭部が振り向いた。


「右後ろ、十八」


 玲奈が言う。


 僕が端末を見るより早かった。


 シグレの集音センサーが拾ったらしい。


 頭部カメラがその方向を向く。


 灰猿が枝から飛び降りた。


 着地。


 シグレの頭部が追う。


 灰猿が右へ動く。


 シグレも機巧刀を構える。


 灰猿が飛び込んでくる。


 シグレの刃を避け、そのまま横へ抜けた。


 その先。


 迅がR20を向けていた。


「そこ!」


 一発。


 灰猿の胸を撃ち抜く。


 倒れた。


「三体」


 玲奈が数える。


 森が静かになった。


 いや。


 静かすぎる。


「まだいる」


 僕は言った。


 依頼情報では六体以上確認されている。


 最低でも、あと三体いる可能性が高い。


     ◇


 さらに奥へ進む。


 さっきより慎重に。


 端末から目を離さない。


 相棒も歩きながら頭部を左右へ動かしている。


 その時。


 レーダー画面に複数の反応が現れた。


「止まって」


 四つ。


 いや。


 木々の反射と重なって、はっきりしない。


「複数。前と左右」


「何体?」


「分からない。最低三」


 茜がA24を構える。


「囲みに来てる?」


「たぶん」


 灰猿は獣にしては賢い。


 さっきから正面だけでは来ない。


「後ろもいる」


 玲奈が言った。


 シグレは左後方へ頭を向けている。


「音?」


「うん。一体。二十メートルくらい」


 僕は息を吐く。


「迅、右。茜、左。玲奈は後ろお願い」


「律は?」


「前を見る」


「了解」


 正面。


 二十七メートル。


 近づいてくる。


「来る!」


 木の陰から灰猿が飛び出した。


 低い。


 地面を四肢で走ってくる。


 相棒が僕の前へ出た。


 灰猿が地面から石を拾う。


「相棒!」


 石が飛んでくる。


 相棒が右腕を上げた。


 ガンッ。


 前腕の小盾が石を弾く。


 そのまま前へ出る。


 左前腕のA6が灰猿を捉えた。


 短い連射。


 数発が右脚に入る。


 灰猿の姿勢が崩れた。


 それでも長い腕を振り回し、相棒へ飛びかかってくる。


 相棒が右腕の小盾でその腕を外へ逸らす。


 懐へ入った。


 右前腕。


 パイルバンカーの先端が灰猿の胸へ押し当てられる。


 ドンッ。


 杭が撃ち出された。


 相棒が杭を引き抜く。


 灰猿は、そのまま地面へ崩れ落ちた。


「四体目!」


 僕はすぐに端末へ視線を戻す。


「左、来る!」


 茜のA24が鳴る。


 ダダッ。


 枝の上を走っていた灰猿が進路を変えた。


 だが、その死角。


 別の灰猿が石を投げる。


「茜!」


 今度は避けた。


 拳ほどの石が木の幹に叩きつけられ、木片が飛ぶ。


「二体いる!」


「分かってる!」


 茜が後退しながら射撃する。


「迅、左の低い方!」


「見えた!」


 R20。


 一発。


 灰猿の太腿を抜く。


 速度が落ちた。


 茜が狙う。


 三発。


 灰猿が地面へ倒れた。


「五!」


 依頼達成数。


 でも。


「まだ終わってない!」


 玲奈の声。


 後方。


 灰猿がシグレへ飛びかかっていた。


 シグレが振り向く。


 速い。


 でも、それ以上に反応が早い。


 灰猿が右へ身体を振った。


 シグレは追わない。


 逆に左へ一歩動く。


 次の瞬間。


 灰猿がそちらへ飛んだ。


 読んでいた。


 シグレが身体を入れる。


 灰猿の進路が崩れる。


 地面へ落ちた。


 そこへ玲奈がM9を向ける。


 短い連射。


 灰猿が動かなくなった。


「六体目!」


 その時。


「っ!」


 迅の声。


 振り返る。


 右上。


 灰猿。


 レーダーにも反応が出ている。


 でも、気づくのが遅かった。


 灰猿の手には、すでに石がある。


「迅!」


 腕が振られた。


 石が飛ぶ。


 迅が咄嗟に左腕を顔の前へ出した。


 ゴッ。


 鈍い音。


 迅の身体が横へよろめく。


「迅!」


「大丈夫!」


 そう答えたが、左腕を押さえている。


 灰猿が次の石へ手を伸ばす。


「右上、二十三!」


 僕が叫ぶ。


 茜が即座に振り向いた。


 A24。


 短い連射。


 灰猿が木から飛び降りる。


「シグレ!」


 玲奈の声。


 枝が軋む。


 着地音。


 シグレの頭部がそちらを向く。


 カメラが灰猿を捉えた。


 灰猿が身体を沈める。


 シグレの銃口が動く。


 灰猿が跳ぶ。


 一発。


 徹甲弾が命中した。


 灰猿が地面へ落ちる。


「七」


 玲奈が言った。


 僕は端末を見る。


 反応。


 一つ。


 三十メートルぎりぎり。


 木々の間を遠ざかっていく。


「一体、逃げてる」


「追う?」


 茜が聞く。


 僕は迅を見る。


 左腕を抱えている。


「追わない」


 依頼はもう達成している。


 無理をする理由はない。


「賛成」


 玲奈も頷いた。


 森の奥で、しばらく枝が揺れる音が続いた。


 やがて、それも聞こえなくなった。


     ◇


 数分待った。


 相棒のレーダーに新しい反応はない。


 後方ではシグレが周囲の音を拾い続けている。


「……近くにはいない」


 僕が言う。


 ようやく茜がA24の銃口を下げた。


「終わったぁ……」


 玲奈も息を吐く。


「七体。依頼条件は達成ね」


 僕は端末に記録する。


 成人灰猿、七体。


 五体で依頼達成。


