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北棟に隔離されていた令嬢、騎士団副団長との出会いで運命が動き出す~隠された秘密と家族の真実~  作者: 冬野 灯
第三章 少しずつ変わる日常

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24/50

24.今度こそ絶対守る


「ここにいろ」



 低い声だった。先ほどまでの甘い空気が一瞬で消える。クラウスは完全に騎士の顔になっていて、リシェルは不安げに彼を見上げる。



「クラウス様……?」

「少し確認してくる」

「っ、危険じゃ……」

「問題ない」



 即答。だがその目は鋭い。明らかに警戒している。クラウスは路地奥へ視線を向けた。気配はまだ微かに残っている。魔力を隠しているが、完全ではない。素人じゃない。



「王宮側か……?」


 嫌な予感がした。ルヴァインか、あるいはその背後かもしれない。既にリシェルへの監視が始まっている可能性が高い。クラウスは舌打ちした。…想定より早い。

     

「絶対にここを離れるな」


 クラウスはリシェルへ念を押す。


「はい……」


 リシェルは不安そうに頷いた。するとクラウスは一瞬だけ迷い、彼女の頬へ軽く触れる。


「すぐ戻る」


 それだけ言って路地奥へ駆けた。


「っ……」


 リシェルは胸を押さえる。

 さっきの…


 『好きだから』


 あれは聞き間違いじゃない。本当に?でも、そんな都合のいいことがあるのだろうか。自分みたいなーーー



     

 一方。クラウスは人気のない裏路地を駆けていた。気配を追う。だが相手もかなり慣れている。


「ちっ」


 屋根の上。一瞬だけ黒ローブが見えた。クラウスは即座に跳躍するが、黒ローブの男は煙のように姿を消した。



「転移魔術……?」


 あり得ない。個人携行型の短距離転移など高度すぎる。王宮魔術院クラスの技術だ。クラウスの顔が険しくなる。間違いない。相手は本格的に動いている。

     

「……逃したか」



 クラウスは低く吐き捨てた。すると地面に何かが落ちているのが見えた。黒い紋章だった。拾い上げた瞬間、彼の目が細くなる。



「魔術院特務部隊」



 ーー最悪だ。

 王宮騎士団ではなくもっと厄介な連中。研究対象の確保を専門とする、王宮直属の特殊部隊。


「ルヴァイン……!」


 クラウスは奥歯を噛み締めた。もう『監視』段階ではない。確保の準備に入っている。




     ◇




 その頃。リシェルは路地で一人待っていた。不安で不安でたまらない。胸がざわざわする。



「ーー見つけた」


 リシェルが振り返ると、知らない男が立っていた。黒い外套、無表情。胸元には銀の紋章。リシェルの身体が強張る。



「だ、誰……」


「対象確認」


 男は感情のない声で呟く。


「特殊個体、魔力反応一致」


 リシェルの顔が青ざめた。逃げなきゃ!本能が叫ぶ。だが恐怖で身体が動かない。


「確保する」


 男が一歩踏み出した瞬間。


「触るな」


 鋭い声が響いた次の瞬間、轟音がしてクラウスの剣撃が男を吹き飛ばす。


「クラウス様!」


 リシェルの顔がぱっと明るくなる。クラウスは彼女を背に庇った。群青の瞳が氷のように冷えている。


「魔術院特務部隊が、何の権限で動いている」


 男はゆっくり立ち上がった。


「王命だ」

「正式書類は?」

「…口頭命令だ」

「話にならん」


 クラウスの殺気が膨れ上がる。周囲の空気が震えた。

     

「対象は危険因子、速やかな保護が必要だ」

「保護?」


 クラウスが嗤った。


「鎖付きの檻に入れることを、随分綺麗に言うんだな」

「国家のためだ」

「知るかそんな事。関係ない」


 男が魔力を展開するが、クラウスの剣圧が空気ごと叩き潰した。凄まじい威圧。男の顔色が変わる。


「……副団長」

「失せろ。次、こいつに近づいたら容赦しない」


 完全な敵意だった。

 男はしばらく沈黙し――やがて後退る。


「……報告する」


 そう言い残し、姿を消した。しばし静寂が訪れる。リシェルはずっと震えていた。クラウスが振り返る。



「怪我は?」

「……だ、大丈夫です」


 だが声が震えている。

 クラウスはそっと彼女を抱き寄せた。


「怖かったな」


 その一言で、リシェルの涙が溢れた。


「っ……」

「大丈夫だ」


 クラウスは優しく背を撫でる。


「今度こそ、絶対守る」


 リシェルは彼の胸へ顔を埋めた。恐怖が少しずつやわらいでいく。不思議とこの腕の中だけは安心出来る。




 ーーもう後戻りは出来ない。王宮を敵に回してでも、この少女を守り抜く。

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