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北棟に隔離されていた令嬢、騎士団副団長との出会いで運命が動き出す~隠された秘密と家族の真実~  作者: 冬野 灯
第五章 奪還

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50.王家の罪と決断


「父上!いい加減に…!」

「殿下」



 怒りでさらに一歩踏み出そうとするが、グレイが止める。振り返ると、首を振っている。アレクシスは拳を強く握り黙る。


 グレイは、国王を真っ直ぐに見つめて言う。



「……お気持ちはわかりますが、それは、不可能なのです」

「なぜだ?理屈では可能なはずだ」

「魂結びである事、制御の条件が、信頼と安心だからです。絶対的な安心のもとでしか、魔力の制御は不可能なのです。どちらかが研究材料にされた時点でコントロール不可能です。…そこには恐怖と嫌悪しかありません」


 フレデリックが眉を寄せ、何かを考え込むように顎に手をやる。


 突然、ジークフリートが一歩前に出る。


「私はクラウス君を渡しませんよ、絶対に。研究材料にされて良い人材ではない」

「なに…?」

 

 フレデリックが怒りをのせた鋭い視線を向ける。だがジークフリートは全く怯まない。


「幼い時から我が子同然で可愛がって来ました。さらに言うと、彼は本当に強い。彼のおかげで今の安定が保たれていると言っても過言ではない」

「だが厄災は減っていない!」

「増えてもいないでしょう」


 国王は言葉につまる。


「陛下、陛下のお気持ちは良く分かります。国を守りたい、その気持ちは真のものでしょう。では、十八年前の事故の後、原初の魔喰いなくして国は滅びましたか?」

「……それは…」

「それが答えです。国を守りたいのは国王だけじゃない。全国民が、そうあろうと努力をしている。もちろん騎士団も、出来うる限り戦って守っています。形は一つではない、そうは思いませんか?」


「……」


「私も娘を絶対に渡しません。何があっても全力で守りますし、奪われたなら何度でも取り戻します。おそらく…クラウス殿も」


 アルヴェイン侯爵が決意を見せる。意志の強い眼差しを国王が見つめ返す。するとグレイが静かに言う。



「陛下。……十八年前のあの時、リシェル様の母君は、最後までご自分が犠牲になってでも赤子を守ろうとしていました。今度はその赤子であるリシェル様が同じ目に遭おうとしています。あの過ちは、二度と繰り返してはならない。…陛下自身も、本当は気づいているはずです。研究を、即刻中止してください」





 沈黙。


「だが…今さら出来ん……」

「なぜですか?」

 

 アレクシスが問う。


「研究をやめれば…国が滅びる」

「それは違うと分かったでしょう!」

「そういう意味ではない!………こんなことが公になれば…研究によって一人の女性が犠牲になったなど分かれば、王家の信頼は地に落ちる。だから今さらどうにも出来んのだ…!」

「父上………」


 アレクシスが憐れむような目を向けて、低い声で告げる。


「では、今すぐ国王の座を私に譲ってください。いやーーー、譲ってもらおう」


 突然強い口調で退位を迫るアレクシスに全員が驚き目を瞠っている。


「なにを…」


「おおかたガルディアに脅されでもしたのでしょう。が、そんな人間に治世が出来るはずもない」

「…そうだ。今全てが公になれば王家もただでは済まないと。もう遅い、一連托生ですよ、そう…言われどうしようもなかった。ただ…守りたかったのだ」


 フレデリックは俯く。


「あの事故は明らかに人為的なミスにより起こり、一人の女性が犠牲になってしまった。その反省を活かすわけでもなく再び同じ過ちを繰り返そうとしている。それはもう国王でもなんでもない。国を守るという大義名分を掲げた、ただの保身にまみれた一人の人間だ」



 誰もがアレクシスの方を呆気にとられた顔で見ている。


「本当に悔いているのであれば事実を公表し二度と同じ過ちは繰り返さないと誓う。それが我々王家に出来る事では?違いますか?」



「………違う。私は国のためを………」



 数秒の沈黙。


「そうか…、保身…。確かにそうかもしれぬ…。だが、世の中そんな綺麗事ばかりじゃない…。いずれお前にも分かる時が来るはずだ」

「いいえ、僕はそうは思いません。信頼とは権力で守るものではない。ましてや誰かの犠牲の上で成り立つ信頼など、もはや信頼とは呼べない」


 フレデリックは俯き黙る。


「ガルディア達は事故を起こした罪、隠蔽した罪、国王を脅迫した罪で全員逮捕します。貴方は全ての責任を取って退位してください」


 フレデリックはしばらく俯いて動かない。誰も口を開かず、沈黙だけがその場を支配していた。


 やがて、小さく息を吐く。


「……そうか…」


 フレデリックが小さく呟き、顔をあげてアレクシスをまっすぐに見つめて言う。


「ーーー承知した。お前に時代を委ね王位を譲渡する。全ての咎は私が背負おう。……立派になったな、アレクシス」


 わずかに笑みを浮かべるフレデリックは、威厳のある国王ではなく一人の父親だった。

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