 六体目以降は一体につき十二万円の追加報酬。


 七体なら追加は二十四万円。


 でも、今は報酬より気になることがある。


「迅」


 振り返る。


 迅はR20を右手だけで持っていた。


 左腕は腹の前に抱えている。


「腕、大丈夫?」


「さっきの石な。ちょっと痛い」


「ちょっと?」


 茜が近づいた。


「見せて」


「いや、大したこと――」


「見せなさい」


「はい」


 迅が袖を捲る。


 左前腕が赤く腫れ始めていた。


 茜の表情が変わる。


「……ちょっと待って」


「ん?」


 茜が迅の姿を改めて見た。


 そして、朝のやり取りを思い出したように眉を寄せる。


「だから言ったでしょ!」


「何を?」


「アーマー!」


「あ……」


「『避ければいい』って言ったよね?」


「言ったな」


「あんた馬鹿なの!?」


「そこまで言う!?」


「言うよ! 灰猿だよ!? 拳くらいある石をあの腕力で投げてくるんだよ!?」


 茜が左前腕を迅の前へ突き出した。


 防護板には、さっき石を受けた白い傷が残っている。


「私、これで受けても腕痺れたんだからね!」


「……それ見た」


「見たなら分かるでしょ!」


 迅が黙る。


 茜が今度は僕を見る。


「律もだからね」


「うん」


 僕は相棒を見る。


 右前腕の小盾には、新しい傷が増えている。


「僕は相棒が守ってくれたけど」


「今日は、でしょ」


「……うん」


 相棒が別の灰猿を相手にしていた時もある。


 いつも僕の前に立てるわけじゃない。


 今日は運がよかった。


「俺も相棒欲しいな」


 迅が言う。


「まず防具買いなさい」


「はい」


「あとヘルメットも」


 茜が自分の頭を指で叩いた。


「腕じゃなくて頭だったら、笑えないからね」


 迅の顔から少しだけ笑いが消える。


「……それは確かに」


「とにかく病院」


「え?」


「その腕」


 茜が指差した。


「骨いってるかもしれない」


「動くぞ?」


「動くから折れてないとは限らないって」


 玲奈も迅の腕を見る。


「かなり腫れてきてる。浪華に戻ったら、そのまま診てもらおう」


 迅はしばらく自分の左腕を見た。


「……分かった」


     ◇


 灰猿の死体から討伐証明に必要な記録を取り、回収できる素材だけを積み込む。


 全部を持ち帰るのは無理だった。


 任務記録と位置情報を端末に保存して、僕たちは森を出た。


 浪華へ戻り、町内ネットワークへ接続すると、端末が自動で探索記録を送信した。


 討伐数。


 位置。


 戦闘ログ。


 写真。


 条件達成。


 登録された四人の端末に依頼完了の通知が届く。


 基本報酬百万円。


 追加報酬二十四万円。


 合わせて百二十四万円。


 登録された四人へ均等に振り込まれる。


 一人三十一万円。


 ただ、今日はそれをゆっくり確認している場合じゃなかった。


「病院行くよ」


 茜が言う。


「逃げないって」


「信用ない」


「なんでだよ」


「朝に注意されて、『避ければいい』とか言ってた人だから」


「……それまだ覚えてたのか」


「覚えとくって言ったでしょ」


「言ってたな……」


     ◇


 診断結果は、左尺骨の亀裂。


 つまり骨折だった。


 診察を終えた迅の左腕には固定具が巻かれている。


「ほら!」


 待合へ出てきた瞬間、茜が言った。


「亀裂だって」


「それ骨折だから!」


「分かってるよ」


「避ければよかったんじゃないの?」


「もう許してくれ」


 茜が笑う。


 僕は迅の固定された腕を見る。


「R20、しばらく無理だね」


「律、それ今一番聞きたくない」


「でも無理でしょ」


「正論やめろ」


 玲奈が小さく笑った。


 茜は迅の腕を見てから、少しだけ表情を緩める。


「まあ……本当に、頭じゃなくてよかったよ」


 迅も黙った。


「……悪かった」


「私に謝ることじゃないけど」


 茜が腕を組む。


「二人とも、防具買う気になった?」


「なった」


 僕はすぐに答えた。


「ヘルメットも」


「よろしい」


 迅も頷く。


「俺も買う」


「よし」


 茜が端末を取り出した。


「じゃあ連絡先交換しよ」


「連絡先?」


「私が使ってる防具屋、紹介する」


 僕も端末を出す。


 互いの端末を近づけ、連絡先を登録した。


 迅は右手だけで操作している。


「既製品もあるし、身体とか武器に合わせて調整もしてくれるよ」


「高い?」


 迅が聞く。


「骨より安い」


「……今言われると何も言えない」


 茜が笑った。


「あとで店の場所送るから、明日の十時にそこで待ち合わせね」


「分かった」


「僕も大丈夫」


「今度はちゃんと来てよ。特に迅」


「行くって」


「固定具外して逃げたりしないでよ?」


「俺をなんだと思ってるんだよ」


「防具なしで灰猿に行って、注意された直後に骨折する人」


「長くなってない?」


 無理だと思う。


 僕は迅の腕を見る。


 そのあと、茜の前腕アーマーを思い出した。


 同じ灰猿の投石。


 茜は腕が痺れただけだった。


 迅は骨に亀裂が入った。


 分かりやすい差だった。


 相棒が守ってくれる。


 それでも、いつも相棒が僕の前に立てるわけじゃない。


 自分自身の装備。


 今まで、そこまで真剣に考えていなかった。


 明日は防具を見る。


 そう決めて、僕は端末に追加された茜の連絡先を閉じた。

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