新しい武装
正式探索士になってから、数日。
律は迅と相棒を連れて、三枝機巧部品店を訪れていた。
久世工房が昔から部品を仕入れている店で、律も子供の頃から何度も来ている。
扉を開けると、油と金属の匂いが鼻についた。
棚には腕部、関節、駆動器、外装板。
床には脚部ユニットや胴体フレームが並び、奥には整備済みの中古品や、保証のないジャンク品まで積まれている。
「相変わらずすげえ量だな」
迅が棚を見回した。
「場所は決まってるよ」
「お前にはそう見えるんだろうな」
「決まってるぞ」
店の奥から声が返ってきた。
三枝宗一。
五十歳ほどの、小柄で少し腹の出た男だ。
短く刈った黒髪には白髪が混じり、丸い金属フレームの眼鏡をかけている。
濃紺の作業着の上には、ポケットの多い深緑色のエプロン。
指先には、いつものように油汚れが残っていた。
「久世の坊主か。今日は工房の仕入れか?」
「違う。相棒の装備」
三枝が相棒を見る。
「また増やすのか」
「硬い相手に使える武器が欲しい」
「その前に、今どうなってるか見るか」
三枝が診断端末を相棒へ接続する。
横の画面に、機体情報が並んだ。
《基礎機種:汎用人型作業機巧》
《頭部:黒瀬機工 K-A24》
《胴体:黒瀬機工 K-A27》
《左腕:黒瀬機工 K-A28》
《右腕:黒瀬機工 K-C32》
《脚部:黒瀬機工 K-A30系列・混成》
《制御核:旧型汎用》
《主電源:標準蓄電池×2》
迅が画面を見て眉を上げた。
「ほんとにバラバラだな」
「使えるから」
「それは知ってる」
三枝が相棒の右腕を軽く叩く。
「右腕だけC系か。三十二なら、まだまだ使えるな」
「AとかCって何なんだ?」
迅が聞いた。
「黒瀬機工の系列」
律が答える。
「Aが汎用。Bが精密。Cが重作業」
「数字は?」
「十の位が世代。一の位が、その世代での改良番号」
三枝が画面を指す。
「C32なら、重作業系の三十番代、二回目の改良型ってことだ」
「じゃあ三十二より二十九の方が古い?」
「世代はな。ただ、古い後期型の方が丈夫だったり、部品が出回ってたりすることもある」
「ややこしいな」
「そこが面白い」
「お前はそうだろうな」
三枝が脚部の詳細を開いた。
《右膝駆動:K-A31》
《左膝駆動:K-A28》
《右足首:K-A33》
《左足首:K-A30・補修品》
「脚は相変わらず酷いな」
「調整してる」
「二十番代混ぜて走らせてる時点で、十分おかしいんだよ」
「動いてる」
「お前の親父も同じこと言うぞ」
迅が笑った。
三枝は診断表示を閉じる。
「で、武器だったな」
壁際には、機巧用の装備が並んでいた。
機巧刀。
機巧槍。
機巧斧。
大盾。
前腕へ固定する防楯。
そして、杭の収まった箱型の装置。
その先の施錠棚には、銃器もある。
《腕部機巧銃》
《機巧用重銃》
さらに上には、
《肩部誘導弾装置》
《取り寄せ対応》
の札。
迅が上を見る。
「ミサイルまであるのか」
「金さえあればな」
「いくら?」
「弾の値段まで聞けば諦めがつくぞ」
「じゃあいい」
迅の視線が今度は施錠棚へ落ちた。
《機巧用重銃》
《重量:15.2kg》
《398,000円》
「これ、強い?」
「人間用より大きい弾を使う。硬い変異獣や軽装甲の機巧には効く」
三枝が答える。
迅は値札と銃を交互に見た。
「俺でも撃てるかな」
「一発なら撃てるかもしれんな」
「二発目は?」
「肩次第だ」
「やめとく」
そう言いながらも、迅は名残惜しそうだった。
律は別の棚で足を止めた。
《八洲兵装 P-3》
《機巧用パイルバンカー》
《64,000円》
前腕へ固定し、対象へ押し当ててから杭を打ち込む。
飛び道具ではない。
だが、硬い装甲や甲殻には向いている。
「これにする」
三枝が相棒の右腕を見る。
