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北棟に隔離されていた令嬢、騎士団副団長との出会いで運命が動き出す~隠された秘密と家族の真実~  作者: 冬野 灯
第五章 奪還

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41.潜入


 夜の王都外れ。

 

 旧王立研究所跡地は、月明かりの下で不気味に沈黙していた。巨大な石造建築に朽ちた外壁。閉鎖されたはずの場所が、今は違う。建物全体を覆う結界が淡く光り、周囲には王宮近衛が巡回している。空気そのものが重かった。


「……趣味の悪い場所ですね」


 セレナが小声で呟く。黒い外套に身を包み、物陰から研究所を見上げていた。隣にはクラウス、その後方には選抜騎士達。全員が完全武装だった。クラウスは建物を睨む。


「地下に封印区画がある」

「お姉様はそこに……」

「ああ、おそらく。この感じだと間違いないだろう」


 セレナの拳が震えた。怖い、でも行くしかない。クラウスは短く指示を飛ばす。


「第一班は西側陽動、レオルド、頼むぞ」

「任せとけ、大事な親友の一大事だからな」


「第二班は結界解除補助。そして俺とレオン、セレナ嬢で地下へ向かう」

「了解!」


 騎士達が散開するが、レオンは1人茫然としていた。俺が…?一大事なはずだ。俺でいいのか…?

 戸惑っているとクラウスが近づいて言う。


「レオン」

「はい!」

「お前が白毒蜘蛛に襲われた時の薬、調合したのはリシェルだ」

「は…え!?」

「命の恩人だろ。結婚は申し込ませないがお前の女神だ。ここで恩を返せ」

「………はい!!!必ず!」

「その意気だ」


 

 数秒後。西側で爆音が響いた。


「侵入者だ!」

「迎撃班、急げ!」


 近衛騎士達が一斉に動く。

 その隙を狙って動く。


「行くぞ」


 クラウスが走り出す。セレナ達も続いた。裏口にまわる。既に結界解除班が術式を破壊している。青白い魔法陣が砕け散った。


「突破可能です!」


 クラウスは扉を蹴破る。轟音とともに埃が舞った。

 研究所内部は薄暗い。長い廊下に無数の部屋、どこか薬品臭い、鬱々とした空気。セレナは思わず顔をしかめた。


「……嫌な感じ」

「研究施設だからな」


 レオンが低く答える。だがクラウスは無言だった。視線が鋭い。まるで獲物を探す獣のように。

 


「侵入者発見!!」


 前方から魔術師達が現れた。杖が向けられ、魔法陣を展開しようとするが、


「排除ーー」

 

 最後まで言わせなかった。クラウスが一瞬で踏み込む。銀閃が走る剣撃に魔術師達の杖がまとめて吹き飛んだ。


「ぎゃあっ!?」

「なっ…!」

「騒ぐな」


 圧倒的だった。セレナが若干引く。味方なのに怖い。クラウスは倒れた魔術師の襟を掴んだ。


「地下封印区画はどこだ」

「だ、誰が言うーー」


 べしゃっ。床へ叩きつけられる。


「どこだ」

「ひっ……!」


 目が完全に据わっている。魔術師が涙目で叫んだ。


「地下三層です!!」


 クラウスは即座に手を離した。


「行くぞ」


 再び走り出す。セレナは慌てて追いかける。


「ク、クラウス様ちょっと怖いです…」

「…今更だろ」


 レオンが遠い目をした。


 階段を駆け下りる。

 一階。

 二階。

 地下へ進むほど空気が冷たくなる。嫌な魔力が満ちていた。そして地下三層へ到達した瞬間、セレナの顔色が変わる。



「……何、これ」


 広い部屋の両側に並ぶ檻。

 鎖のついた封印部屋に研究器具、拘束具、魔力測定装置。人体実験そのものだ。空気全体が瘴気に包まれているようで悪寒がする。


 セレナが真っ青になり両手で抱える仕草をする。レオンもあまりのひどさに青ざめたまま絶句している。


「こんなの……!」


 クラウスの表情も消えていた。殺気が増す。その時、廊下奥から声が響いた。


「ここまで来るとは」


 白髪の男、ガルディア卿。その背後には複数の魔術師達。ルブァインもいる。強力な魔法陣が展開される。ガルディアは冷たくクラウスを見た。


「愚かな真似を。副団長がわざわざこんなところにまで入り込んで…何の権限がある」

「リシェルはどこだ」

「…国家管理対象に、随分執着する」

「質問に答えろ」


 空気が震える。

 ガルディアは小さく息を吐いた。


「彼女は危険だ。普通の人間として扱える存在ではない。化け物には大人しくしていてもらわないと困るだろう。皆が危険にさらされる」

「…違う!!」


 クラウスから殺気が溢れ出す。剣を構える。


「お前達が、彼女を化け物に仕立て上げているだけだ!」


 ガルディアの目が細くなる。


「それはただの感情論だ、何の役にも立たない」

「だから何だ」


 一歩、前へ。


「リシェルはひとりの人間だ!感情で守りたいと思って何が悪い」


 その瞬間。

 ガルディアが杖を掲げた。


「排除しろ」


 魔法陣が一斉に輝き、ついに戦闘が始まる。轟音、爆発。地下施設全体が揺れた。レオンもセレナもそれぞれ剣を握り締める。


「お姉様……待ってて」


 必ず。

 今度こそ。

 一人にはしない。

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