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北棟に隔離されていた令嬢、騎士団副団長との出会いで運命が動き出す~隠された秘密と家族の真実~  作者: 冬野 灯
第四章 平和な日常の終わり

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29/50

29.始まってしまった戦い


「魔力を…喰らう………?」



 リシェルの声は震えていた。意味が分からない。いや、理解したくなかった。



 グレイは静かに続ける。


「通常の魔喰いは、他者の魔力を吸収する性質です。ですが古い禁書には、それを超える存在について記されています」


 侯爵が険しい顔になる。


「……原初の魔喰い」


 グレイが頷いた。


「魔力、魔術、結界、加護、ありとあらゆる『魔』を喰らう災厄」


 リシェルの身体が小さく震えた。災厄、またその言葉だ。私はやはり、危険な存在なんだ…

     

「違う!」


 クラウスが即座に言った。全員が彼を見る。クラウスはリシェルの肩を抱いたまま、静かに続ける。


「少なくとも、俺はそう思わない」

「副団長……」

「もし本当に危険なら、君はとっくに周囲を壊してるはずだ。今だって、君の周りには誰もいないはず、でもそうじゃないだろ?」


 リシェルは目を見開く。


「でも私は、暴走を……」

「制御出来てる。それに君は、自分より他人を優先して苦しむ奴だ。そんな人間が、ただの災厄なわけない」


 クラウスは本気でそう思っていた。侯爵も静かに頷く。


「我々も同じ考えだ」

「お父様…」

「確かに、お前の力は危険かもしれんが、それだけでお前自身を否定する気はない。お前が私たちの娘であること、それが事実だ」


 侯爵夫人が涙ぐみながら微笑む。


「リシェルは優しい子よ」


 セレナも勢いよく頷いた。


「お姉様は世界一優しいです!」


 リシェルの胸が熱くなる。怖かった…。正体を知れば、皆離れていくと思っていた。でも違う。誰も自分を見捨てない。

     



 その時だった。

 ――ビリッ。

 突然、屋敷全体が震えた。


「!?」


 窓ガラスが軋む。空気が重くなる。クラウスが瞬時に立ち上がる。


「魔力結界が揺らいでる」


 グレイの顔色が変わった。


「外部干渉です!」


 次の瞬間。

 ドォン!! という轟音。遠くで爆発音が響いた。


「敵襲!?」


 セレナが青ざめる。

 執事が飛び込んできた。


「旦那様! 正門が!」

「何があった」

「王宮魔術師達が強制突入を……!」


 空気が凍る。

     

「早すぎる」


 クラウスの目が鋭くなる。召喚命令は三日後だったはずなのに、それを待たずに来た、つまり、王家側は既に強硬手段へ切り替えた。



「リシェル様を確保する気です!」


 グレイが叫んだ瞬間、屋敷全体へ警報結界が走った。赤い光が廊下を染める。


「地下避難路を使え!」


 侯爵が即座に命じる。


「セレナ、皆を連れて逃げろ!」

「嫌です!」


 リシェルが叫んだ。

 全員が驚く。


「私のせいで皆が危険になるのは嫌……!」

「リシェル」

「だったら私が行けば……」

「行かせるわけないだろ」


 クラウスが遮った。

 群青の瞳が真っ直ぐ彼女を見る。


「君を渡さないって言ったはずだ」

「でも……!」

「信じろ」


 低く力強い声。


「今度は絶対、一人にしない」

     

 轟音がして再び屋敷が揺れる。窓の外では魔術光が炸裂していた。王宮魔術師達が結界を破壊している。


「副団長」


 侯爵が剣を抜く。


「頼めるか」

「当然」


 クラウスも剣へ手を掛けた。

 空気が張り詰める。


「グレイ」

「はい」

「地下避難路を開け。リシェルを連れて逃げろ」

「クラウス様!?」


 リシェルが顔を上げる。

 だがクラウスは静かに笑った。


「すぐ追いつく」

「でも危険です……!」

「俺を誰だと思ってる」


 少しだけ不敵な笑み。


「王国騎士団副団長だぞ」


 その姿があまりにも頼もしくて。

 リシェルは胸が締め付けられた。

     



 ドガァァン!!

 ついに正門結界が砕け散る。

 同時に、複数の魔力反応が屋敷へ侵入した。


「来たか」


 クラウスの目が冷える。

 そして彼は静かに振り返り、リシェルへ言った。


「……必ず迎えに行く」


 次の瞬間。

 彼は凄まじい速度で飛び出した。銀光の剣閃。直後、外から悲鳴と衝撃音が響き渡る。

 


ーー戦闘が始まった。


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