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北棟に隔離されていた令嬢、騎士団副団長との出会いで運命が動き出す~隠された秘密と家族の真実~  作者: 冬野 灯
第四章 平和な日常の終わり

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36.あなたの娘は、愛されている


 リシェルは落ち着かなかった。朝からずっと心臓がうるさい。鏡を見るたび昨夜を思い出してしまう。



『愛してる』

『私も、クラウス様が好きです』



 思い返す度、顔が熱くなった。


「うぅ……」


 ベッドへ突っ伏す。無理だった。恥ずかしすぎる。昨夜の自分はどうかしていたのではないか。いや、でも全部本心でーー



「お姉様?」

「ひゃぁっ!?」


 突然の声に飛び跳ねる。セレナが呆気に取られた顔で扉の前に立っていた。


「え、何ですか今の可愛い悲鳴」

「な、なんでもないです!」

「絶対なんでもありますよね!?」


 セレナは目を輝かせた。その瞬間、彼女は気づく。姉の耳まで真っ赤だ。しかも机には、明らかに何度も読み返した形跡のあるメモ。そしてふわふわしている。分かりやすすぎた。


「……えっ」


 セレナが口元を押さえる。


「まさか」


 リシェルの肩が跳ねた。


「まさかまさかまさか」

「セ、セレナ……?」

「進展しましたね!?!?」

「〜〜〜っ!!」



 図星だった。リシェルは真っ赤になって顔を覆う。セレナは歓声を上げそうになるのを必死で堪えた。


「聞かせてください!全部!!」

「む、無理です……!」

「姉妹に隠し事ですか!?」

「うぅ……!」


 押しに弱い。結局リシェルは昨夜の出来事をぽつぽつ話すことになった。途中で何度も羞恥で止まりながら。だが聞き終えたセレナはーー




「っっっ〜〜〜〜!!!!」


 その場で悶えた。


「せ、セレナ!?」

「何ですかそれぇぇぇぇ!!少女小説ですか!?いやいや少女小説でもそんな完璧な告白ありませんけど!?!?」

「お願いだから静かに……!」

「無理です!!」


 セレナは机を叩いた。


「『守られていい』!? 『愛してる』!?クラウス様、強すぎません!?!?」

「うぅ……」


 リシェルは羞恥で涙目だった。そんな姉を見て、セレナはふっと笑う。

 嬉しかった…本当に。姉は優しくて、でもどこか自分を後回しにする人だった。今もそれは変わらない。

 けれど今は、隣に手を引いてくれる人がいる。姉が幸せそうで。それがたまらなく嬉しかった。


「お姉様」


 セレナはそっと笑った。


「よかったですね」


 その言葉に、リシェルは目を丸くする。そして少し照れながら、小さく笑った。


「……はい」


 その笑顔は、以前よりずっと柔らかかった。



    ◇




 一方その頃、クラウスは侯爵家本館に呼び出されていた。重厚な執務室。机を挟んで向かい合うのはアルヴェイン侯爵。

 

 …空気が重い。侯爵は無言でクラウスを見つめていた。対するクラウスも視線を逸らさない。やがて侯爵が低く口を開く。



「……娘に近づく理由を聞こう」


 試すような声音だった。

 クラウスは静かに答える。


「理由ならあります」

「ほう」

「私はリシェル嬢を愛しています」


 沈黙。

 侯爵のこめかみが引きつった。


「……随分と直球だな」

「誤魔化す必要がありますか?」

「普通はもう少し段階を踏む」

「踏んでいる時間が惜しいので」


 侯爵が頭を抱えた。あまりにも真顔だったからだ。クラウスは続ける。


「私は彼女と正式に婚約したい」


 侯爵の眉が跳ねる。


「本気か」

「本気です」

「……娘は特殊だぞ」

「知っています」

「王宮にも狙われている」

「承知しています」

「命を狙われる可能性もある」

「それでもです」


 何を言っても即答だった。



 侯爵は言葉を失う。クラウスの瞳には、一切の迷いがなかった。打算も同情もない。あるのは、ただ純粋な覚悟。侯爵は長く息を吐いた。


「……リシェルは」


 ぽつりと呟く。


「自分が愛されることに慣れていない」

「ええ」

「だから、おそらくお前を何度も困らせるぞ」

「でしょうね」


 クラウスは苦笑した。


「ですが、そのたび何度でも伝えます」


 真っ直ぐに。


「あなたの娘は、愛されていると」


 侯爵は目を見開く。


 その瞬間。

 父親として、理解してしまった。

 ーーああ、駄目だ。

 この男は本気だ。

 娘を、一生離さない気だ。


 そしてたぶん。リシェルももう、この男なしでは笑えない。侯爵は額を押さえた。



「……頭が痛い」

「許可をいただけますか」

「まだやらん」

「…そうですか」

「いや諦めるなよ」

「当然です」



 ニヤリ。


 侯爵は深くため息を吐いた。


 だが、その表情は、どこか安心していた。北棟に閉じ込められ、孤独に震えていた娘にようやく、『未来』をくれる相手が現れたのだから。


いつも読んでいただきありがとうございます!


ようやく両思いになれました!長かった…

完結まであともう少しだけお付き合いくださいm(__)m

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