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北棟に隔離されていた令嬢、騎士団副団長との出会いで運命が動き出す~隠された秘密と家族の真実~  作者: 冬野 灯
第五章 奪還

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45/50

45.崩壊


 旧王立研究所の地下の一部がパラ、パラ…という音を立て少しずつ崩れ始めた。正確には、魔術構造そのものが『維持不能』に陥っていた。リシェルの封印が解けたことで、施設全体の制御魔術が狂い始めたのだ。


「……馬鹿な」


 ガルディアの声が低く響く。これまで一切崩れなかった理論が、目の前で崩壊していく。魔力は暴走していない。破壊もしていない。ただ、調和している。リシェルの周囲だけ、異様なほど安定していた。


 クラウスが剣を下げずに言う。


「もう終わりだ、ガルディア卿。こんな研究、いつまでも続けられるはずがない」

「終わりだと?」


 ガルディアは冷たく笑う。


「国の管理対象を連れ去るつもりか。どれほど危険か分かっているのか」

「まだ言うのか」


 一歩前へ。


「彼女は管理対象じゃない。ただの人間だ」


 リシェルはクラウスの背中を見ていた。まだ怖い。でも、もう逃げたいとは思わなかった。


 ガルディアは杖を握り直す。


「これ以上話しても無駄のようだ。ならば…力ずくで止めるまでだ!」



 凄まじいスピードで魔法陣が展開されそうになったその時、声が響く。



「そこまでだ!!」



 騎士達の突入とともに、侯爵家と追いついたレオンとセレナ、騎士団の増援が入ってくる。その後に入って来た男の姿に、その場の騎士達全員の背筋が伸びる。


「団長…!!」


 いつも冷静なクラウスが驚いたような声を出し、リシェルもつられてそちらを見る。

 騎士団団長、ジークフリート・ヴァルツェン。



 団長の登場に場が騒めく中、静かな足音が響く。最後に現れた人物を見て、空気が一変する。


 リシェルが首を傾げていると、


「王太子殿下…!」


 クラウスがさらに驚いて言い、リシェルは息を呑む。


 現れたのは、この国の王太子ーー、アレクシス・フォン・アルディア。


「……王太子殿下が、なぜここに…?」


 その隙にセレナが駆け寄ってくる。


「お姉様ー!!」

「セレナ……!」


 リシェルの声が震える。セレナは迷わず駆け寄り、そのまま姉に抱きついた。


「遅くなってごめんなさい……!」

「ううん……来てくれて……」



 言葉が続かない。涙が溢れる。その光景を見て、侯爵夫人が崩れそうになるのを侯爵が支える。


 団長であるジークフリートが短く指示を出す。


「封鎖解除班、研究員拘束」

「了解!」


 状況が一気に逆転する。

 ガルディアは静かに周囲を見渡した。

 そして、初めて理解したように息を吐く。


「……ここまでか」


 ジークフリートがガルディアの前に進む。


「連行する」

「…王命でやってきたことだ」

「その命は、今この瞬間をもって取り消す。私が来た時点で分かっているはずだ」


 アレクシスが低く響く声で言う。


 沈黙。


 ガルディアは数秒、リシェルを見た。

 そしてーー。


「……理解不能だな」


 それだけ言うと、抵抗しなかった。魔術拘束がかけられる。研究員達も次々と拘束されていく。地下施設は完全に制圧された。


 崩落の警告音が鳴り響きだした。


「リシェル、歩けるか。帰ろう」


 リシェルは小さく頷く。


「……はい」


 セレナが手を握る。


「帰りましょう、お姉様」


 その言葉に、リシェルは涙を拭いた。そして、ゆっくりと立ち上がる。もう『檻の中の少女』『化け物』の姿はどこにもなかった。



 が、直後、大きな音をたて本格的に建物が崩れ始める。


「詳しい話はあとだ!ここは崩壊する危険がある。急いで戻ろう」


 侯爵が移転魔法で残った全員を侯爵家へと連れて行った。


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