31.運命的ですね
轟音がして、屋敷正面広間が半壊した。クラウスの一撃によって、石床が大きく抉れている。
「ぐぁっ!?」
王宮魔術師達が吹き飛ばされた。圧倒的だった。ただ剣を振るっただけで、空間ごと叩き潰される。魔術師たちでは手も足も出ない。
「化け物……!」
「こんなに強いとは…!副団長の過去の戦闘記録以上だぞ……!」
だがクラウスは止まらない。群青の瞳には明確な怒りが宿っていた。クラウスにとってリシェルを狙った、その一点だけで、既に許容範囲を超えていたのだ。
一方、ルヴァインは静かにその姿を見つめていた。
「……興味深い」
彼の目には全く恐怖がなく、むしろ研究者特有の好奇心が滲んでいる。
「感情による出力上昇…しかも理性を維持したまま」
普通の魔術師なら暴走しかねない魔力量だ。だがクラウスは制御している。鳥肌がたった。不敵な笑みを浮かべながら言う。
「貴方も十分、研究価値がありますね」
「気色悪いな」
クラウスは冷たく吐き捨てた。
「人を実験動物みたいに見るな」
「事実でしょう?」
ルヴァインは笑う。
「才能ある者は研究されるべきだ。国家発展のために」
「だから子供を壊したのか」
そういうとルヴァインの笑みが薄れた。
「…十八年前の研究、お前も関わってたな」
「ええ」
あっさり認めた。
「当時はまだ助手でしたが」
王宮魔術院で行われた禁忌研究計画。
『原初の魔喰い』生成実験。
「成功寸前だったんですよ」
ルヴァインの声音は、どこか恍惚としていた。
「あと少しで、人類は新たな段階へ進めたんです。それなのに…」
「その結果、王都半壊か」
「何を仰ってるのですか?いつの時代も、進歩に犠牲はつきものじゃないですか。歴史がそれを証明していますよね?」
クラウスの殺気が膨れ上がる。
「外道が」
ルヴァインは気にした様子もなく鼻で笑う。
「ふ。……ですが、唯一の成果が残った」
その瞬間。
クラウスの目が細まる。
「……リシェルか」
「ええ」
ルヴァインは愉しそうに笑った。
「完璧ではない。だが、限りなく成功例に近い。彼女は奇跡ですよ!暴走を繰り返しながら、人格を維持している」
「黙れ」
「しかも貴方と共鳴まで起こしている。実に興味深い」
ルヴァインの目に狂気を感じた。いや、狂気そのものだ。こいつは狂っている。研究対象を見る目。人として見ていない。
「……絶対に渡さない。お前なんかに研究対象にされてたまるか」
クラウスの声は静かだった。だが底知れない怒りがある。ルヴァインは肩を竦める。
「…残念です、本来なら協力者になれたでしょうに」
「なるわけないだろ!」
「愛は非合理ですね」
その時だった。突然、クラウスの胸が熱くなる。
「……?」
魔力共鳴。
リシェルだ。不安、恐怖、そして、
『助けて』
言葉にならない感情が流れ込んでくる。
クラウスの目が変わった。
「もう時間切れだ」
彼の魔力がさらに跳ね上がる。空気が悲鳴を上げた。
「なっ……!?」
ルヴァインが初めて目を見開く。速い、さっきまでとは別次元。クラウスは一瞬で距離を詰めていた。
「ぐっ……!」
ルヴァインが防御障壁を展開。
だが。
バキィン!!
障壁ごと斬り裂かれる。
「馬鹿な……!」
吹き飛ばされたルヴァインが壁へ叩きつけられる。王宮魔術師達が騒然となった。
◇
「撤退だ!!」
誰かが叫ぶ。
「副団長が本気だぞ!!」
恐慌状態だった。クラウスは剣を構えたまま、冷たく見下ろす。
「次は殺す」
ルヴァインは口元の血を拭ったが、その目には怒りより興奮がある。
「素晴らしい」
狂気じみた笑み。
「やはり貴方は鍵だ」
「……何?」
「リシェル嬢が安定する理由。それは貴方の魔力が『対』だからでしょう」
クラウスが眉を寄せる。ルヴァインは立ち上がりながら続けた。
「原初の魔喰いには、本来“制御核”が必要だった。つまり貴方達は、最初から一対だった可能性がある」
クラウスはぞっとした。空気が止まる。
「……何を言ってる」
「魂結びは偶然じゃないかもしれませんよ?」
ルヴァインは笑う。
「運命的ですね」
言い終わらないうちに転移魔術が発動した。光に包まれながら、ルヴァインは最後に囁く。
「必ず迎えに来ますよ、リシェル嬢」
そして姿が消えた。
◇
静寂が戻ってくる。
クラウスは険しい顔で立ち尽くす。最悪だ。王家は本気でリシェルを狙っている。しかも、自分とリシェルの関係まで把握し始めている。
「……急がないと」
クラウスはすぐ踵を返した。まずは彼女を安心させる。今はそれが最優先だった。