「C32なら問題ない」
「うん」
「無茶して腕ごと壊すなよ」
「分かってる」
三枝は信用していない顔をした。
律はその隣にあった小型の防楯も手に取った。
《前腕防楯》
《26,000円》
「これも」
迅が見る。
「ちっさくない?」
「ないよりまし」
「まあ、そうだけど」
相棒の身体全体を守れるほどの大きさはない。
それでも、牙や爪が右腕へ飛んできた時に、一枚あるだけで違う。
律は二つをカウンターへ運んだ。
三枝が端末を操作する。
《P-3 パイルバンカー》
《前腕防楯》
《取付部品一式》
《久世工房・取引価格適用》
《合計:76,000円》
「結構安くなるな」
迅が言った。
「久世とは昔から取引してるからな」
三枝が律を見る。
「取り付けは?」
「自分でやる」
「だろうな」
律は支払いを済ませた。
そのまま帰ろうとして、棚の端で足を止める。
黒い箱型の装置が置かれていた。
《パワーバックパック》
《追加蓄電池:2基》
《高出力制御装置内蔵》
《重量:14kg》
「また見つけた」
迅が言った。
「これいい」
「何するやつ?」
「バッテリーを二個追加できる。高出力時は駆動系への供給も増やせる」
三枝が横から口を挟む。
「最大で一・五倍。ただし、腕や脚が耐えられる範囲でだ」
迅が相棒を見る。
「電池四つになるのか」
「うん」
「野良機巧の電池って使えないの?」
「使えないよ」
「なんで?」
「捕獲されたって判断すると、自分で蓄電モジュールを壊すから」
迅が眉を寄せた。
「倒しても?」
「壊れる」
「捕まえても?」
「壊れる」
「……徹底してんな」
三枝が鼻を鳴らした。
「昔からそうだ。生きた蓄電モジュールなんて、まず持ち帰れん」
「もったいねえ」
「敵に使わせないためだろうね」
律はそう言って、もう一度パワーバックパックを見る。
欲しい。
だが今日はすでに七万六千円使っている。
値札を確認する。
「……また今度」
「珍しいな」
「今は買わないだけ」
三枝が笑った。
「なら稼いでこい」
「そうする」
◇
久世工房へ戻ると、律はその日のうちに二つの装備を取り付けた。
右前腕にパイルバンカー。
その外側に小型の防楯。
調整を終え、動作確認をする。
《P-3:正常》
《前腕防楯:装着》
「できた」
迅が相棒の右腕を見る。
「急に物騒になったな」
「そう?」
「今も作業機巧って言い張る?」
「作業機巧だよ」
「はいはい」
迅が近くの椅子に腰を下ろした。
「で、明日は?」
「依頼探す」
律も端末を開いた。
探索士協会の依頼一覧。
正式探索士になってから、選べる依頼の幅は増えている。
《受注可能》
《人数:2名》
《討伐》
条件を設定する。
いくつかの依頼が表示された。
《農地外縁・変異獣駆除》
《街道周辺・害獣討伐》
《旧道・危険生物排除》
迅が横から覗く。
「もうちょい高いのない?」
律は報酬順に並べ替えた。
「ある」
一番上。
報酬額を見て、迅の目が止まる。
《大型変異獣討伐》
《対象:鎧角鹿 一頭》
《推奨ランク:E》
《Fランク二名以上で受注可》
《場所:西街道周辺》
《被害:小型貨物車一台損傷・負傷者二名》
《報酬:72,000円》
「七万二千」
「素材も売れる」
律が詳細を開く。
「結構いく?」
「状態が良ければ」
鎧角鹿。
二百キロを超える大型の変異鹿。
頭部から肩にかけて硬質化した皮膚を持ち、太い角と突進力が危険とされている。
迅が表示を読む。
「推奨Eか」
「F二人なら受けられる」
「どうする?」
律は相棒を見る。
右腕には、取り付けたばかりのパイルバンカー。
硬い相手のために選んだ武器だ。
「受けよう」
「決まり」
律が画面を押す。
《依頼を受注しました》
明日の目的地は、西街道。
新しい武装を試すには、ちょうどいい相手だ。




