48.受け継がれる想い
グレイが声を絞り出すように続ける。
「あの日、皆が避難していくなかで私はリシェル様の母君の元へ走りました。ですが、暴走を止める術もなく……。泣きながらこの子を頼む、と託されました…。早く逃げて!と…。最後まで、リシェル様を守ろうとして必死でした」
「私の、おかあ、さま……」
夫人が戸惑いがちに口を開く。
「隠していて、ごめんなさいね、リシェル…あの時、赤ちゃんであるあなたを預かったのは、私たちに子供がなかなかできなかったのと…」
「私であれば強力な結界を張れる、という理由から託された。そうしてグレイ殿はリシェルの医師として、お前の成長を見守ってくれていた」
「だから、あんなに詳しかったんですね…」
リシェルが呟いた後苦しそうなアルセウスに気付き視線を戻す。皆もそちらに視線を向ける。
「私は…あの研究を止められなかった。酷いことをしていると知りながら、『国のため』という言葉に流され、一人の女性を犠牲にした。ましてや、幼い命まで……。その罪を、一日たりとも忘れたことはない。だから…」
再びリシェルを見据える。瞳が潤んでいた。
「君が生きていてくれて良かった…!!本当に、良かった…」
アルセウスは下を向き手で目を覆う。
すると突然、
「殿下は悪くありません!」
セレナだ。
皆の注目を浴びた事に気づき、はっと息を呑み、消え入りそうな声で続ける。
「まだ幼い子供に…、何かが出来るわけないです。ましてや、国王様も本気で国を救いたいと思っていたわけですし…」
セレナは胸の前でぎゅっと手を握った。自分もずっと後悔していた。体が弱いせいで姉と会えないこと、姉が一人で苦しんでいるのを知っていて、何もできなかったこと。だからこそアルセウスの気持ちが分かるのだと。
「でも、私も、お姉様が生きていてくれて、本当によかったです…。グレイ様、お姉様を助けてくださり、本当にありがとうございます…」
「私も同じ気持ちです」
クラウスが言う。
「リシェルを救ってくれて、本当に感謝します」
「セレナ、クラウス様…」
リシェルの視界が滲む。温かい言葉に胸がいっぱいになる。そして、
「お父様、お母様……、グレイ様も、本当に、ありがとうございます…」
涙をぽろぽろころしながら言うリシェルに、侯爵もグレイも肩を震わせている。夫人は涙ながらに言う。
「リシェルこそ、生きていてくれてありがとう…」
そんな中、終始温かい目で見守っていたジークフリートがふと気になったクラウス。
「……それで、今日はなぜここに?団長までいらっしゃるとは、珍しい」
クラウスが改めてジークフリートに視線を向ける。
「ん?ああ…私は以前から侯爵とは旧知の仲でな。この家の事情も聞いていた。セレナ殿が体が弱いのを気にしている、と聞いて訓練に参加してみないかと誘ったのも私だ」
ジークフリートが穏やかに答える。
「ちなみにーー、君の押しの強さに困っていることも聞いている」
「なっ…団長!今言う事じゃないでしょう…!」
クラウスの抗議に、誰からかわずかに笑いが漏れる。そんなやり取りにほんの少し場が和んだのだが…、真剣な顔に戻り、ジークフリートが続ける。
「今回のことも、前から相談を受けていた。だから、直接国王と掛け合ったんだが…。なかなか首を振ってくれなかった。今さらどうにも出来ないと…」
ジークフリートがわずかに眉を寄せる。
「ガルディア卿は、王家でもどうしようもできなかったらしい。全てを公にしたら国も一連托生だと、そんな事をしたらますます国が混乱すると脅されていた」
「父王は、君と婚約してまでも秘密を守ろうとした。今度こそ国を守れるかもしれないと、そう言われ夜会に招待して、婚約をさせるつもりだったようだ」
「なんという強引な…」
アルヴェイン侯爵が怒りを滲ませ答える。アルセウスが侯爵を見てわずかに苦しげな表情をし、続ける。
「それを知ったガルディア卿が君を連れ去ったとアルヴェイン侯爵から聞き、もう…限界だった。あれは2度と繰り返してはならない悲劇だ。だから私は、ジークフリート殿にも協力してもらい、王位を剥奪することに決めた」




