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北棟に隔離されていた令嬢、騎士団副団長との出会いで運命が動き出す~隠された秘密と家族の真実~  作者: 冬野 灯
第五章 奪還

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42/50

42.化け物


 地下最深部。

 

 そこだけ空気が違った。重く、冷たい。息が詰まるほど濃密な魔力と瘴気が漂っている。リシェルは拘束椅子に繋がれたまま、ぼんやり床を見つめていた。


 どれくらい時間が経ったのか分からない。窓もなく、光も入らない。あるのは冷たい石壁と、魔力封印具の鈍い痛みだけ。


 研究員達は何度も出入りしていた。魔力測定、血液採取、適性検査。そのたびに『珍しい生き物』を見る目を向けられる。


「魔力反応値、やはり異常」

「封印下でこの数値か」

「暴走時の観測が必要だな」

「興味深い……」


 興味深い。その言葉が、何度も胸へ刺さる。リシェルは目を閉じた。やめて、見ないで!

 

 ーー怖い。


 だが誰も止まらない。ガルディアは淡々と記録を眺めていた。


「感情刺激に対する魔力変動が顕著だな」

「はい」

「孤独・恐怖・自己否定で出力増加」

「典型的魔喰い症例です」


 まるで物だ。

 リシェルの喉が震える。


「……やめて」


 小さな声。

 しかしガルディアは視線すら向けなかった。


「次の検査へ移行する」

「……っ」


 研究員達が近づく。

 リシェルは反射的に身体を縮めた。


「嫌……」

「抵抗するな」

「やだ……!」


 恐怖で呼吸が乱れる。封印具が軋む。その瞬間。室内の魔力が大きく揺れた。


「っ!?」


 研究員達が息を呑む。拘束具に刻まれた魔法陣が明滅する。リシェル自身も気づいていた。感情が限界に近い。


 怖い、

 苦しい、

 助けて…


 頭の中に浮かぶのはクラウスだった。抱き締めてくれた温もり。


『君は守られていい』


 優しい声。

 でも、もう来ない。ここには来られない。だって自分はーー


「……化け物、だから」


 ぽろり、と涙が落ちた。研究室が静まり返る。リシェルは俯いたまま呟く。


「やっぱり、そうだったんです……」


 震える声。


「皆を傷つける…怖がらせる……普通じゃない……」


 ガルディアは無言だった。リシェルは笑う。壊れそうな笑みだった。


「クラウス様も…本当は分かってたはずです」


 胸が痛い、苦しい。それでも、どこか納得してしまう。


「だから、もう……」


 涙が止まらない。


「私なんか、助けなくていい……」


ワタシナンカ…、バケモノ、ダカラ…




 指先に銀光が走る。髪が宙に浮き魔力が暴走を始めたその瞬間だった。


 ーー轟音。

 地下施設全体が激しく揺れた。研究員達が悲鳴を上げる。


「な、何事だ!?」

「侵入者です!!」

「地下三層防衛線が突破されました!」


 ガルディアの目が鋭くなる。次の瞬間。遠くから聞こえた。



「ーーリシェル!!」



 声。

 聞き間違えるはずがない。


 リシェルの瞳が大きく見開かれる。


「……え」


 再び轟音がして、壁が砕ける。悲鳴、そして。



「邪魔だ」


 低く怒気を孕んだ声。何人もの魔術師が吹き飛ぶ音。研究員達が青ざめる。


「と、止めろ!!あの男を止めろ!!」

「無理です!!近づいた瞬間斬られーー」



 扉が爆発した。

 凄まじい衝撃に煙があがり、粉塵がまう。



 その中から現れた人影を見た瞬間、リシェルの呼吸が止まる。


 クラウスだった。


 服は裂け、肩には血。それでも剣を握り、真っ直ぐこちらを見ている。その瞳だけで分かった、必死で来てくれた。

 

 ここまで。


「……クラウス、様」


 掠れた声。クラウスの顔が歪む。拘束されたリシェル。怯えた顔、涙。


 その姿を見た瞬間、彼の中で何かが切れた。


「……お前達」



 空気が震える。

 

 研究員達が後退る。

 殺気…、いや、それ以上だった。

 クラウスは静かに剣を構える。



「俺の恋人に、何してる!!!」


 その声に、地下施設全体が凍りついた。


この後もう1話投稿予定です!いよいよラストスパートです。最後まであと少しお付き合いくださいm(__)m

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