表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北棟に隔離されていた令嬢、騎士団副団長との出会いで運命が動き出す~隠された秘密と家族の真実~  作者: 冬野 灯
第四章 平和な日常の終わり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/50

37.強制連行



 その日、朝から空気は異様だった。アルヴェイン侯爵家の使用人達は皆、張り詰めた顔をしていた。騎士達が慌ただしく行き交い、本館には重い沈黙が漂っている。


 リシェルは北棟の窓からその様子を見つめ、不安そうに指を握った。


「……何か、あったのかしら」


 胸騒ぎがする。嫌な予感だった。


 すると突然、北棟の扉が勢いよく開いた。


「お姉様!」


 飛び込んできたセレナの顔は青ざめていた。

 リシェルの心臓が跳ねる。


「セレナ?」

「王宮魔術院が来ています……!」


 空気が凍った。


「え……」

「正門前に魔術師と近衛騎士が……っ、『魔喰いの身柄引き渡しを要求する』って……!」



 リシェルの血の気が引く。


 …ついに来た。

 頭では分かっていた、けれど実際に現実になると、呼吸がうまくできない。


「お父様達が対応しています!でも、向こうは強制執行許可まで持っていて……!」


 リシェルの膝が震える。終わったーー自分のせいで。侯爵家は王宮に逆らうことになる。



「クラウス様は……?」

「騎士団と一緒に正門です!」


 セレナは悔しそうに唇を噛む。


「でも相手は王命を盾にしてる……!」


 


 遠くから怒号が響いた。リシェルの肩が跳ねる。窓の外を見る。本館前の庭園に、大勢の人影。漆黒のローブを纏った王宮魔術師達に武装した近衛騎士。空気そのものが威圧感を放っていた。

 そして中央に立つ白髪の男が、冷淡な声を響かせる。


「これは王命である」


 王宮魔術院筆頭。

 ガルディア卿。

 氷のような目が北棟を見据えていた。


「危険指定個体『魔喰い』を確保する。抵抗は反逆と見なす」



「…娘は物ではない!」


 侯爵の怒声が響く。リシェルは目を見開いた。父が、あれほど感情を露わにするなんて。ガルディアは冷笑した。


「感情論ですな、侯爵」

「貴様……!」

「『魔喰い』は国家管理対象。放置すれば災害となる」

「リシェルは人間だ!!」


 空気が震えた。リシェルの瞳が揺れる。

 父が、自分のために怒っている。…あんなにも必死に。だがガルディアは一切表情を変えなかった。


「感傷は不要です」


 

 魔術師達が一斉に杖を掲げる。侯爵家の騎士達も剣を抜いた。


 殺気。

 一触即発。


「やめて……」


 リシェルの声は震えていた。


「やめて、お願い……」


 自分のせいで戦いになる。それだけは嫌だった。


 その時、


「リシェルは渡さない」


 低く鋭い声。


 クラウスだった。彼は騎士達の前へ進み出る。剣を抜き、ガルディアを睨み据えた。



「彼女に指一本触れてみろ」


 空気が張り詰める。ガルディアが目を細めた。


「……ヴァルク騎士団副団長か」

「答えろ」


 クラウスの声は冷たい。


「何の権利があって、彼女を物みたいに扱う」

「危険だからだ」

「だから閉じ込める?」

「必要ならば」

「ふざけるな!」


 怒気が爆発した。周囲の騎士達が息を呑む。クラウスは剣を構えた。


「彼女は誰より優しい。誰も傷つけたくなくて、自分を犠牲にしてきた」


 その瞳が燃える。


「そんな人間を化け物扱いするならーー」


 一歩、前へ。


「俺は王宮だろうと敵に回す」


 リシェルの胸が大きく揺れた。

 どうして…どうしてこの人は。ここまで自分のために怒ってくれるのだろう。涙が溢れてくる。



 しかし、ガルディアが冷たく手を上げる。


「……確保しろ」


 それを合図に魔術師達が一斉に魔法陣を展開した。空気が爆ぜる。


 轟音。


「っ!!」


 結界が北棟を包み込む。リシェルは息を呑んだ。 


「お姉様!!」


 セレナが叫ぶが遅かった。眩い拘束魔法が、リシェルの身体へ絡みつく。


「きゃあっ!!」


 強烈な魔力圧。身体が動かない。恐怖が一気に押し寄せる。



「や、だ……!」



 魔力が暴れ始める。空気が震動した。窓ガラスが砕け散る。


「リシェル!!」


 クラウスが叫ぶ。だが魔術師達は止まらない。



「対象確保!」

「転移術式、起動!」


 足元に巨大な魔法陣が浮かび上がる。リシェルの視界が歪む。怖い、嫌だ。連れて行かれる、また独りになる!


「クラウス様ーーーーー!!」


 リシェルの絶叫にクラウスが駆け出した。


「リシェル!!」


 だが、光が全てを呑み込む。轟音、爆発的な魔力。そして……



 リシェルの姿は、消えた。


 静寂。



 数秒後。


「くそっ!!!」


 クラウスの剣が地面へ叩きつけられた。凄まじい衝撃音に石畳が砕け散る。彼の顔から、完全に表情が消えていた。


「……副団長」


 騎士が恐る恐る呼ぶ。クラウスはゆっくり顔を上げた。その瞳には。殺気しかなかった。


「……絶対取り戻す」


 低い声だった。だがその場にいた全員が理解する。この男は、本気だ。たとえ王宮を敵に回しても、必ずリシェルを奪い返すと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